式を駆る者 -オカルト探偵あきつ丸-

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次創作です。 今回は揚陸艦あきつ丸のお話。 オカルトに宗教、そして温泉宿といろいろ詰まった一作です。まるゆもあるよ! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

「お気に召していただけましたか」 「いい景色であります」 海を眺めるあきつ丸の背後で仲居が茶を淹れ、それが終わるとまた声をかける。 「ご夕食までは少しお時間がございます。大浴場は今からご利用いただけますのでご自由にどうぞ」#落ちぬい二次

2015-01-22 14:21:53
竹村京 @kyou_takemura

「おお、今日は客が自分だけだというのに大浴場まで準備しているのでありますか、それはご苦労であります」 いらっ。 この場に第三者がいたらそんな音が聞こえたかもしれない。あきつ丸のいちいち棘というか毒がある言葉に仲居が苛立っているのはあきつ丸以外の誰の目にも明らかだ。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:23:53
竹村京 @kyou_takemura

「失礼いたします」 深く礼をして仲居が退出する。 「さて、とりあえずやることはやっておくでありますか」 そう呟くとスポーツバッグを開いて中を探る。取り出したのは手に乗るサイズのランプと変わった装丁の巻物だ。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:25:51
竹村京 @kyou_takemura

ランプに火を入れて広げた巻物を照らすと、巻物から影のようなものがふわふわと現れ、オートジャイロの形となる。 「行け、カ号」 三機のカ号観測機を窓の外に送り出すと、そそくさと浴衣に着替えて浴場に向かったのだった。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:27:43
竹村京 @kyou_takemura

「ほうほう。これはなかなか。良い風呂であります」 規模としては鎮守府の大浴場よりもやや広く、内装や設備は段違いによい。大理石張りの巨大な浴槽は真ん中あたりで仕切られており、片方がぬるめ、片方が熱めだ。マイナーだが一応温泉を引いているらしい。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:29:51
竹村京 @kyou_takemura

手早く体を洗って湯に浸かる。 良い気持ちだ、と思う。 「癒されますなぁ……」 陸軍だから、海軍だからと遠慮するような殊勝な性格ではないあきつ丸だが、こうして風呂に浸かるのは鎮守府ではできない贅沢である。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:31:37
竹村京 @kyou_takemura

何でも迅速が求められる軍の生活ではゆっくり湯船につかっていることなどあまりできない。のんびり風呂に入っていたら飯の時間が短くなってしまうのだ。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:33:51
竹村京 @kyou_takemura

ぬるい方と熱い方を行ったり来たりしたり、水面に浮かんで漂ったりと存分に楽しんでいると一時間半ばかり経っていた。 「おっと、そろそろ飯の準備ができる頃合いでありますな」 そうして風呂から上がって部屋に戻ると、先ほど放ったカ号が戻ってきていた。仕込みは上々である。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:35:44
竹村京 @kyou_takemura

「海軍の艦娘は艦載機の飛ばし方もまっすぐでありますからな。自分の得意分野はこれであります」 海軍の空母や航空戦艦などは原則的に戦闘と索敵を目的として艦載機を運用している。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:37:43
竹村京 @kyou_takemura

しかし陸軍の艦娘であるあきつ丸はそれとは一風変わった方法で艦載機を運用しているのだ。それだけに艦隊戦ではいまいち戦力にならないと評価されているのだが、それはそれでよい隠れ蓑になってくれている。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:40:04
竹村京 @kyou_takemura

ランプと巻物をバッグに仕舞って髪を梳かしていると、廊下から声がかかる。待ちに待った食事だ。 入室を許可すると仲居が料理を運び込む。刺身、焼き魚、小さな鍋、茶碗蒸しとバリエーションも量も結構ある。別につけた徳利三本も並べられる。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:41:46
竹村京 @kyou_takemura

仲居は普通は料理を並べたら退室するのだが、今日はお客さん一人だけなので、と言って鍋が煮えるまで火加減を見るために残った。 「では、いただくであります」 整った容貌に反して大口を開けて豪快に飯をかき込み始める。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:43:30
竹村京 @kyou_takemura

「いやあ、いいですな。飯が美味い静かな所というのはそれだけでいい物であります」 「気に入っていただけて何よりです」 「うむうむ、この刺身は良いですな。筋を気にしない適当な切り方がまた手作り感という感じであります」 「さ、さようで」#落ちぬい二次

2015-01-22 14:45:02
竹村京 @kyou_takemura

「いや貶したわけではないのであります。おお、こっちの焼き魚も美味であります。少々焦げて焼きむらもありますが、生焼けよりはるかに良いでありますからな」 「さ……さようで」#落ちぬい二次

2015-01-22 14:46:32
竹村京 @kyou_takemura

一言目で褒めて二言目でボロカスに貶すあきつ丸の感想攻勢に、仲居は笑顔を維持しようと必死になっていた。しかしやがて我慢の限界に達したのか、別の仕事があるから用があったら呼んでくれと言い残して退室して行った。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:47:55
竹村京 @kyou_takemura

「ふむ。忌憚ない意見を伝えただけでありますが、怒らせてしまったようであります」 反省反省、と言うが反省の素振りも見せず、がつがつと飯をかっ込む。 「陸軍駐屯地のハズレ食堂よりよっぽどうまいのは事実であります」#落ちぬい二次

2015-01-22 14:51:14
竹村京 @kyou_takemura

なお、陸軍では野営の際の調理訓練も兼ねて専業の調理担当ではなく持ち回りで食事を作ることが多い。だからマズい時はマズい。 やがて飯の一粒はおろか、付け合せの紫蘇や生姜まで綺麗に平らげて、残った酒を干す。#落ちぬい二次

2015-01-22 14:53:13
竹村京 @kyou_takemura

フロントに電話をして膳を下げるように伝えたが、下げに来たのは先ほどとは違う仲居だった。よほど怒っていたのだろう。 「ふぅ。さて、腹も膨れたでありますし、今一度風呂にでも」#落ちぬい二次

2015-01-22 14:56:11
竹村京 @kyou_takemura

と、スマートフォンに着信がある。画面には番号だけが表示されている。機密保持のため番号はすべて頭に入れており、相手が別動隊の指揮を執っていた男だというのはすぐにわかった。 「まったくせっかちでありますな。こちらあきつ丸。これから風呂に入るつもりであります」#落ちぬい二次

2015-01-22 14:58:03
竹村京 @kyou_takemura

『あきつ丸どのは御冗談がうまいですな。準備が整いましたよ』 電話相手の声は自信に満ちたというか、血気に逸った感じだ。 「風呂に入ってひと寝入りしてからでは駄目でありますか?」 『まさか本気ですか?』 「欲を言えば明日の朝食も食べてからにしたいのでありますが」#落ちぬい二次

2015-01-22 15:00:12
竹村京 @kyou_takemura

『今すぐ来てください!では!』 有無を言わさず電話を切った相手にため息をつき、仕方ないという感じで身支度を始めた。 顔に白粉を塗って真っ白にし、バッグから引っ張り出した詰襟を着て背嚢を背負う。軍帽を被って手袋をはめて終いだ。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:01:58
竹村京 @kyou_takemura

完全武装となったあきつ丸は窓から飛び降りて海に向かう。目指すは左手の崖だ。 そも、あきつ丸がここに来たのは休暇のためではない。海軍ではなく、陸軍の、というかもう少し上の方からの指令を受けたためだ。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:03:47
竹村京 @kyou_takemura

時折、艦娘や駆逐艦が出払っている所に深海棲艦が襲来することがある。ほとんどは小規模な艦隊なので陸・空軍が持ちこたえている間に艦娘が戻って来て撃退できてはいるのだが、そもそもの疑問が残る。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:05:08
竹村京 @kyou_takemura

索敵能力では現代のレーダーシステムの方が圧倒的に優位であるのに、なぜ敵はこちらが手薄な時を狙えるのか? 海軍も調査しているようだが、これについては陸軍に一日の長がある。 簡単な事だ、こちら側に内通者がいる。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:07:17
竹村京 @kyou_takemura

憲兵隊がその内通者がいる地域を絞り込み、最後の仕上げにこのあきつ丸が投入されたのである。 風呂の前に飛ばしたカ号は内通者の拠点がこの崖に穿たれた洞窟であることを探り当て、それを待機していた憲兵隊に伝達したのである。そして、これからその掃討に入る。#落ちぬい二次

2015-01-22 15:09:19
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