細菌が病原体として認識されるようになった頃

19 世紀半ばから後半にかけての、細菌が病原体として認識されるに至った経緯を @y_tambe さんが解説してくれた。
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Y Tambe @y_tambe

さて、さらに時代が進み、ミアズマ説の最大の「瑕疵」であった、「伝染」という現象が実証されます。1787年に、ウォルシュタインによって、馬鼻疽という病気が、病気のウマの膿から別のウマに感染しうることが示されます。他にも、19世紀初頭には植物やカイコなどで同様に「伝染」が証明されます

2011-01-05 19:33:47
Y Tambe @y_tambe

ヒトの病気についても、1839年に、頭の白癬(しらくも)がカビによって怒ることが証明され、「伝染」という現象の存在が明らかになりました。

2011-01-05 19:36:57
Y Tambe @y_tambe

これらの知見の蓄積を受けて、コッホの師匠であるヘンレが1840年「多くの疫病の原因は、コンタジオンであり、それは生物の可能性があること」を唱え、さらにその病気の判断に対する原則として「ヘンレの3原則」を提唱します。(詳細はウィキペディアの「コッホの原則」を)

2011-01-05 19:38:41
Y Tambe @y_tambe

ただし「ヘンレの3原則」の当時は、まだ細菌を純粋培養するすべがありませんでした。ヘンレが偉大だったのは、当時の技術ではまだ不可能だった「病原菌の分離」が必須であることを予言していたこと。ともあれ、当時ゲッチンゲン大の学生でヘンレに学んだコッホは大きな感銘を受けたわけです。

2011-01-05 19:42:52
Y Tambe @y_tambe

そして、1876年にコッホは、とうとうヘンレが予言した「3原則」を満たすものを見いだした…というわけです。

2011-01-05 19:43:58
Y Tambe @y_tambe

ただし、ヘンレ〜コッホの間にも、いくつかの傍証が集まっていたことにも触れておく必要があるでしょう。

2011-01-05 19:46:12
Y Tambe @y_tambe

1849年には、ドイツのポレンダーが炭疽の動物の血中に「桿状の微小な生物がいる」(=炭疽菌)ことを発見してますし、1863年にはフランスのダヴェーヌが、この血液で動物を炭疽に感染できることなどを見いだしてます。

2011-01-05 19:47:02
Y Tambe @y_tambe

ただし「病原体を単独で分離できた」というのが、コッホの実験のいちばんのポイントであり、これが「コンタジオン説の実証的証明」であると共に「細菌が病原体である」証明になったわけです。

2011-01-05 19:48:36
Y Tambe @y_tambe

ただし、一応補足しておきますが、この一連の流れで「ミアズマ説が否定された」というわけでは、必ずしもありませんので、お間違えのないよう。ただし、実験的に証明された「コンタジオン説」に対し、ミアズマ説では、このような「実験的証明」がされなかったのです。

2011-01-05 19:52:00
Y Tambe @y_tambe

この当時のミアズマ説は「作用メカニズムは提唱されたが、証明されない仮説」、つまり今の世に言う「ニセ科学」と似たような境遇になった、と。

2011-01-05 19:54:24
Y Tambe @y_tambe

一方でコンタジオン説は、コッホによる実証実験に加えて、ヘンレの3原則を土台にコッホが提唱した「コッホの原則」という、実証のための指針が示されたことによって、一気に進展します。その方法論にしたがって、一気にさまざまな病気の「病原細菌」が発見された。

2011-01-05 19:57:50
Y Tambe @y_tambe

そうして、あれよあれよという間に、当時の「疫病」の正体が、さまざまな微生物によるものであることが判明し、これらが「伝染病」そして「感染症」という疾患のカテゴリーになったというわけです。

2011-01-05 19:59:28
Y Tambe @y_tambe

もちろん、今日知られているように、疾患には感染症以外のもの(病原体が微生物ではないもの)もたくさんあります…が、この当時、社会的に問題視されていた疾患の大半は、感染症であり、かつ伝染病でした。

2011-01-05 20:00:45
Y Tambe @y_tambe

また「微生物が原因」ではあっても、必ずしも「伝染病でない」ものもあります。また、実は「感染症でない」ものも、ごく一部にはあります。

2011-01-05 20:02:53
Y Tambe @y_tambe

例えば、ボツリヌス菌や黄色ブドウ球菌による食中毒(毒素型食中毒)なんかはその例。これらの場合、菌がヒトの体内で増える(=感染する)必要はなく、食品中で増殖する際に作った「毒素」が問題になるわけです。

2011-01-05 20:03:56
Y Tambe @y_tambe

あ、ここで毒素型食中毒を持ち出したのは余計だったか…一応、ペッテンコーファーが唱えていた「環境説」(ミアズマ説をベースに微生物の働きを取り込んだ仮説で、Natureの創刊号を飾る論文として発表された)のモデルに近い疾患の例には当たるのだけど。

2011-01-05 20:07:27
Y Tambe @y_tambe

随分伸びたな。 @kumikokatase さんの質問を勝手に補完すると、「細菌が病原体であることの『証明』はコッホの1876年の実験が最初」。ただし「1840年頃から、それを支持する観察結果は既にいくつかあった」「その前身となる考えは1546年には発表されていた」

2011-01-05 20:12:28
Y Tambe @y_tambe

「ハーネマンが活躍した当時は、ミアズマ説よりもコンタギオン説が有力になりつつあった時代であった」……こんなとこかな。

2011-01-05 20:13:28
Y Tambe @y_tambe

あ、それと「ミアズマが『伝染病の原因である』という説は、未だに証明されていない」……ここも厳密に言うなら、例えば火口からの火山ガスとかによるものを「瘴気」と見なせば、ある種の疾患とか中毒の原因にはなりうるのだけど、まぁかなりの特殊な例になりますし、伝染はしない。

2011-01-05 20:17:13
うさぎ林檎@ししょーPPMPP💉💉💉💉💉 @usg_ringo

ハーネマンは『慢性病論』中で慢性マヤズムを"敵意に満ちた己の生命を寄生生物のように入り込ませ"、"人体の寄生体"、"半ば精神的な病原寄生因子"と表現しています。と言ってもハーネマンの叙述を現代用語で解釈するのは難しいとは思います。

2011-01-05 20:29:13
Y Tambe @y_tambe

個人的なイメージとしては、ペッテンコーファーとは別の形で、ミアズマ説とコンタジオン説の融合を図ったような印象ですね…しかも単純な「物質レベル」でなく。"@usg_ringo ハーネマンは『慢性病論』中で慢性マヤズムを"半ば精神的な病原寄生因子"と表現しています。"

2011-01-05 20:32:51
Y Tambe @y_tambe

いえいえ、こちらこそ。独自解釈的だったり、結構いい加減な部分もあるかもしれないですが、そこは、各自「戸田新細菌学」等で確認していただきたい、ということで…。 "@satodainu 勉強になります。ありがとうございました。 "

2011-01-05 20:34:47
切り取り線 @kiri_tori

✄------------ 1/6(木) ------------✄

2011-01-06 00:00:02
Y Tambe @y_tambe

昨日の一連のつぶやきを読み返してみると、まだ細部の甘さが残ってるなぁ、と実感。

2011-01-06 10:36:33
Y Tambe @y_tambe

というか、この辺りはいくらでも、いろんな話題に派生して、際限なく話が続けられるところでもあるのだけど。

2011-01-06 10:37:52
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