睦月ちゃん蜜柑山着任

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その日、海上交通、航空、通信の全てが遮断され、海が人間にとって久方ぶりの国と国の間の巨大な暗渠となって立ちはだかった。各国は孤立し、一部の制海水域を除いて孤立を余儀なくされた。#柑橘鎮守府

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その時までに各国間で共通プラットフォームの元、人体改造兵器の開発がすすめられ、共通の実用化ステージに上る矢先のこと。しかしそれは烏有に帰し元々各国の手元に残ったもので戦うことが余儀なくされたのである。この国ではそれは「艦娘」と呼称された。#柑橘鎮守府

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それから何年も経過した。戦いは激化すれども衰える気配すらない。人々は疑問に思った。いったい誰となんのために戦っているのか？当初艦娘の犠牲のみを悼んで高みの見物を決め込んでいた者たちも日に日に不安を募らせた。窮迫していく生活がそれを実感させたのだ。#柑橘鎮守府

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為政者たちも手をこまねいていたわけではない。だが具体的な凶悪な敵の姿をイコン化したものは皆無だった。敵の死骸、残骸、あるいは捕虜がないわけではないが、それは軍機の厚いベールで一般国民の目からは遠ざけられていた。日々強まる突き上げ、それを政争に利用しようとする策動。#柑橘鎮守府

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軍はそれでも戦い続けなければならなかった。それを止めたときは大海からの敵深海棲艦に呑みこまれるか、自分達の同胞に石もて追われるかだった。#柑橘鎮守府

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政府、軍は乾坤一擲の作戦を呼号し、必ずこう付け加えた。作戦成功の暁には艦娘はじめ全将兵を次のクリスマスまでに其々の家庭に帰すことができる＿　それは幾多の戦争で沢山の将帥が約束してきたことではあったが＿＿ そして、今年も何回目かのクリスマスが巡ってこようとしていた＿　#柑橘鎮守府

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「ねえ彼女、気分悪いの？」4人組の男の内一番チャラいのが声をかけた。相手は蹲った少女。ボサボサの栗色の髪の毛と草臥れきった軍用パーカ、異臭を放つデニムのパンツをはいていた。残りのうちの一人＿ごつい体のが言った「ほっとけよう、そんなゴミ。」#柑橘鎮守府

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チャラ男はいきなり少女の腹に蹴りを入れた。「おい、返事くらいしなさいよ。」喉から何かを吐き出し娘は前のめりに倒れた。さらに数発の蹴り。しかし少女はなされるままに転げ回った。他の三人はニヤニヤしたまま。#柑橘鎮守府

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「あんましここでやっても後でつまらないぜ。」背の高いスキンヘッドが薄い唇を歪ませて言った。「そうさな」チャラ男は女の襟首を引っ張り上げた。「ちょっとは俺らと楽しいことしようぜ。辛気臭い顔はマスクさせりゃ」「後ろから＿穴二つもってるんだしよ。」下卑た笑い声が聞こえた。#柑橘鎮守府

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立ちあがりかけてまた崩れそうな女に振り上げぶち当てるはずの拳が止まった。いや、止められた。チャラ男が向くと拳をつかむ人影。その人物は握った拳をそのままくいっとひねり上げた。筋肉が歪み骨がきしみ不気味な音を立てた。激痛が襲う。チャラ男に手の向きがあらぬ方に向いていた。#柑橘鎮守府

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悲鳴をあげる奴を尻目にその女は汚れた娘を助け上げた。長い黒髪の艶やかな少女。娘と同じ年格好で美形と言えた。「ほら、姉さん達心配してるよ？」なんだお前は口々にわめく男たちを尻目に優しく語りかけた。＿＿お姉さん？それはいったい＿＿#柑橘鎮守府

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「わかんないの？今はここを逃げるのが先決」小声で黒髪の娘は囁いた。そしてじりじり包囲を縮める不良達を見据えた。＿4隻のうち一隻は中破。残りは＿　ガラのでかいデブが右斜め前。残り二人ハゲともう一匹は左側。しかしこちらの要警護艦は左側に。しかも小破状態＿#柑橘鎮守府

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愛くるしいルックスと裏腹な舌打ちが漏れた。「おい、あんたどうされてもいいってわかりやすい意思表示するなあ。」禿がニヤけたが目は笑っていない。もう一歩。そこで彼女はハゲともう一人の顔に何かをぶつけた。#柑橘鎮守府

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ハゲの顔に液体の入った何かが直撃した。酢と香辛料が目を襲う。もう一人は咄嗟の行動に後れをとった。こいつには少女の蹴りが襲った。正確には脱いだキャラバンブーツを片手に履いて口と鼻の間を強打したのだ。片足裸足のまま彼女は少女を引っ張って走り出した。#柑橘鎮守府

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デブは虚をつかれたが我に帰って追い始めた＿が。何かで向う脛をしたたか打ってもんどり帰った。その後頭部にヒールの踵がのしかかり動きを止めてしまう。「まあまあ60点というところかの。」みょうなイントネーションでしゃべるツインテールの少し年長の娘がいた。#柑橘鎮守府

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向こうのほうではさっきのチャラ男に別の少女＿こちらは銀色の髪の娘が無表情で撮りつき抑え込んでいる。ツインテールにうなずくと男の折れている腕をかるく揺らして苦痛で喚き声を上げさせていた。#柑橘鎮守府

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場所はどこにでもある在り来りのコンビニの駐車場での出来事。騒ぎを聞き咎めた店員はすぐに110番した。警官はすぐに男たちの方の身柄を確保し、娘たちには敬礼をして去った。救急車をの声には丁度入ってきた古びたハイラックスピックアップを顎でしゃくって見せた。#柑橘鎮守府

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全員を乗せた車は鎮守府と黒々書かれたゲートで門衛の敬礼を受け、入って言った。そのままその捨て猫のような少女はまず娘たちの同類にわいわい言われながら身ぐるみ剥がされ、風呂場に連れ込まれた。全身を洗われると作務衣のような寝巻を与えられ、医務室に行かされた。#柑橘鎮守府

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だまって横になって、いると次々と身体状況がモニターされていく。どこの病院でもこんな設備はなかった。ここは＿＿　そこでさっきの長髪少女が心配そうにのぞきこんだ。「お腹＿＿すいてるんじゃないかなって、利根さんが。」あのツインテを利根と呼ぶらしい。#柑橘鎮守府

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食堂は広かった。いくつもならぶ四角いテーブルの端に座っていると、小鍋に入った鶏肉の煮込みうどんが配膳された。生卵がありそれを割ってのせる。七味をかける。昆布とカツオ出汁の芳醇な香りが食欲を刺激した。まともな食事など何日前だったろう。#柑橘鎮守府

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食べ終わる頃、和装の女性が現れた。「お口に合ったかしら？間宮さんがあいにくこの時間はお店がいそがしくて。」鳳翔と名乗った女性はいつもは空母寮にいるからと言った。あと、もう少し遅いと特別館にいるとも。いずれにせよ彼女にはよくわからなかった。#柑橘鎮守府

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部屋の外で小声で何か聞こえてきた。1人がもう1人に何か言い聞かせているようだ。「抜かりましたね。あの眼つぶしは二個用意すべきでした。あと一旦あなただけ包囲を抜けて背後から奇襲すると言う方法もありました。」「はい、すみません神通さん、ですが」「如月さん」#柑橘鎮守府

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「確かに民間人保護は重要な勤め。でも私たちも無用な危険を内地で冒すわけにはいきません。ただ利根さんと弥生がいたことは幸運とはいえよかった。この件はここだけにしましょう。ただし」少し緊張感。「明日の訓練は不時遭遇戦想定で夜戦まで延長してやります。いいですね如月。」#柑橘鎮守府