オカルト探偵あきつ丸 -深淵の呼び声-

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次のオカルト探偵あきつ丸シリーズです。 今回は民俗学方向から捕らえたお話。 是非ご堪能くださいませ! 続きを読む
1
前へ 1 2 ・・ 6 次へ
竹村京 @kyou_takemura

私をここまで駆り立て、導いた書の記述を現代語に直せばおおよそ次のようなものだ。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:03:12
竹村京 @kyou_takemura

浜に女が打ち上げられた。肌と髪は真っ白で金色の目のこの世のものとは思われぬ美女であったが、唖であるのか頑なに口を開かない。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:05:27
竹村京 @kyou_takemura

かなり弱っているようだが介抱しようにも近付く者を激しく威嚇するのでそれもできず、女は朝から晩までずっと浜を歩き続けて何かを探しているようだった。 見捨てるのも忍びないので食い物だけは朝夕に運んでやったが、そのまま衰弱して数日後にころりと死んでしまった。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:10:14
竹村京 @kyou_takemura

その容貌と不思議な行動からいずれ海の神か竜宮の女かであろうという事になり、荼毘に付したあとで祠を建てて祀った。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:11:41
竹村京 @kyou_takemura

間もなく女が打ち上げられていたところからいくらか離れた所に杖のようなものが打ち上げられているのが見つかり、女が捜していたのはこれだろうということでこれも祠に納めた。 ところが、その後何日も続けて海が荒れに荒れて人死にまで出る有様になった。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:12:52
竹村京 @kyou_takemura

村の長たちは海の神が女と杖を返せと荒れているのだろうと目星を付けたが、それをどうやって返せばよいのかが分からない。女に至っては既に灰になっているので、それを返せば逆に海の神の怒りを買うだろう。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:14:36
竹村京 @kyou_takemura

そこで浜に近い場所に建てた祠を最も海から遠い島の中心にある山の頂に遷し、あとは村の者が総出で神楽を奉納したり酒の樽を海に流したりして祈り続けた。 それを数日間も続けるとようやく海は鎮まり、再び恵みをもたらすようになった。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:17:16
竹村京 @kyou_takemura

妖怪話の出来損ないのような話だが、私はこれが深海棲艦であると思う。 深海棲艦が大々的に人類に対する攻撃を始めたのはごく最近の事だが、生物である以上いきなり現れるはずはない。かつてはゴリラのように発見されていなかったか、UMAか何かとして扱われていたに違いないのだ。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:20:44
竹村京 @kyou_takemura

肌と髪が白く目が金色というのは、空母ヲ級と思われる。そしてそれが捜していた物がこの洞窟に現存するはずなのだ。 私は、これからそれを手に入れる。本物の深海棲艦の遺物を手に入れれば私の研究は素晴らしい成果を生むだろう。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:23:08
竹村京 @kyou_takemura

―――手記はここで終わっている。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:25:25
竹村京 @kyou_takemura

「なああきつ丸。お前、いつまで炬燵に入ってるんだ」 「これは異なことを。夏の炬燵というのはひんやりしていて気持ちの良いものでありますよ。冬暖かく、夏涼しいとは実に有能なやつであります」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:26:35
竹村京 @kyou_takemura

あきつ丸は炬燵に入ってくつろいでいる。初夏の、あきつ丸の私室である。それを提督が珍奇な生物を見るような眼で見降ろしている。 「要するに、馬鹿なのか?」 「馬鹿とは何でありますか。あ、これまるゆ、アイス取ってくるであります。あずきバーでありますよ」 「はーい」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:31:50
竹村京 @kyou_takemura

まるゆがとたとたと冷蔵庫に向かい、アイスを取り出す。こちらはいつもの水着姿で、貧相だが室内で水着というのは目の毒には違いない。 「人の話を聞け馬鹿。結局暑いんじゃねえか」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:33:03
竹村京 @kyou_takemura

「カリカリしていると禿げるでありますよ。どうでありますか、提督殿も?」 「あずきバー?」 「炬燵であります」 「やだよ暑っ苦しい」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:34:54
竹村京 @kyou_takemura

その時、炬燵の上で充電していたスマートフォンが着信を知らせる。その番号を見て、僅かにあきつ丸の目つきが変わった。 「提督殿、少し外していただきたいであります」 「出ていいぞ、待ってるから」 「そうではなく。提督殿は乙女と恋人の会話を盗み聞きする出歯亀でありますか?」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:37:05
竹村京 @kyou_takemura

「お前、まだ恋人ネタ引っ張るのか。わかったよ、邪魔したな。そうだこれ書いとけよ」 提督は持ってきた数枚の書類を炬燵の上に置いて退出していった。書類はあきつ丸の休暇申請である。たびたび突発的に外出するので、申請がこうして事後になることも少なくない。#落ちぬい二次

2015-07-02 21:39:15
竹村京 @kyou_takemura

ドアが閉まったことを確認してから電話に出る。 「あきつ丸であります。仕事ならお断りであります」 『公務員の言葉ではありませんね』#落ちぬい二次

2015-07-02 21:45:10
竹村京 @kyou_takemura

電話の相手は部下で憲兵中尉の大月である。あきつ丸は陸軍軍人が指揮するこの特異な鎮守府に所属しながら、それとは別に憲兵としての任も負っているのだ。 「どうせならギリシャの公務員になりたかったでありますよ」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:46:44
竹村京 @kyou_takemura

『きっとあきつ丸どののような公務員ばかりだから国が傾いたのですね』 大月は世間話を早々に切り上げて本題に入る。 『地方欄に小さく掲載された程度なのでご存知ないとは思いますが、昨日、東京の離島で駐在が暴漢に襲われて銃を奪われました』#落ちぬい二次

2015-07-02 21:51:09
竹村京 @kyou_takemura

「はあ、阿呆な駐在でありますな」 炬燵の天板に顎を載せてあずきバーを齧る。 『島民全員が顔見知りの暢気な島ですから、そもそも緊張感は初めからなかったのでしょう』#落ちぬい二次

2015-07-02 21:53:35
竹村京 @kyou_takemura

「どうせニューナンブかM37でありましょう? 五発撃たせてから取り押さえればいいであります。素人が撃っても当たるものじゃないでありますよ」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:54:51
竹村京 @kyou_takemura

『そういうわけにはいきませんよ、警察にも面子があります。警官から奪われた拳銃で血が流れたとあれば地域部や警備部の頭も飛びかねません』 「で、自分に尻拭いをしろと? さすがに管轄外でありますよ」#落ちぬい二次

2015-07-02 21:57:23
竹村京 @kyou_takemura

今度の仕事はごねれば断れるかも、と炬燵に深く入り直すあきつ丸に、大月が無慈悲な追い打ちをかけた。 『いや、ところがそうでもないのですよ。襲った凶器は鈍器ですが、微物検査で人工的に作る事ができない物質が検出されまして』#落ちぬい二次

2015-07-02 21:58:38
竹村京 @kyou_takemura

「ははあ。当ててやりましょうか。主成分は硫化鉄、奴らの艤装であります」#落ちぬい二次

2015-07-02 22:00:28
竹村京 @kyou_takemura

深海棲艦の艤装は詳しく解明されているとは言い難いが、素材や概念的な部分ならばおよそ解明されている。主な素材は硫化鉄。海底の熱水噴出孔に棲息するウロコフネタマガイと同じく、生物的に合成された金属である。#落ちぬい二次

2015-07-02 22:01:34
前へ 1 2 ・・ 6 次へ