「千の想いを」~最終章 クライマックス3『到達点』~
- mamiya_AFS
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@Yubari_Yasaka @tiyodadayo ちょっと長門さんを『止めてきます』。 天龍さんはなるべく早く用件を済ませてきて下さい。あ、千代田との交際は姉さん認めませんからね。
2015-04-25 20:58:46一瞬で真っ赤になる天龍に肩越しの微笑が向けられてから、扉が閉じられる。 次いで向けられる視線の群れに耐え切れないようで、大きく音を立てて椅子から天龍も立ち上がる。
2015-04-25 21:03:59……。 姫は見下ろしていた。 白衣を着た男は、腰が抜けてしまったのか尻餅を着いたままずりずりと退がっていく。やがて壁に背がぶつかり、がちがちと歯を鳴らしながら涙だらけの顔面で姫を見上げるばかりだ。 彼は何に怯えているのだろう。 姫は考える。 両手から鮮血を滴らせながら。
2015-04-25 21:10:06一歩前に進むと男の口から悲鳴が漏れた。 後ろに退がれないからか横に動こうとし、指先が辺り一帯床にぶちまけられた同僚の体液や臓腑に触れて更に大きな悲鳴を上げる。 姫はにこりと微笑んでみせた。 「助ケテヤロウカ?」
2015-04-25 21:14:00男の目が瞬く。 あっという間に室内にいた職員6名を物言わぬ肉塊に変えた化け物が言葉を発したからか、あるいは言葉の内容に驚いたのか。はたまたその両方か。 「助ケテヤロウカ?」 手の鮮血を舐め取りつつ、もう1度だけ聞いてみる。
2015-04-25 21:16:07「ひ、ぁ…。たす、たす……。助け、て…くれるのか? …ですか?」 パニックがほんのわずかだけ落ち着いたのだろう男は鼻水をすすり、恐る恐る怪物に尋ねる。外見だけならば美しい女性にしか見えないのは、彼にとって救いなのか違うのかはわからない。
2015-04-25 21:19:08笑顔で頷いてみせる。 男の口元もつられてわずかに笑みの形となる。それはご機嫌をとる為のへつらったものであり、同時に安堵から思わず漏れたものでもあり。 胸を貫かれても、しばらく彼は笑んだままであった。 「………え?」 笑んだまま、男はゆっくりと自分の身体を見下ろす。
2015-04-25 21:22:14即死する事ができず、ほんの1瞬でも抱いてしまった希望が費えた男が血を吐きながらのたうつのに興味を向けもせずに、姫が通路へと繋がるオートロックの扉の前に立つ。 今も当然施錠されているが、職員全員が持っているカードキー1枚あれば開く。例えそうでなくても彼女の力なら抉じ開けられるが。
2015-04-25 21:27:51殴れば簡単に開けられる。 だと言うのに。 彼女は『のたうつ男の胸ポケットからカードキーを抜き取り、リーダーを通した』。 小さな電子音が響き、扉が横にスライドする。
2015-04-25 21:29:55白を基調とした通路が左右に延びている。 彼女は迷う事も無く右へ向かう。事実、左に向かっても資料室や倉庫等があるだけだった。 『知っている』。 この施設の構造は隅々まで。 何故なら。 『自分が設計に最も携わったのだから』。
2015-04-25 21:32:36『それ』は最初は海藻を貪るだけの存在だった。 やがて大きくなると小魚やヒトデなどを捕食し始めた。 徐々に大きくなっていく身体に合わせて、貝や海老、蛸等といった殻を持っていたりと捕まえるのが困難だったものも食べれるようになっていった。
2015-04-25 21:35:24『それ』は食した生物の『長所』を自らの身体に反映させる能力があった。 鮫を取り込んでから『それ』の成長は加速する。 ある個体が、海底に沈んでいた船を一隻見付けた。それは鉄を多く使っており、また火薬という存在を大量に積んでいた。
2015-04-25 21:38:17『それ』は進化し、更に餌を欲し始める。 今までは餌ではないと放置していた海上を走っている鉄の塊に目を付けた。 取り込んだ金属で構成された装甲と、火薬があれば下手な小魚よりも簡単に捕まえる事ができた。 思わぬ事に気付く。中に乗っていた陸上生物は大層美味であると。
2015-04-25 21:42:02美味、というのは旨い不味いの話ではない。この陸上生物には海にいるどの生物と較べものにならない程の高い思考能力を持っている。 結果、今までほとんど成長する事の無かった『それ』の脳は著しく変貌を遂げる。 いつの頃からか、その陸上生物の1部が自分達を攻撃してくるのに気付いた。
2015-04-25 21:44:52姿は陸上生物のままで、船にも乗っていないくせに武器を操っている。 多くの仲間がそれにやられはしたが、それを食べる事にも何体かは成功した。 無論。 それの長所は『それ』にとっては大変美味であった。
2015-04-25 21:46:46ある時姫は最上級の餌を逃した。 だがどうだろう、その餌を追ってみれば海中にあるではないか。 黒い長髪の1本も残さずに、姫はそれを平らげた。 美味しかった。 美味しかった美味しかった美味しかった美味しかった美味しかった美味しかった美味しかった美味しかった美味しかった
2015-04-25 21:48:49だがしかし、その餌の長所を発現するのを姫は畏れた。 この餌の身体能力や思考能力は今までの餌よりも上質ではあったが、最も長所である『意思』が強過ぎると感じた。 下手に発現させようものなら、むしろこちらが取り込まれる事になりかねない、と。
2015-04-25 21:51:18その為今まで取り込みはしたが発露させていなかったが、身体の半分以上を失うダメージを受け、姫は止むを得ず再生の為の遺伝情報としてその餌のデータを使った。 『意思』は、自分をここまで追い込んだあの2匹への『憎悪』と『殺意』で強引に押し込み。 成功だった。
2015-04-25 21:54:53『外見』はほぼ全て。 『記憶』は必要に合わせて取り出せる。 『意識』も大分餌の特徴に奪われてしまったが、それでも姫は姫たりえた。 もっと血肉を。もっと絶望を。 姫は歩く。 「オ腹空イタ」 無意識に出た言葉に突き動かされるようにして、姫は進む。 長髪を揺らしながら。
2015-04-25 21:59:10