オカルト探偵あきつ丸 -深淵の呼び声-

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次のオカルト探偵あきつ丸シリーズです。 今回は民俗学方向から捕らえたお話。 是非ご堪能くださいませ! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

「牽制でいい!深海棲艦どもの相手はあの女に任せろ!俺たちは爺さんの救助が第一だ!」 あきつ丸は漁船の影から飛び出すと、巻子から出現させた烈風に駆逐イ級を狙わせた。 「はなみどり、あの女が引き付けている内に爺さんを釣り上げろ!」#落ちぬい二次

2015-07-02 23:38:01
竹村京 @kyou_takemura

ヘリが漁船に急行する。あきつ丸と交戦している駆逐イ級はヘリに意識を向けるよりも艦娘を撃沈する事に集中しているらしく、対空砲火はなかった。あきつ丸に対する攻撃も、やしまからの銃撃のおかげで三対一の割には激しくはないようだ。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:39:16
竹村京 @kyou_takemura

ここまではおおよそあきつ丸の想定通りに事が運んでいたが、戦闘の最中に老学者が予想外の事をしでかした。動かなくなった船を捨て、黒い杖――空母ヲ級の艤装を抱えて海に飛び込んだのである。 「なっ、命がいらんのでありますか!」#落ちぬい二次

2015-07-02 23:40:18
竹村京 @kyou_takemura

艤装が回収しやすくなったと見た駆逐イ級たちは砲撃をやめ、ひと塊になって老学者に殺到する。老学者は老学者で溺れそうになりながらも駆逐イ級に向けて泳いでいる。目がぎらぎらと輝いていて、明らかに正気ではなかった。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:41:35
竹村京 @kyou_takemura

「余計な事をしてくれるでありますな!」 あきつ丸も攻撃をやめ、老学者に向かう。しかし救助のためではない。黒い杖を引っ掴み、奪い取ろうとする。しかし老人とは思えない力でしがみついていて、引き剥がす事ができない。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:43:33
竹村京 @kyou_takemura

抵抗する老人が狂乱の叫び声を上げながら海面から手を持ち上げる。そこには警官から奪った銃、ミネベアM60ニューナンブが握られていた。銃口があきつ丸の顔に向けられる。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:46:22
竹村京 @kyou_takemura

老人は躊躇なく引金に力を込めた。さすがのあきつ丸も恐怖に身が竦んだ。砲を向けられるのとは違う、人を殺すための道具のよりリアルな恐怖だ。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:47:35
竹村京 @kyou_takemura

しかし、いつまで待っても弾は発射されない。老学者が二度、三度と力を込めても銃はその役目を果たさない。よくよく見れば、引金には安全ゴムが噛まされたままだった。かといって安心はできない。深海棲艦たちが今もなお自分たちに迫っているのだ。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:49:54
竹村京 @kyou_takemura

「このっ、驚かせてくれるでありますな!」 一瞬の硬直から解放されたあきつ丸は杖を無理矢理もぎ取るのを諦めて手を放し、急いで海水を掬って口をゆすぐ。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:51:18
竹村京 @kyou_takemura

「神の御息は我が息、我が息は神の御息なり。御息を以て吹けば穢れは在らじ、残らじ。阿那清々し、阿那清々し!」 そして老学者に思いきり息を吹きかけた。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:52:27
竹村京 @kyou_takemura

そして老学者に思いきり息を吹きかけた。 伊弉諾が狭霧を吹き払ったことに倣う伊吹法による祓いである。咄嗟の事で深海棲艦の精神干渉にまで効果があるかどうかは賭けだったが、老学者は息に吹き飛ばされるようにのけぞり、昏倒した。銃が老人の手を離れ、海に沈んでゆく。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:53:43
竹村京 @kyou_takemura

脱力した腕から杖を引き抜き、頭上に掲げる。 「大月!」 あきつ丸がやしまに背を向けたまま大きく杖を振り、続いてそれを高く放り投げた。 やしまでは意図を察した大月が船長に指示を飛ばし、船長から機銃を操作している隊員に指示が下された。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:55:12
竹村京 @kyou_takemura

「船長!」 「杉本、あの杖を撃て!」 数瞬後に火線があきつ丸の頭上を貫き、杖は木端微塵に粉砕された。艤装を回収すべく急行していた深海棲艦たちが悲鳴のような叫びをあげる。 「ざまあみろ!」 やしまの船橋で鬨の声が上がる。#落ちぬい二次

2015-07-02 23:56:59
竹村京 @kyou_takemura

すぐにはなみどり2号があきつ丸らの真上に到達し、強烈なダウンウォッシュがあきつ丸を叩く。降下してきた救難員が気を失った老学者を結び付けて吊り上げようとするところに、あきつ丸もしがみついた。 「あんた艦娘だろ!」#落ちぬい二次

2015-07-02 23:59:43
竹村京 @kyou_takemura

「弱い艦娘でありますよ。とてもとても、三隻も相手にできないであります」 言外に戦えと言う救難員に対して、軍人らしからぬ自分の戦闘力の弱さを披瀝する。眼下では先程まであきつ丸が立っていた海面に駆逐イ級の砲弾が降り注ぎ、水しぶきをいくつもあげていた。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:01:32
竹村京 @kyou_takemura

「じゃあ戦闘なんて強い奴に任せとけよ!」 「そうもいかないのが辛いところでありますな。それに……」 「それに?」 言い合っているうちにホイストが巻き取られ、三人はキャビンに到着する。 「おい、それに何だよ、気になるじゃねえか」#落ちぬい二次

2015-07-03 00:02:52
竹村京 @kyou_takemura

救難員を手振りでまあまあと抑えて、海面を見る。駆逐イ級たちがヘリに砲を向けるのが見えた。対空射撃に長けた艦種ではないが、めくら撃ちでも当たればこのヘリなど一発で墜ちる。下を見る救難員の戦慄が感じられた。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:05:54
竹村京 @kyou_takemura

キャビンの緊張を尻目に、あきつ丸は右手を剣指に固め、唇に当てて小さく命じる。 「やれ、まるゆ」 「「「「「まるゆ、がんばりまーす!」」」」」 海からそんな間の抜けた声が聞こえた気がした。 そしてその数秒後、巨大な水柱が連続して上がり、三隻の駆逐イ級を飲み込んだ。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:07:14
竹村京 @kyou_takemura

「な、なんだあ!?」 ヘリパイが驚いて一瞬ヘリがふらつく。 「弱い者は弱いなりに、戦う方法はあるのでありますよ」 あきつ丸はこちらに顔を向ける救難員とヘリパイににやりと笑ってみせた。 駆逐イ級に攻撃をかける前に、式神まるゆ1号から5号を海中に潜ませていたのだ。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:08:49
竹村京 @kyou_takemura

水煙が晴れてみると、三隻のうち一隻を撃沈、残る二隻は大破状態だった。 「大月、こっちは弾が心許ないでありますが、一隻そちらに任せられるでありますか?」 通信機の向こうから大月が宮濱に尋ねる声が聞こえる。 「こちらにはまだ弾は充分にあるはずだな、船長?」#落ちぬい二次

2015-07-03 00:09:56
竹村京 @kyou_takemura

しばらくの沈黙の後、宮濱船長が重々しい口調で答えた。 「…………いや、断る。海保は軍じゃねえ。身動きできねえ奴を撃てるか」 「で、ありますか。やれやれ、荷が重いでありますな」 うんざりした口調とは裏腹に、あきつ丸の顔にはすっきりした笑みが浮かんでいた。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:11:18
竹村京 @kyou_takemura

「では、まあ。軍人のお役目を果たすであります」 はなみどり2号のキャビンから身を乗り出して砲を構え、全ての烈風を放つ。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:13:13
竹村京 @kyou_takemura

「それっ、一斉撃ち方!」 片方には砲弾を、もう片方には機銃弾を雨霰と打ち込む。しばらくは耐えていた駆逐イ級たちだが、やがて苦悶の叫びを残して海に沈んでいった。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:14:34
竹村京 @kyou_takemura

深海棲艦の撃沈から数分後、反転したやしまの後部飛行甲板にはなみどり2号が降着した。キャビンからはまず救難員、次いでストレッチャーに固定された老学者、最後にあきつ丸が姿を現す。出迎えた大月は労いの言葉もなく、淡々と救難員に指示を下した。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:16:27
竹村京 @kyou_takemura

「ご苦労。こいつは拘束を解かず医務室に閉じ込めておくように」 「……はいよ」 救難員は露骨に嫌な顔をしたが、大人しく従う。命令系統が違うとはいえ憲兵に逆らっても面倒なだけだというのはよく知られている。#落ちぬい二次

2015-07-03 00:17:49
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