救済ブラック本丸まとめ

タイトルの通り
12
前へ 1 ・・ 8 9 11 次へ
ふゆ@かたな @fuyu_tr

(歌仙) もうじき春が来る。庭の桜の蕾が色づいているのを見つけて、俺は安堵の息をついた。植物は穢れに敏感だ。弱った樹を見て今年は咲かないかもしれないと思っていたが、その生命力はたくましいようだった。ここの男士と花見が出来るとは思っていないが、咲いたら夜にでも堪能したいものだ。

2015-03-29 23:17:09
ふゆ@かたな @fuyu_tr

土を踏む音がした。「主」「ああ、歌仙か」振り返ると、そこには歌仙が立っていた。抜き身の刀を下げて何食わぬ顔をして。「何をしているんだい?」「桜を手入れした仕上がりを確認している」「……今年は、咲かないと思っていたよ」「俺も諦めていたんだが、期待できそうだな」

2015-03-29 23:20:02
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「君のおかげ、なのかい」「証明は出来ない」言いながら樹を見上げる。土いじりはそれほど得意じゃないのだが、この広い庭に桜の木だけとはもったいない。希望者がいれば、何か育ててもいいなとも考える。「無防備だね」背を向けたままの俺に彼は呆れたように言う。「余裕があると言ってくれ」

2015-03-29 23:22:37
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「余裕を持てる程、武芸に秀でている訳じゃなさそうだけれどね」「心の余裕だ。この本丸に来た時から、いつも覚悟している」「それに値するものが、この本丸にあると君は思っているのかい」「じゃなければまず来ていない」「……」歌仙が近づいてくる。隣に立って同じように樹を見上げた。

2015-03-29 23:25:34
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「君が美しいと思っているものは何か聞いても良いかい」質問ばかりだが、間違えればその瞬間首が飛ぶのだろうなと思いながら、考えるまでもなく答える。「言葉だ」「言葉?」「思いを伝えるための道具が、美しくないわけがない」「なるほど。じゃあ、君が好きなものはなんだい」「心だ」「心」

2015-03-29 23:29:07
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「人であって良かったと思う全ての理由はそれに尽きる」「……分かったよ。無粋な真似をして悪かったね」「何の事だかわからないな」そう言うと、歌仙はこちらを向いて微笑する。「君の言葉が、美しいものであることを願うよ」「期待には応えるさ」「なら、花見の約束をしよう」

2015-03-29 23:32:11
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「1人で見るのもいいけれど、誰かと共にみる桜は格別だよ」君が、期待にこたえられる人間ならね。 そういって去っていく彼の姿を見送り、俺もまた身を翻すのだった。

2015-03-29 23:32:59
ふゆ@かたな @fuyu_tr

(次郎) 「ほ~んとうに深夜に出歩いてるんだねあんた」気配には気付いていたが、日課の祓いの最中だったので足を止めずにいると、呼び止められた。「次郎太刀」「次郎でいいよ。それより、ちょっと付き合ってくれない?」そう言って杯を見せた次郎に俺は考え込む。「あれ、飲めない人?」

2015-03-29 23:39:02
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「……禁酒している」「え、なんでそんな拷問みたいなことしてんのさ」その言い方に思わず苦笑しながら続けた。「願掛けだ」「願掛け?何の」「言いたくないな」「アタシたちに関係すること?隠さなくてもいいって」手を振るその仕草に酔っているなと思う。「それってさあ。良い願掛けでしょ」

2015-03-29 23:43:00
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「良い、とは」「あんた、露骨にアタシたちに媚びるの嫌いでしょ。他の連中の話聞いてて笑っちゃったよ。悪者ぶるなんて、子供じゃないんだから」「……これは、痛い事を言われてしまったな。……というか、話を聞いているのか?」「そりゃまー、アタシたち仲良いからね」

2015-03-29 23:47:15
ふゆ@かたな @fuyu_tr

それはあんまり想定していなかった。情報共有されているということか。ああ、そう言えば燭台切も俺がみんなを口説いている、と言っていた。「酒は飲めないが、茶でいいなら付き合おう」「いいや、酔っ払いに素面の人間を付き合わせるのは可哀想だからね。あんたが、飲めるようになった時に、」

2015-03-29 23:51:05
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「遠慮なく注がせてもらうよ」「……それは贅沢な思いが出来そうだ」「アタシさあ」次郎はそう言って俺を見つめる。「あんたのこと、嫌いだったんだよね。強引だし、態度でかいし、偉そうだしさ」「否定できないな」「まあ、でも、大切にしようと頑張っていることぐらいは、分かるからね」

2015-03-29 23:54:25
ふゆ@かたな @fuyu_tr

というか、否定できないって自覚してるってこと?やだねこの人。と言う彼に肩をすくめる。「その調子で頑張りな」「……さっきの話だが」「ん?」「飲み交わす約束と思っていいのか?」「そうだよ」ああ、約束が増えてしまった。「叶えなければな」「そうだよ。この本丸があんたにかかっているのは、」

2015-03-29 23:57:52
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「どうしようもない事実だからね。アタシは上手くいくことを願うばかりさ」「……お前たちは、」「は?」「……器が大きいから、俺は凄く……」言いかけてやめる。「これは、飲むときに話すことにしよう」「もったいぶるね」「楽しみは多い方がいい」「違いない」じゃあ、おやすみ~。そう言って

2015-03-30 00:00:38
ふゆ@かたな @fuyu_tr

手を振る彼におやすみと答え、俺は夜の廊下にまた足を踏み出した。

2015-03-30 00:01:08
ふゆ@かたな @fuyu_tr

(小夜) 「大丈夫?」その声にはっと意識が引き戻される。無防備なところを突かれた面持ちで顔を上げると、小夜左文字がこちらを見つめていた。目を瞬いて状況を整理しながら、自分を立て直す。「あ、あぁ」不審に思われる間が空いてしまった。「……大丈夫だ。ありがとう」だが、心情を吐露する

2015-04-02 11:27:34
ふゆ@かたな @fuyu_tr

訳にはいかない。そういった俺をじっと見つめ、小夜左文字はす、と手に持っていた短刀を下ろした。今気づいたが抜かれる手前だったようだ。「何か用だったか?」ここは離れの縁側だ。こちらには俺の生活空間しかなく、人が来ないと思って油断していた。「猫、探してた」「……逃げたのか?」

2015-04-02 11:30:29
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「いつも戻ってくるけど……」そういった彼に、ああ、心配で探してたんだなと理解する。「……主」「なんだ」「……僕たちに復讐したい?」「………え?」思ってもみなかったことを尋ねられて、らしくなく間の抜けた声を上げると、小夜は続ける。「さっき、凄く傷ついた顔をしていた」「……」

2015-04-02 11:34:06
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「僕たちのせい?」「心配するな。お前たちには何も危害を加えない」そう言うと、彼は少し押し黙る。「わかった」どこか納得してないような響きでそう言って、そのままたたたと駆け出していくその背を見送り、俺は深くため息をつく。やってしまった。気を抜き過ぎていた。胸元に手をやり、うつむく。

2015-04-02 11:36:58
ふゆ@かたな @fuyu_tr

傷ついた顔。か。思い返していたのは先日の悪夢だ。その中で擬似的に体験した彼らの痛みを未だに引きずっているようだった。一期たちの件で有耶無耶になっていたが、少し落ち着いたせいで思い返す余裕が出来てしまったらしい。隙になる前になんとか立て直したいところだが、心の傷というものは

2015-04-02 11:40:04
ふゆ@かたな @fuyu_tr

大抵時間がかかるものだった。自分が受けたわけでもないのにな、と己の弱さを自嘲して立ち上がる。仕事をすれば気は紛れそうではあった。

2015-04-02 11:45:48
ふゆ@かたな @fuyu_tr

次の日。同じ時刻に小夜左文字がやってきた。休憩時刻を決めているため、同じく縁側で休んでいた俺はその姿を見て首をかしげる。「猫か?」するとふるふると首を振る。そして沈黙。何をしに来たのだろうか。どうしたものかと考えると、彼は言う。「……何か食べてるの?」「ん?あぁ」

2015-04-02 21:56:15
ふゆ@かたな @fuyu_tr

「飴をな」仕事中に疲れを感じたり苛立ちを感じたりする時に飴を食べる癖がついていて、今もころがしている最中だった。「食べるか?」そう言って隣に置いていた小さな籠を差し出す。「こっちが蜂蜜を固めた奴。こっちがフルーツで、これが黒砂糖」今日はこれしかないというと、彼はじっと籠を

2015-04-02 21:58:59
ふゆ@かたな @fuyu_tr

覗いて言う。「好き……なの?」「……好きというか」糖分摂取というか。「まぁ好きだな」頷くと、小夜左文字は少し迷ってから、いちごの飴を手に取った。縁側を軽くたたいて座るように促すと、少し離れた所に彼は座る。「何か聞きたいことでもあるのか?」「……昨日」「ん?」「どうして」

2015-04-02 22:02:15
ふゆ@かたな @fuyu_tr

そこまで言って彼は言い淀む。「何であんな顔してたのかって?」こくんと頷く小夜左文字の視線を受けて、俺は困ったと腕を組む。どこまで話したものか。「……嫌な夢を見たんだ」「夢?」「そう」「……辛かった?」「……まぁな」苦笑して答えると、そう、と彼は呟くように言う。

2015-04-02 22:07:40
前へ 1 ・・ 8 9 11 次へ