【ミイラレ!第十四話:ちのりちゃんのこと】(原文のみ)

年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。最後の戦いは唐突に。 こちらは原文のみとなります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/869531
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「侵入とか言われても困るよ。あたしだってこの学校の学生なんだし」「え?」「魔女になったのは去年の……えーと、夏休み?それくらいのことだからね。あたしはちゃんと学生です」薫は腰に手を当て、怜へ向き直った。「で、どうしてこんなことするかって?そりゃ面白いからだよ」49 #4215tk

2015-09-08 19:51:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「おも……!?」怜は絶句した。魔女は笑う。「意図せずとはいえ、魔女になったんだよ?だったらなにかしたいじゃない。面白いことをさ」彼女は芝居がかった調子で両手を広げた。「せっかく魔女になったんだから。派手なことをして楽しみたいじゃない。好きなように!」50 #4215tk

2015-09-08 19:54:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……ごめんね、草江ちゃん」唖然とする怜の耳に、申し訳なさそうな鹿島の声。「薫ちゃん、言い出したら聞かないから」彼女の言葉など聞いた風もなく、薫は小躍りしている。と。「おや」魔女は不意に空の彼方を見た。暗闇の中から飛び来たのは、赤髪の悪魔である。51 #4215tk

2015-09-08 19:57:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ヤッホー、トリル。待ちきれずに来ちゃった?」「四季はどこだ」着地して開口一番、悪魔は言った。そして魔法陣を一瞥する。「キミが上手くやってることは認める。ボクの力は好きに使うといい。けど、肝心なことを忘れてもらっちゃ困る」「大丈夫だって!さっきちのりちゃんが」52 #4215tk

2015-09-08 20:00:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『あーッ!?』突如として絶叫が響き渡る。一同の視線が声の主……壁に空いた忌月の口に集中した。「なんだ、騒々しい」『あ、あー、そのッスね』不機嫌に問われ、口はおずおずと答える。『ちのりのやつが、そのう……あの坊ちゃんを取り逃がしました』悪魔の眉間にしわが寄った。53 #4215tk

2015-09-08 20:03:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……時はやや遡る。「うふ、うふふ」ちのりと名乗った赤い怪異は、蕩けるような笑みを浮かべながら四季を撫で回していた。最初こそ身を強張らせていた四季も、今ではだいぶうんざりしてきている。どうやらこの怪異、見たものを殺すような凶悪な怪異ではないようだ。54 #4215tk

2015-09-09 18:51:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

しかしそれは事態の好転には繋がらない。怪異の液体状の体により、四季は体を動かすどころか声を出すこともままならないのだ。つまるところ、ただ時間ばかりが過ぎていく状況。これをどうにかにしないことには、事態は悪くなっていくばかりなのだが……『もう少し我慢しろ、大将』55 #4215tk

2015-09-09 18:54:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『ナナ?』脳裏に響いた念話に、四季は驚く。なんとかそれを表情に出さないよう苦心する彼に、ナナはさらに言葉を続けた。『ちょっと力を借りることになるけど……こいつを引き剥がしてみる。だからちょっと待ってくれ』『……わかった』四季はただそれだけを返す。56 #4215tk

2015-09-09 18:57:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『あー。ちのり?』そこに第三者の声が割り込んでくる。四季は目線をずらし、声の主を見つけ出した。天井に空いた小さな穴……いや、口か。「んー……忌月おねえちゃん?」『いつまでもベタベタしてちゃダメッスよ。気持ちはわかるけど』嗜めるような声が飛び出してくる。57 #4215tk

2015-09-09 19:00:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「やだぁ。もう少しこうしてるぅ」抗議の声を上げたちのりが、四季に頬擦りした。粘ついた感触に、四季は眉をひそめる。「ちのりぃ、この人間気に入っちゃったぁ」『そんなワガママ言ってると、トリル様に燃やされるッスよ?』「うー……それはやだぁ」『でしょ?なら……うん?』58 #4215tk

2015-09-09 19:03:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

忌月が不意に言葉を止める。その口の奥から、ぎょろりと目玉が覗いた。『気をつけるッスよ、ちのり!そいつ、何かしようと』そして警告!ちのりが不思議そうな顔で天井を見上げる。『整った!行くぜ大将、目を閉じてろ!』ナナの声に、四季は素直に従う。次の瞬間。59 #4215tk

2015-09-09 19:06:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ゴウッ!「ぎゃあッ!?」ちのりが悲鳴!四季の体から放たれた青白い炎に焼かれたのだ!拘束が緩んだ隙に四季は脱出!『あーっ!?』忌月の声を背に、再び駆け出す!『な、なにしたの?』『狐火だ。久しぶりにやるから加減できなかったぜ。ま、する必要はなかったみたいだけど!』60 #4215tk

2015-09-09 19:09:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉に、四季は思わず振り向く。火を消そうとしているのか、赤い怪異はのたうちまわっていた。怪異を包む狐火が小さくなり、やがて消える。ごぼごぼと体を煮立たせながら、怪異が怒りの視線をこちらに向けた。「よぉぉくぅぅもぉぉォォ……!」『やべえ!逃げろ逃げろ!』61 #4215tk

2015-09-09 19:12:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の体が加速する。しかしまたも眼前の空間には、再び赤い紋様が広がり始めていた。『またこれか!?なんなんだよこの怪異は!』悲鳴に似たナナの声が頭に響く。四季は咄嗟に方向転換した。赤い奔流となって突っ込んでくるちのりの頭上を飛び越え、反対方向に着地!62 #4215tk

2015-09-09 19:15:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うううゥゥゥ!」悔しげな声が背後から流れてくる。四季は忙しなく視線を動かした。なにかないか。なにか。打開の道は!……その目にあるものが飛び込んでくる。あれだ。彼は直感的にそこへ飛び込んだ。明かりもないままの、暗いトイレの中へ。ほとんど一直線に個室に向かう!63 #4215tk

2015-09-09 19:19:49
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季が真っ先に向かったのは、一番奥の個室だった。中のトイレに腰かけ、四季は一息つく。『いや、落ち着いてる場合じゃねえだろ!どうすんだよ、逃げ場がねえぞ!』頭に響くナナの声に、四季は思わず苦笑した。「大丈夫だよ。……すっかり忘れてた。危なくなったらここだった」64 #4215tk

2015-09-10 21:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『なに言って」「みぃぃつけたぁぁ!」『ぎゃーっ!?』頭上からの声にナナが叫ぶ。見ると、ちのりが個室を上から覗き込んでいる。顔の形が崩れんばかりに、にたりとした笑みを浮かべ。「今度はぁ、絶対に逃がさないぃ!」そのまま雪崩れ込むように個室へ侵入!65 #4215tk

2015-09-10 21:24:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

しかし、四季はもう慌てない。彼に手を伸ばした怪異の動きがぴたりと止まる。「……あれぇ?」「絶対に逃がさない、だぁ?」首を傾げる怪異に答えたのは姿なき声。四季も聴きなれた、あの少女の。「それはこっちの台詞だ。あたしの縄張りに踏み入って、タダですむと思うなよ」66 #4215tk

2015-09-10 21:27:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「え、な」狼狽える赤い怪異。その体が前触れもなく弾け飛んだ。飛沫が個室のあちこちにへばりつく。四季の周囲を除いて、だ。まるでなにかが防いだかのように。「……ありがとう。助かったよ、花子さん」いつの間にか目の前に立っていた少女に、四季は礼を言う。67 #4215tk

2015-09-10 21:30:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「は!お前にしちゃ冴えてんじゃねえか。あたしに頼って正解だぜ……おっと!」花子が両手を左右に広げる。壁にへばりつき、蠢いていた怪異の飛沫が動きを止める。「しぶといやつだな、こいつ」花子は呆れたようだった。「しゃーない、あたし直々に封じ込めておくとするかね」68 #4215tk

2015-09-10 21:33:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「大丈夫?まだ病み上がりなんじゃあ」「あんまりあたしを舐めんなよ?こいつ程度の怪異ならどうにでもなる」花子が不敵に笑う。が、その表情はすぐに歪んだ。「……もっとも、あの赤マントは無理そうだ。悪りいけどそっちじゃ役に立てねえ」「ううん、気にしないで。充分だよ」69 #4215tk

2015-09-10 21:36:30
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

立ち上がった四季は、ふと思い出す。「そうだ!花子さん、ここから家につなげられたりしない?」「あン?あの小槌はどうしたよ」「今緊急事態で使えないんだ。お願い!」手を合わせて頼み込む。花子が溜息をついた。「ちと面倒だが、まあいい。四季の頼みだしな」70 #4215tk

2015-09-10 21:39:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その声をきっかけに、個室の中が完璧に暗闇になる。闇に慣れていたはずの目でもなにも見えない。思わず伸ばした手の先が、硬いものに触れた。それを握りこみ、捻り、押し開ける。明かりが差し込んだ。急な光に、四季は目を細める。「……おかえりなさい、若旦那」71 #4215tk

2015-09-10 21:42:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その声に、四季は安堵の息を漏らした。静かにこちらを見据えている鬼女、巡の声。彼女とともにちゃぶ台を囲んでいたながれと小雨が腰を浮かせた。「四季坊!」「なにしてたのこんな時間まで!?心配したんだよ!?」本気で心配してくれていたらしい。四季は黙って頭を下げた。72 #4215tk

2015-09-10 21:45:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「心配かけてごめん。けど頼みたいことが」「ことが動いているようですねぇ」巡が冷静に言う。「それに関してで?」「うん。学校の魔女から怜を取り戻したいんだ。手伝ってくれる?」「そりゃ構いませんが」鬼女が苦笑した。「まずは状況の説明を。動くのはそれからです」73 #4215tk

2015-09-10 21:48:18