漢語上古音・中古音に関するツイートまとめ(1)

上古漢語音の再構、中古音への音韻変化に関するツイートをまとめました。 目次: 0. 上古音の再構例:Baxter-Sagart(2014) 1. 上古音の声母について 1.1 中古舌・歯音(T-L-Sj)及び以母(J)の由来 続きを読む
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まとめ(2)はこちらです

まとめ 漢語上古音・中古音についてのツイートまとめ(2)~中古三等韻の種類に関して 上古音から中古音への音韻変化についてのツイートをまとめました。私こと望之@HishamWaqwaqiと隋語さん@Zyengrioのやりとりから。今回は、以下の2つの話題についてまとめています。 ①上古韻部から中古各韻への分化(三等韻の場合):上古では本来同じであったと再構される母音が、中古では様々に分かれています。母音の分化は、接続する子音の性質や介音などの条件によって起こったと考えられます。 ②拗介音の性質について:中古の三等韻(いわゆる拗音)には主母音が同じでありながら介音の性質が異なるペア=甲類(A類)韻と乙類(B類)の対立があります。この差はそれぞれ上古介音 *i, *ri の違いに由来すると考えられています。一方、対立が無い丙類(C類)は、どちらの介音に由来するのでしょうか。あるいは、それらを.. 6967 pv 21

上古音の再構例 (Baxter, 1992)

望之 @motijuki1017

漢語上古音の韻部とその再構音。音節から頭子音と介音を除いた部分の一覧。母音(及び鼻音)終わりは中古音の平声に、プラス*-ʔ は上声に、*-s は去声、*-p, -t, -k 終わりはそのまま入声になったと考えられている。 pic.twitter.com/DezhFVNsV0

2016-03-01 01:31:28
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望之 @motijuki1017

ところで上古音のシュワー *ə をBaxter氏 は ɨ, 鄭張氏は ɯ としているけど、個人的にはどちらの表記も違和感がある。一方はイ過ぎるし、他方はウ過ぎる。介音と紛らわしい。(近年のBaxter-Sagart案は ə を採用している)

2016-02-20 14:15:31

上古音の再構例:Baxter-Sagart(2014)

LingLang@言語学好き @linglanglong

いつの間にかBaxter-Sagart上古音の改訂版(2014年版)が出てた Baxter-Sagart Old Chinese reconstruction, version 1.1 (2014/09/20) ocbaxtersagart.lsait.lsa.umich.edu/BaxterSagartOC… (PDF)

2014-12-31 21:20:23
LingLang@言語学好き @linglanglong

Baxter-Sagart(2014)の子音体系は、破裂音・破擦音が無声無気-無声有気-有声無気それぞれに非咽頭化-咽頭化がある完全な六項対立になっている。流音・鼻音は有気音を欠く四項対立、*s, *ʔは有声も無い二項対立。*z, *j, *hj は頭子音から消えた。

2014-12-31 21:39:14

1. 上古音の声母について

1.1 中古舌・歯音(T-L-Sj)及び以母(J)の由来

―いわゆる「L-type」声母

望之 @motijuki1017

漢書「烏弋山離」(アレクサンドリアの音訳)からも「弋」ヨクの頭子音 j が *L 音に遡ることが分かる、というのは凄い話だな。

2015-02-21 06:02:19
望之 @motijuki1017

中古音(声調)<上古音 以母 j- 移 *je(平)<*lai 酏 *je(上)<*laiʔ 易 *je(去)<*leks 怡 *ji(平)<*lə 以 *ji(上)<*ləʔ 食 *ji(去)<*ləks

2015-02-11 02:54:37
望之 @motijuki1017

中古音の以母 j- は上古音では L だったと推定されるから、上古漢語の文末の「矣」「已」「也」などは近世の「了」の前身だったと考えて好いのかしら。

2015-02-11 03:01:14

*訂正!「矣」は云母でした。 L 由来ではありません。**

望之 @motijuki1017

上古音>中古音 浪 *rˤaŋ > laŋ ラウ 良 *raŋ > liaŋ リヤウ 蕩 *lˤaŋs > daŋ ダウ 陽 *laŋ > jaŋ ヤウ 湯 *l̥ˤaŋ > tʰaŋ タウ 傷 *l̥aŋ > ɕiaŋ シヤウ 腸 *lraŋ > ɖiaŋ ヂヤウ

2015-02-15 01:48:05
望之 @motijuki1017

@HishamWaqwaqi 例によってBaxter&Sagart再構の上古音。多様な声母(頭子音)が流音に由来すると考えられているようだ。

2015-02-15 01:51:08
望之 @motijuki1017

@HishamWaqwaqi 音韻変化を一部まとめると、 有声 咽頭化音 *lˤ > d 有声非咽頭化音 *l > j 無声 咽頭化音 *l̥ˤ > tʰ 無声非咽頭化音 *l̥ > ɕ

2015-02-15 01:58:00
望之 @motijuki1017

(続)同じ頭子音系列の声符「台」の場合: 台 *lˤə > dai ダイ 怡 *lə > ji イ 胎*l̥ˤə > tʰai タイ 始 *l̥əʔ > ɕi シ

2015-02-15 02:24:27

訂正!例字「台」は透母 th- なので代わりに「苔」 d-をここに入れておきます。

望之 @motijuki1017

前に見た包擬古(Nicholas Bodman)の本だと、咽頭化/非の対立は採用してなくて、普通に中古音と同じように介音 j をもうけていた。その案だと下記のようになる。 蕩 *langs 陽 *ljang 湯 *hlang 傷 *hljang

2015-02-15 02:45:24

※出土資料から判ること、及び現代方言における痕跡

ramayakat @ramayakat

いわゆるL-type声母ですね。上古音の歯音はT-typeとL-typeに分けられ、両者は戦国楚簡のころまではっきり区別されていました。最近、閩語にもその区別の痕跡があることが明らかになりました。

2015-02-15 03:16:19
望之 @motijuki1017

@ramayakat はじめまして。どうもありがとうございます。戦国楚簡におけるT-typeとL-type、以前、関連論文をさわりだけ読んだことがあるのを思い出しました。閩語に今もその区別の痕跡があるとは面白いですね。

2015-02-15 03:53:46

1.2 中古音「書母」ś の由来

望之 @motijuki1017

「上古漢語書母に関する基礎的研究」 hdl.handle.net/2065/36970

2015-02-17 23:58:52
望之 @motijuki1017

@HishamWaqwaqi *中古音の書母 ś- は Tタイプ(歯茎音) *stj- Lタイプ(流音) *hlj- Nタイプ(鼻音) *hnj, *hngj Xタイプ(軟口蓋・口蓋垂音) *xj- /*qhj- などに由来。

2015-02-18 00:01:54
望之 @motijuki1017

@HishamWaqwaqi 「書」の再構音はBaxter(1992) *stja, 鄭張(2003) *hlja

2015-02-18 00:17:14