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【伊達家が恋しい燭台切光忠bot】日常パートまとめ。③
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光忠「それ は、…」 倶利「……」 光忠「だって、それは…」 倶利「ああ」 (今宵の望月のようにまあるい金の双眸が その心の奥の奥へ問いかけるように 光忠の瞳を覗きこんでゆく) 光忠「……」
2015-07-31 23:22:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
… … 霞がかった意識の中で、大きく世界が揺れたのを感じた。 随分と長く微睡と現実の狭間を行き来していた僕には、それがなんであるか 直ぐにはわからなかった。 けれど、漠然と…自分が自分でない何かに変質していく気配を感じる。 ぼんやりと見つめた世界は赤く、誰かが僕へと手を伸ばした。
2015-07-31 23:25:14![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
僕の世界が赤く染まっていく。耐え難いはずの変質をぼんやりと受け入れながら けれど、僕の胸に湧いた感情は間違いなく安堵だった。 『赤』は彼の色だ。そんな彼の色に包まれて、僕はやっと…これでやっと… そう思って目を閉じたはずの僕を、その人は必死に掴んで運び出していった。
2015-07-31 23:26:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
人の身は脆く脆弱だ。こんな炎の中に包まれたら、その肉はすぐに焼け爛れ 皮膚も張りつめて、呼吸もできない苦しさに苛まれながら死んでゆくしかない。 僕が刀であった頃に感じていたこと。そして、人の身を得て 『火傷』の痛みを知ったからこそ感じる憐憫の情。 ああ、彼は死んでしまったのか…
2015-07-31 23:31:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
消えてしまいたかったのは僕の方だった。けれど、死んでしまったの彼だった。 人の身で謳歌できる年月など、たかが知れているというのに 僕らをその場所から救い出す為に彼は死んでしまったのだ。 炎に身を包まれた時、僕はこの生を終えられることに歓喜すらしていたのに ああ、こんな僕の為に…
2015-07-31 23:35:07![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
自意識が不安定になる度に僕は、自分が刀であることを 伊達の刀であることを、強く自身に言い聞かせた。 けれど、それにはいつも罪悪感が伴った。存在を安定させる度に 罪の意識は絶えず僕の全身を蝕んでいた。全身の疼くような痛みには慣れていたけれど 意識を強める度に、頭の奥で問う声があった
2015-07-31 23:37:41![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
『伊達の刀』であることは僕にとって何よりの幸いだ。 僕が最も刀らしく在れた、十全として欠けたもののない幸せな頃の記憶。 水戸へ渡った後までも、僕の中で褪せることのなかった…大切な記憶だ けれど、それを惜しむあまり僕は 己に傾けられていた情を…そこに在ったはずのものを尽く無視した。
2015-07-31 23:42:43![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
炎は僕の、消えない罪の証。 その赤い揺らぎは、全身の皮膚を引き攣らせるその痛みは 己の為に喪われた命があったことの… そして、命を賭してでも救い出してくれた家人の恩を忘れ 我が身の幸せだけを願った…『物』ならざる僕が其処にいたという証。 人の身を得る前も後も等しく消えない僕の業。
2015-07-31 23:48:37![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「なあ、光忠。…お前の心はどこかで 生かしてもらった恩に報いたがっていたんじゃないのか」 光忠「…報い る…?」 倶利「刀とは呼べぬ身になってもなお、己を生かそうとした手があったことに… 刀である『燭台切光忠』として在り続けることで、応えたかったんじゃないのか」
2015-08-01 00:04:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「俺の知っている燭台切光忠は、強くて美しい刀だった。 そして、軽薄そうな振る舞いとは裏腹に…心に芯のある忠義と情に厚い刀だった かけられた期待に応えず、己の望み一つで消え逝くような 弱く薄情な奴じゃない」 光忠「…倶利伽羅」 倶利「なあ、考えてくれ光忠…」
2015-08-01 00:08:16![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「お前は何の為に抗った?燃えたその身を抱えてもなお 揺らいでいく自意識を必死で繋ぎとめてまで存えたのは…一体なんの為だった?」 光忠「……」 倶利「手放せば楽になれたはずだ。自由になった魂は、何処へなりといけるはずだと 言っていたのはお前だろう?」 光忠「…僕は」
2015-08-01 00:11:33![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
光忠「僕は、…」 倶利「……なあ、光忠 お前は本当は何を望んでいた?」 光忠「……」 (光忠の両頬を包み込むように 触れた手のひらがその存在を捉えて離さない …瞳の奥を覗きこむように見つめてくる金の双眸の優しさはそのままに なにかがほろほろと崩れていくのを感じ…)
2015-08-01 00:17:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
光忠「わからないよ …そんなのは僕が訊きたい」 倶利「…ああ」 光忠「どうしたらいいかわからないんだ」 倶利「うん」 光忠「……恋しいし帰りたい。でも、僕を生かしてくれた人たちを想うと 簡単には消えて逝けない…でも、僕は…自分が刀であることを諦められない」 倶利「そうか」
2015-08-01 00:20:51![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
光忠「だって、自分が楽になる為だけに諦めて消えてしまったら そんなのはもう政宗公の刀なんかじゃない」 倶利「ああ」 光忠「報いるべき恩がそこにあるのに、見ないフリをしてすべてを終わらせようなんて …あの情に厚い政宗公の刀にそんな弱さが、薄情さがあっちゃいけないんだ…」
2015-08-01 00:24:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
光忠「そんなことをしたら、本当に僕はもう 彼の刀とは呼べない何かに成り下がってしまう」 倶利「…そうだな」 光忠「そうしたら、僕は消えたって彼の元へ行くことなんかできない ……消えなくても君に逢うことすら出来ない」 倶利「…光忠」 光忠「どうすればいいのかわからない」
2015-08-01 00:29:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
光忠「僕にはもう、自分が何者でありたいのか ……自分がどうしたいのかがわからないんだ」 倶利「……」 光忠「苦しいんだ。…楽になりたい 消えたい 消えたくない 彼の刀でいたい 君と一緒にいたい …だから僕はなんにも選べない どこへもいけない」 倶利「……光忠」
2015-08-01 00:33:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
(頬に添えていた両手を離して 光忠の体をそっと抱き寄せ) 光忠「…倶利伽羅…?」 倶利「なあ、光忠」 光忠「……」 倶利「……お前は政宗の刀でいたい。だからはやく消えたい」 光忠「…うん」 倶利「だがお前は助けてくれた家人の恩に報いたい。だから簡単に逝くことなどできない」
2015-08-01 00:46:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「だが存えようとすれば、家人の情を認めて己を安定させなければならない。 そうなるとお前は、徳川の色と…刀ではなくなった自分を受け入れることになる」 光忠「…うん」 倶利「そして、一度自意識としてそれを受け入れれば お前はもう二度と政宗の刀として死ぬことは出来ない」
2015-08-01 00:51:41![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「かといって、命を救った家人の恩に報いず消えてしまえば 楽にはなれても、お前はやはり政宗の刀とは呼べない存在になる」 光忠「…うん」 倶利「だから、どこに身を定めることも…心を定めることもできない。 ……板挟みになった心の間で引き裂かれる。…それが辛いんだな?」
2015-08-01 00:55:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「今、お前が抱えているその不安定さは そんなお前の相反する望みが引き起こしたものだったんだな」 光忠「…倶利伽羅」 倶利「…光忠」 (不安げに揺れる光忠の存在を確かめるように 全身でぎゅっと 力強くその体を抱きしめる…もう、けして放しはしないように)
2015-08-01 01:01:34![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「今まで、わかってやれなくてすまなかった ずっと独りにして悪かった。もう俺は、お前を独りにはしない」 光忠「…倶利伽羅」 倶利「それがお前の背負う業だというなら、俺にもその荷を分けてくれ ……『相棒』だからじゃない…ましてや『親友』だからでもない」
2015-08-01 01:09:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「好きだ光忠。もう、ただの友とは呼べないほどに、俺はお前を愛している」 光忠「…倶利伽羅」
2015-08-01 01:13:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「強くて美しく、したたかだが忠義と情に厚いお前が好ましかった。 この胸と背中を預けられるのはお前だけだと、他の誰よりも信頼していた」 光忠「…ぁ」 倶利「……その気持ちは、今も変わっていない。俺が『相棒』と呼ぶのは 後にも先にもお前だけだ」(耳元で囁くように告げ)
2015-08-01 01:21:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
倶利「だが、人の身を得て、弱くて儚げなお前を初めて知った俺は その汚さも脆さも、お前の中に在る清濁を併せて…すべて呑み干したいと思った」 光忠「……」 倶利「他の誰かにこの場所を渡すことなどできない。誰よりも慕わしく恋しいと ……お前だけが欲しくて愛しくて堪らないと」
2015-08-01 01:26:42