式を駆る者 -オカルト探偵あきつ丸-

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次創作です。 今回は揚陸艦あきつ丸のお話。 オカルトに宗教、そして温泉宿といろいろ詰まった一作です。まるゆもあるよ! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

なお旅館の客は作戦の邪魔になるので、憲兵が大なり小なり働きかけてキャンセルになるよう仕向けていた。可愛そうだとは思うが、まああの旅館も検挙対象なのだからあきつ丸が気にしてもしょうがないだろう。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:11:46
竹村京 @kyou_takemura

数分歩き、立ち止まったのは崖のそば、砂浜ではなく岩場になっている海岸だ。 「ようやく来てくれましたか、あきつ丸どの」 闇の中から現れたのは黒い外套と軍帽の男だ。 「そりゃあ、あれだけ催促されれば仕方ないでありますからな」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:21:13
竹村京 @kyou_takemura

冗談ではなく、本気で不満たらたらの様子である。 「あきつ丸どの、こっちが本命で宿泊は役得だという事は忘れないでいただきたい」 「大月は頭が固いでありますな」 大月と呼ばれた男は皮肉を無視して話を進める。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:22:48
竹村京 @kyou_takemura

「カ号の偵察によればあの岸壁に洞窟があり、その中にあれが隠されているようです」 「隠れて、ではなく隠されて、でありますか」 「ええ、睨んだ通りでした。人払いは済んでいますが、そのせいで突入係はあきつ丸どのと私だけです」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:25:56
竹村京 @kyou_takemura

「はあ、憲兵隊はけちであります。せめてもう一分隊は欲しいであります」 「不満ですか」 「人が多ければ楽ができるでありますからな」 「では、楽をしなければ二人でも充分と。さすがあきつ丸どのです」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:28:03
竹村京 @kyou_takemura

状況の確認を続ける。カ号の報告はあきつ丸と大月の双方に行っているが、意識の擦り合せのためだ。 洞窟の中にいるのは一匹と12人。残りは突入に合わせて別動隊が検挙する手筈になっている。敵方の武装は精々が刃物程度だが、一匹の方は十分注意すること。突入時刻は0000時。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:29:41
竹村京 @kyou_takemura

「そろそろでありますな。では始めるであります」 言うと、あきつ丸は手を組み合わせて目を瞑る。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:32:11
竹村京 @kyou_takemura

「おんあにちまりしえいそわか」 摩利支天竜王の神言である。陽炎を神格化したものである摩利支天は軍神であるとともに隠形の術の守護神でもある。この神言を唱えることで敵に気付かれずに行動できるようになるのである。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:36:26
竹村京 @kyou_takemura

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前、大」 一字ずつ印を組んで九字を唱え、最後に「大」の字を剣指で書く。九字の後の大は怨敵に立ち向かう時に一切無事であるとされる字である。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:38:14
竹村京 @kyou_takemura

それが済むと二人は岸壁に穿たれた洞窟に向かう。その途中、あきつ丸はよろめくような足取りになる。左足を前に出し、右足を出し、左を右に揃える。次に右を前に、左を前に、右を左に揃える。このようなものだ。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:40:05
竹村京 @kyou_takemura

禹歩である。六十四卦で最もバランスの取れた水火既済を表した歩法であり、地固め、魔除けの意味を持つ。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:42:32
竹村京 @kyou_takemura

大月の方は外套の中から二本の棒を取り出し、結合させて六尺ほどの棒にしていた。軍刀と拳銃も携帯しているが、相手は人なのでできるだけ殺さずに検挙するためだ。とは言っても、鉄芯が入ったこの棒で殴られれば骨の一本や二本は簡単に折れる。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:44:09
竹村京 @kyou_takemura

洞窟の入り口に近付くと、中からかすかな明かりが漏れているのが分かった。耳を澄ますと読経か祝詞のような間延びした声も聞こえる。 洞窟は海から繋がっており、小さなモーターボートならそのまま乗り入れられるようになっていた。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:45:45
竹村京 @kyou_takemura

「一人も逃すな、であります」 「無論です」 あきつ丸が先行して洞窟に入っていく。身を隠さず、無造作な足取りである。ぶつぶつとこちらも祝詞のようなものを唱えている。 「あんたりをん、そくめつそく、びらりやびらり、そくめつめい……」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:47:28
竹村京 @kyou_takemura

その後に続く大月は長いインシュロックの袋を開けてポケットに突っ込み、棒を構えている。 「ざんざんきめい、ざんきせい、ざんだりひをん……」 灯りが強くなり、壁に人の陰が揺らめくのが見えてくる。さらに進むと粗末な祭壇の前で礼拝する人々がいた。その数12人。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:49:26
竹村京 @kyou_takemura

そしてその奥、水路に鎮座しているのは陸で見られてはいけないものだった。 深海棲艦。軽巡ホ級と呼ばれる人類の敵である。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:51:12
竹村京 @kyou_takemura

二人は摩利支天の加護により礼拝を続ける者たちのすぐ後ろまで気付かれずに歩を進めた。 「ぜつめい、そくぜつ、うん、ざんざんだり、ざんだりはん!」 ぱぁん! あきつ丸が大きく拍手をすると、8人が雷に打たれたように硬直してそのまま倒れた。これは神仙道系の遠当て法である。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:53:28
竹村京 @kyou_takemura

「おやおや、四人も残ったでありますか。しぶといでありますなあ」 「な、何者だ!?」 祭壇の前で深海棲艦に祈りを捧げていた男が傍らの刀を引き寄せて誰何する。 「軍の犬でありますよ」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:55:13
竹村京 @kyou_takemura

「我々には信教の自由がある!貴様らに口出しされるいわれはない!」 「お前たち、破防法とか外患誘致とか知っているか? 深海棲艦に対する援助は刑法81条が準用される。つまり死刑だぞ」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:56:59
竹村京 @kyou_takemura

男は大月の言葉にややひるむが、目を血走らせて刀を抜く。残る三人も銛やら鎌やらめいめいに武器を握った。 なお外患罪が深海棲艦にも準用されるというのはただのはったりである。深海棲艦は一般には知能を持たない怪物という事になっているのだから、そんな法が通るわけがない。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:58:52
竹村京 @kyou_takemura

「ええい、知ったことか!我らの神に手出しはさせん!」 大月はやれやれ、と軽く首を振る。 「人の方は私が。あきつ丸どのはあちらをお願いします」 大月は棒を盾のように構えながらあきつ丸から離れてゆく。 「任せた、であります」#落ちぬい二次

2015-01-22 16:00:12
竹村京 @kyou_takemura

あきつ丸は祭壇の奥のホ級に目をやり、ランプに火を入れて巻物を広げた。 「さあ、出番でありますよ、まるゆ」 そう言うあきつ丸の背後から、ぞろぞろとまるゆが現れる。 「まるゆ、がんばりまーす」#落ちぬい二次

2015-01-22 16:02:26
竹村京 @kyou_takemura

気の抜けた声を上げると、一斉にホ級に向かい、まずは邪魔な祭壇の撤去にかかる。当然ながら無防備なまるゆはホ級の攻撃から身を守る術がなく、容赦なく砲撃で血煙に変えられてゆく。が、まるゆたち自身それを気にも留めない。#落ちぬい二次

2015-01-22 16:04:23
竹村京 @kyou_takemura

「死んでいる場合ではないでありますよ」 あきつ丸が印を結ぶと、転がっていた小さな艤装を中心に靄が集まってまるゆが再び現れる。 まるゆは通常の艦娘ではない。 普通の艦娘は人の女が艤装を扱うものだが、まるゆの場合は艤装こそが本体なのだ。#落ちぬい二次

2015-01-22 16:06:28
竹村京 @kyou_takemura

特定の艦船ではなく、三式潜行輸送艇という群体の船魂を用いた小型の量産型艤装を核に、陰陽術で肉の体を与えたもの。弱体ではあるが、群体であるため量産が可能で、式神であるため運用が容易。それが、まるゆなのである。#落ちぬい二次

2015-01-22 16:09:00