妖怪ウォッチ二次創作長編:くれは舞う風第二話『小さな来訪者・巨大な襲来者』
- minarudhia
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メラメライオンが胡散臭そうに妖怪を見やる。 モテマクールと呼ばれた妖怪は軽く肩をすくめた外国人風の仕草で返した。 「そう邪険にしないでくれよ。彼女は僕の力の影響を受けないみたいだし、色目をつかいに来たわけじゃない」 「相談って?」 25
2015-07-29 23:02:19「君の仲の良い同僚の…早苗ちゃんって子に関係があるんだよ」 秋奈は意外な名前に首を傾げた。 早苗は秋奈の同僚であり幼なじみ。 彼女に何の用があるというのか。 「僕の取り付いてる彼がモテるのは知ってるよね?」 26
2015-07-29 23:03:54「え、ええ…」 「実は彼、早苗ちゃんのことが入社した頃から好きらしくてね。社内に彼のファンが多いから言い出しづらいみたいなんだよ」 そう持ち出すモテマクールにメラメライオンが横から聞いた。 「離れる気はないのか?それでできたファンの方が多いだろ」 27
2015-07-29 23:06:37「彼の願望が叶ったらね。だから君の力もちょっとだけ貸してくれないかな?」 「オレの?」 「そう、君達メラメライオンの“アツさ”を貸してほしいんだ」 28
2015-07-29 23:09:35「結局引き受けたけど、本当に大丈夫なのかしら…?」 「あいつは取り付いた奴を幼女から婆さんまで女からモテモテにさせるだけだからな。ああ見えてオレより高位の妖怪だから影響力はかなり強い。その分単独で叶えづらい領域だからオレ達をアテに来たんだろ」 30
2015-07-29 23:11:48タイムカードを切り会社を出て、一人と一体は連れ立ち歩いた。 モテマクールはメラメライオンのとりつきによってもたらされる“熱意”を頼りにしてきたのだ。 メラメライオンも一応請け負いはしたものの、詳細を明日に話すという約束で切り上げた。 31
2015-07-29 23:14:05「………ねえ、メラメライオン」 「なんだ?」 メラメライオンに手を差し延べる。 「…ちょっとだけ、しおかぜ公園で、デートしない?」 「デート?」 「…あなたに助けられたあの夜にね、思ってたの。一緒にデートしてくれる人がいたらなあって」 32
2015-07-29 23:15:55あの夜。 数人の不良学生に襲われ、メラメライオンに助けられ、メラメライオンに“初めて”を奪われたあの夜。 「……この時間じゃ大して面白みないだろうが」 「ちょっと歩くだけでいいの。一緒に」 「…わかったヨ」 33
2015-07-29 23:17:42手を繋ぎ、しおかぜ公園に出て歩く。 潮風が生暖かく、打ち寄せる波も穏やかだ。 手に温もりを感じながら、秋奈は横手に広がる海を見つめた。 天気が良くないのは残念だが、繋がる手と手の温もりに彼女は安らぎを覚えた。 34
2015-07-29 23:19:22「人間のデートと聞くと行きたい場所に行って一緒に遊ぶとか買い食いするとか、そういうものだと思ってたんだが」 手を繋ぎながらメラメライオンはつぶやいた。 「何もせずに一緒に歩くのもデートなんだな」 「私も、あまりわからないけど…この空が曇ってなかったらもっと素敵だと思うの」35
2015-07-29 23:21:29言いながら秋奈は雲のかかる夜空を見上げた。 「だから言ったろ、あまり面白みがないって…………… ん?」 メラメライオンは空から海に目を移し、そして異変に気づいた。 立ち止まられてつまづきかけた秋奈も、不服を言おうとして後から気づく。 36
2015-07-29 23:24:10「…………霧………?」 海を、さくら中央街を、濃霧が覆っていく。 それは、時間をかけることもなく、秋奈とメラメライオンの周囲にも漂った。 「な、なに、この霧…?」 「…」 言いようのない不安に、秋奈は周囲を見回した。 37
2015-07-29 23:25:58「昔観た映画に、霧の中から怪物が出てきて人が襲われて、皆怪物から身を守るために建物にこもって助けを待つっていうのがあったけど…」 「……アキナ、逃げるぞ」 「えっ?」 険しい表情で呼びかけたメラメライオン。 その直後である。 38
2015-07-29 23:27:41ズゥゥウウウン…!! どこからともなく地面を揺るがす大きな震動。 そして。 アッカァアアアアアアアアアン!!! 腹の底から響かせるような恐ろしい大声が、秋奈の身をすくませた。 「な、何?何が起こって…」 「ここから逃げるゾ」 39
2015-07-29 23:29:55秋奈の手を引くメラメライオン。 「ちょっと待って、メラメライオン!これ、なんなの?これは妖怪によるもの?」 「そうだ」 メラメライオンは燃える目を秋奈に向けた。 「これは、“鬼時間”だ!」 40
2015-07-29 23:32:12濃霧に包まれたさくら中央街を不気味な影が闊歩し始めた。 それは小さな旗を片手に持ちながらもう片手が倍の大きさを持った青い小鬼であったり。 大きな一つ目を持ち音もなく浮遊するものだったり。 しかし、それらよりも遥かに圧倒的な存在感を持つものがアスファルトの上を我が物顔で歩いていた。
2015-08-04 22:13:57身長は……3mもあろうか? 腰周りに粗末な布を纏い、人間の胴体の倍もある鉄の金棒を担いだそれは、恐ろしい面構えの屈強な赤鬼だった。 「……あいつが邪魔だな」 狭い裏路地を出ようとした先に一つ目のモノを認め、メラメライオンは舌打ちした。 42
2015-08-04 22:15:54後から秋奈が続き、不安げに後ろを見遣っている。 「アキナ、少し待ってろ」 「え、ちょ、」 秋奈の制止を待たずにメラメライオンはすぐ横のビルの窓にかじりついた。 そこから壁から顔を出すパイプの上に跳躍、続いてビルの看板へ跳び乗る。 43
2015-08-04 22:16:57一つ目のモノ……見回り鬼はこの一連に気付いていない。 十字路まで出てキョロキョロと周囲を見回すばかりだ。 メラメライオンは看板の上で絶妙なバランスをとりつつ、見回り鬼がこちらへ来る瞬間を待つ。 まもなく、見回り鬼が十字路から戻ってきた。 44
2015-08-04 22:18:29それに気付いた秋奈がビルの陰に身をひそめる。 やがて見回り鬼が看板の下を通過しようとした時。 看板の上からメラメライオンが飛び降りた。 「メラーッ!」 見回り鬼の脳天めがけ、手刀を振り下ろす。 慮外の攻撃に見回り鬼が怯み、続けざまに回し蹴りが叩き込まれた。 45
2015-08-05 22:24:14身体をくるくる回転させたのち、見回り鬼は地面にぼとりと落ちて紫の煙と化し消えた。 メラメライオンは周囲を注意深く見回してから秋奈に手招きのジェスチャーを送る。 秋奈は先程からこの繰り返しを受けていた。 メラメライオンが言った鬼時間とは何なのか。 46
2015-08-05 22:27:58「無事に帰ることができたなら説明する」 と先延ばしにされ、小鬼や見回り鬼をかわしながら緊張に満ちたかくれんぼを続けていた。 見つかれば先程の地揺れと大声の主である赤鬼が追ってくる、とすぐに感づいたが。 「………出口はここにはないか」 47
2015-08-05 22:30:29駅前にある金色の卵のオブジェまでたどり着く二人。 しかし、周囲を見渡してメラメライオンはかぶりを振った。 「出口のある方向は…おっと」 見回り鬼と小鬼が別々の方向から来るのを卵の陰に隠れてやり過ごす。 48
2015-08-05 22:33:34