新聞屋まとめ1

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【Trick or treat🎃】 有害な物質に触れると変色する食器がある。銀食器と硫砒鉄鉱は有名な話だが、最近ではより有害物質の発見に優れた食器類が店頭に並ぶ。今日はハロウィン。つい貰い物を食べてしまいがちだが、件の食器が反応するような心ない悪戯を企む者が出ないことを切に願う。

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🎃 「トリックオアトリート！」 「戸棚にドライフルーツがある」 「全く、お菓子を用意してないなんて夢も希望もない新聞屋ですね」 (溜息もそこそこに、女は箱を取り出し男に見せた) 「何だそれ？」 「火薬ちゃんに頂いたもので、ロシアンルーレットなクッキーらしいですよ」

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@gossip_n_p 「俺は絶対食わないからな」 「まあまあ、そう言わずに！9個も入ってるんですよ？先輩がハズレを引く確率なんて低い低い、まるで海抜ゼロメートル地帯です」 (箱の蓋を開け、女は既に準備が出来ているようだ。こうなってはどんなに男が拒否しても無駄である。)

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@gossip_n_p 「先輩、お先にどうぞ！」 (9つのクッキーが並ぶ。右か。男は右利きだ。それとも中央か。罠の可能性が拭えない。……右から3番目のクッキー。男は藁にも縋る思いでそれを摘んだ) 「じゃあ私はー……」 (女の指は迷った挙句、中央のそれを手に取った)

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@gossip_n_p (お互いが緊張した面持ちで、クッキーを口に運ぶ。歯が洋菓子を踏み潰し、ぼろぼろとその形を崩してゆく。) 「ーーーーーーッ！」 (9つの洋菓子の中から東国の辛味を選び取ったのは、もちろん男であった。)

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@gossip_n_p 「鼻……ッ、鼻が死ぬ、馬鹿になる……ッ」 「わ、わっ、これの中身って……劇薬だったんですか!?」 (目頭を押さえ、涙を滲ませながら男はソファでのたうちまわる。ロシアンルーレット、とは聞いていたが本当に死に至るようなものが入っているとは考えていなかった)

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@gossip_n_p 「痛え……ッ、これは……」 「せ……先輩……？」 (男の、充血した目から流れる涙を見た途端、取り返しの付かないことをしてしまったと血の気が引く) 「……砒素だ、俺はもう、……お前は早く逃げろ、いいな？」 「や、嫌ですよッ！何で、何でっ、」

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@gossip_n_p 「ひ、砒素なら、これで判るはず……！」 (女は震える手で、今朝の新聞に載せたばかりの通称「毒味スプーン」を取り出し男の口の中に突っ込む) 「ぐ、」 (男は山葵の辛味と混ざり合った銀の味に呻いたのだが、女は余計に混乱した)

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@gossip_n_p 「…………あれ？先輩、これ砒素じゃないですよ？」 「…………は？」 (スプーンには何も変化がない。そう言われてみると男も、急性砒素中毒に見られる発汗症状や嘔吐が無いことに気が付いた。) (女はスプーンを男の口から取り出す。)

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@gossip_n_p 「……辛い」 「辛い？」 「辛い」 (男はようやく理解した。突然のことで頭が回らなかったが、これは強烈な辛味だ。からく、つらい。ハロウィンという行事が運ぶ甘やかさとはかけ離れた辛味だ。)

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@gossip_n_p 「薬味かよ……」 「砒素だ！って大騒ぎしてたのが馬鹿みたいですね」 (植物図鑑を捲っていた男は、Wasabiの項目を見つけると疲れ切った溜息を吐き出す。手元にはドライフルーツ、今は女がせめてもの償いに、とホットチョコレートを作っている)

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@gossip_n_p 「リズ、」 「何ですか？」 (機嫌と鼻の痛みを治した男は、ホットチョコレートを運んできた女を呼び止める) 「何か言うことは？」 「え？……ああ、ええと、ごめんなさい」 (謝罪がまだであった、と女は頭を下げる) 「そうじゃなくて、」

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@gossip_n_p 「……あ！トリックオアトリート！」 「はいはい、よくできました」 (男は机の側のチェストからマフィンを取り出した。有名な菓子店のものだ。) 「いいんですか？」 「食っておけ、あまり日持ちしないぞ」 「もしかして山葵が、」 「入ってない」

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「もういくつ寝ると素敵な休刊日ですねえ」 「12月の第三日曜、それから1月1日か。目白押しだな」 「私、プロポーズの言葉は『今日は新聞製作を休み、明日の朝刊は休刊とさせて頂きます。ご了承ください』がいいです！」 「本当に言ってんのか？」

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「お休み中に号外を出さなきゃいけないような出来事だけは起きて欲しくないですね」 「議会の解散やら選挙の結果やらは記事にしなきゃいけないからな」 「……結婚したい男性ランキングの、1位と2位が立て続けに結婚した場合は号外出ますか？」 「出るわけないだろそんなの」

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＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 14日の投開票に向け、 当日まで公平を損なう報道をしないよう心掛けて頂きたい。 これだけで、聡明な君達なら解るだろう。 ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ 「先輩、見ました？政治家さんからのふざけたお手紙」 「見た。書き始めから終わりまで癪な書き方だったな」

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@gossip_n_p 「そもそも俺たちはニュートラルだ。右にも寄らなければ左にも寄らない」 「まあ、従業員が二人の時点でそれも危ういんですけどね」 「それを踏まえて送ってきたんだろうな、あの狸ジジイ」 (文句を垂れながらも、男はその上質な紙を使った手紙をしまい込んだ。)

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@gossip_n_p 「そういえば、投票予定の政党について街頭調査をしたんですけどね。一番多い回答、何だったと思います？」 「大方、『選挙権なら売ったよ、いい金になるんだ！』ってところだろうな」 「大正解！買収が平然と横行してますからねえ、狂ってますよ」

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@gossip_n_p 「アギーレさんもびっくりの八百長が当たり前なら尚更、政治家さんがこんな手紙を寄越す理由がわかりませんね」 「それも含めて釘を刺してるんだよ、『絶対に報道するな」』ってな」 「前フリのように聞こえますね」 「熱湯風呂に突き落としてやりたくなるよな」

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「先輩宛てに差出人不明のお歳暮が届いてますよ」 「胡散臭いな、捨てるか」 「いやいや、せめて中を確認してからにしましょうよ…………何ですかこれ、ピン？」 (女が薄い木箱の蓋を開けると、そこにはウサギやらハートやら、女児向けの可愛らしい髪留めが入っていた。)

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@gossip_n_p 「ああ、なるほど。先輩いつもお仕事中に私のピンで髪留めてますもんね！」 「……これは、脅迫だな」 (男は箱の中の色とりどりに輝くピンの中から、幾つか取り出すと手の平に乗せて険しい顔を覗かせた。可愛らしい髪留めと脅迫。接点が無い二つに女は首を傾げる。)