スパイスを探しに#2
「行こう。スパイスはこの先じゃ」 老人は、ふっと笑ってゲートから外に出た。下層には例の巨大芋虫の姿は無い。足元にも糸は見られなかった。だが、どこからか……牛の唸るような音が聞こえてくるのだった。 54
2015-03-28 21:07:23ミェルヒには、作業服姿の老人が少しくたびれて見えた。そんなに疲れてはいないはずだ。だが、この下層には彼を憔悴させる何かがあるのだろう。ミェルヒはバシネットのバイザーを下ろすと、注意深く進んだ。エンジェも覚悟を決めた顔になる。この下層には、何かがいるのだ。 55
2015-03-29 20:55:18「注意せいよ。上層にいた芋虫よりも、危険な奴じゃ。先に説明しておこう」 老人はそう言ってこの下層に巣くう化け物について説明し始めた。「この先にいる化け物は、やはり半透明な芋虫の姿をしておる。だが、上層と違うのは、彼らが装甲で覆われている点じゃ。吹き矢は効かん」 56
2015-03-29 20:57:45ミェルヒは老人にいくつか質問した。「麻痺は効きますか?」 「生物じゃからな。装甲を貫通できればあるいは」 「装甲の強度は……剣が通りますか?」 「何度か冒険者が戦ったのを見たが、普通の方法では無駄のようじゃ」 「敵の攻撃は?」 老人はフゥームと唸った。 57
2015-03-29 21:00:33「この階層の芋虫は、より強度の高い糸を使うのじゃ。金属のワイヤーのように硬い。しかも、精神力によってそれをコントロールする。生身じゃったら、あっという間にバラバラじゃ。お嬢さん、気をつけなされ」 エンジェはそれを聞いて、ぶるっと身震いをした。彼女はワンピース姿だ。 58
2015-03-29 21:04:09「エンジェ、君の魔法は……破片の呪文だけだったね」 「うう……魔法を買うお金が無かったから……」 エンジェは申し訳なさそうに頭を垂れる。破片の呪文は視線から侵入し、破片が突き刺さったと誤認させる呪文だ。実際の装甲がいくら硬くとも、効くかどうかは相手の精神力次第だ。 59
2015-03-29 21:06:36ミェルヒは手短に作戦を説明する。「エンジェ、君は糸の届かない場所から援護してくれ。僕は前に出て糸を受ける。剣の赤熱機構を使用すれば糸を断てるかもしれないし、上手く装甲を貫通できるかもしれない。そして、バシネットの火炎放射で、一気に焼く。おじいさん、糸は燃えるよね?」 60
2015-03-29 21:12:27老人は注意深く歩きながら言う。「ああ、燃える。燃えるさ。熱量と勢いが必要じゃ」 「おじいさんは何ができますか? 協力するからには、おじいさんの手の内が知りたいですね」 「ワシの戦術か」 老人はミェルヒとエンジェを手招きながら言う。二人は草をかき分けて進んだ。 61
2015-03-29 21:15:27老人はすぐには話さなかった。しばらく歩くと、大きな扉が現れた。金属製で、びっしりと鋲が打ってある。扉の脇の機械に手をかざす老人。すると、ゆっくりと扉が開いていく! 「見ての通り、依然としてワシはこの施設の管理者じゃ。深層の工場の機械を遠隔操作できる」 62
2015-03-29 21:17:50「ワシはいまこの施設の機械と感覚をリンクした……工場の機械で、お前たちを援護できるだろう。頼んだぞ」 扉の向こう側には、巨大な蜘蛛の巣のように糸でびっしりと覆われていた。鈍く赤褐色に光る重機やクレーン。それらは化け物の巣になっていた。巨大な芋虫の! 63
2015-03-29 21:19:52老人は目を伏せる。「頼む……ワシの夢を覆い隠す、この悪夢を……どうか、切り開いてくれ」 ミェルヒはバシネットのバイザーを下ろし、剣を前に突撃する! エンジェは魔法をいつでも使えるよう、魔法の絵筆を振りかざして、扉の影から注意深くミェルヒの後ろ姿を見た。 64
2015-03-29 21:22:15