フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ #6
ニンジャスレイヤーはソクシンブツに向かって踏み出した。死体から放たれる禍々しいアトモスフィアは更に強まり、拒絶の念で堂内を満たした。しかしニンジャスレイヤーの歩みは止まらない。滅ぼすべきニンジャ存在に焦点を合わせている限り、彼の意志が逸らされて停滞に囚われる事はない。 1
2015-09-29 16:00:18「無駄な事よ」ニンジャスレイヤーは低く言った。「儂をここまで入り込ませた時点で、既に勝負あった。オヌシに儂を退けるすべはない。指先一つ動かせぬ死体に何が出来よう」「……」ソクシンブツは動かない。言葉は無し。だが放たれる波動は、恐怖、無念の周波数に他ならぬ。「ニンジャ。殺すべし」2
2015-09-29 16:03:50「開始10分にして既にデッドヒートの様相!」ヘリコプターからビッグユージが実況する。眼下はフジサン外周部のオーバル・コース。フジサン麓のきわは木々が失せ、ドーナツ状の空白地だ。これをぐるりと周ったのち、再び樹海を取って返し、観客とレースマスターの待つコロシアムへ引き返すのだ。3
2015-09-29 16:07:26「3日目は2日目の順位を反映したスタート時間調整が行われます。これによりサンライザー、デッドムーンのネズミハヤイDIII、ホット・チックはあらかじめリードを取る事ができるわけだ。しかしレースの神が誰に微笑むかはまるでわからないんだぞ!距離が長いぞ3日目は!」 4
2015-09-29 16:13:58「ここまで実際素晴らしい走りを見せてくれた戦士達だよね」キンキー・コウイチがダンベルを上げ下げしながら言った。「非常にビジネスのインスピレーションを与えてくれた。勿論この気づき体験は次の著作に反映させ、ファンの皆さんにしっかりフィードバックしようと思う。ノブレス・オブリージュ」5
2015-09-29 16:15:45「さすがはビッグビジネス貴族を自他ともに認めるコウイチ=サンだ。さあスタジアム桟敷席におられる他お二人のレースマスターにもご意見をうかがいたい!」「ホホホ、とてもいいわ」フラストミチ・マレナは冷凍空輸されたバイオサーモンの刺身をサイバーボーイに盛り、箸でつまんで楽しむ! 6
2015-09-29 16:20:34「今年は非常にエキサイティングだ。敢えてレースマスター権限の移譲を受けた甲斐があるというもの」キリング・マキが言った。「まだまだ足りぬがな……そしてサンライザー=サンにとっては最も輝かしい墓標だな。晴れ舞台が成就するさなかに散る」「エッ?いやあ、不吉なワサビ・ジョークです」7
2015-09-29 16:24:33ビッグユージは物騒なマキの物言いをスルーしようとした。マキは付け加えた。「どんな時もゲコクジョの神は刃を研ぎ澄ませて待っている。たとえそれが第一位の神に愛されるサンライザー=サンであろうともな!」「……確かに、ジャイアント・キリングというのは起こるから面白い。それは同意します」8
2015-09-29 16:27:02トップ三台からやや遅れて、第二陣のかたまりが砂塵を噴き上げ続く。第二陣先頭を行くのはレイコ・カミのカミマスター。ロックンロールだ。武装救急車シスターオブマーシー、二日目の激戦を経て今や乗組員は二人。アストロ・スターモンキーも第二陣の中にまるで巻き込まれるようにして含まれている。9
2015-09-29 16:33:06サイサムライのサイバギーは集団からやや離れた地点をゆく。2日目におけるクラッシュが響いたか。あるいは何らかの思惑があるやも知れぬ。押し殺した迫力がサイバギーのマシンの中から全方位に放射されるかのようだ。ヘルトリイ999はハンドアックスやハルバードを掲げ、ボンネットには豚の首。10
2015-09-29 16:35:19豚は彼らヘルトリイ999の主張するところによればブッダの象徴であり、これの首を刎ねてボンネットに血で描いた魔法陣の中央に打ち付ける事で、クルマそれ自体がアンタイブディズムの祭壇になるのだという。狂った異常者たちであった。前作のアルバム・ジャケット写真も本物の惨殺体を使った。11
2015-09-29 16:40:19ヘルトリイ999には当然レーベル契約は存在せず、危険な崇拝者たちが非合法にデータを受信、それをカセットテープに録音して、ネオサイタマ郊外で危険薬物との抱き合わせ販売を行うのだ。ゴール地点にはレース運営と裏取引したデッカーの一団が待ち構えている。仮に無事でゴールすれば即逮捕だ。12
2015-09-29 16:47:49「ヴォイド」ルーフの穴から上半身を出して二刀流を構えたヘルトリイ999のヴォーカリスト、ファイアドラゴンズデイルは、車内のメンバーに無慈悲な命令を下した。ガギゴーン……不穏な音を立て、バンパーが巨大なクロスボウに変形。後部トランクが開き、ベーシストのペインダイヴァーが現れた。13
2015-09-29 16:57:31ペインダイヴァーはトランクの中に待機していたのだ。彼がトランク内に据えられた巨大なリールを巻き上げると、巨大クロスボウが音を立てて無慈悲な矢をつがえた。「ちょっと待て、あからさまな反則行為の前触れ?」ユージが懸念した。その時、ZOOOM!ヘルトリイはロケット加速!「アーッ!」14
2015-09-29 17:00:51「アイエエエエ!」進行方向にはアストロ・スターモンキー!寸前で異常を察知した彼らは命の限りハンドルを切って、彼らの追突攻撃を回避した。これによりヘルトリイはウォルナット・キャッチャーズの車体後部に追突した!KRAAASH!「アバーッ!」そのとき無残な出来事が起こった!15
2015-09-29 17:05:02ウォルナット・キャッチャーズの愛車とヘルトリイは追突により密着状態だった。ウォルナット車のフロントバンパーから巨大矢が飛び出した……「アバーッ!」ナムアミダブツ!密着状態で撃ち出された矢がウォルナット車をゼロ距離貫通!運転者貫通殺!貫通した矢がシスターオブマーシーをめがける!16
2015-09-29 17:07:57「アバーッ!」「シンディ!?」運転席のニンジャ、シスターオブマーシーは、助手席のシンディをハッとして見やった。ナムサン……後ろから飛来したクロスボウ巨大矢は武装救急車の後部パネルを貫通。助手席を貫き、ダッシュボードに突き刺さって、ようやく止まったのだ……。「奴ら……許さねえ」17
2015-09-29 17:12:53KABOOOM!ウォルナット・キャッチャーズの車両が爆発炎上した。しかも「弓矢のような飛び道具でシスターオブマーシーを攻撃・妨害したためペナルティ」の宣告までくだり、名誉すらも汚されたのである。ナムアミダブツ!あれはヘルトリイの行いであるにも関わらず空撮カメラでは証拠がない!18
2015-09-29 17:17:18「あれはヘルトリイ999だろう!」ビッグユージが言った。「まあしかし、ルール運用上、レースを中断して検証するわけには行きません。あとでヘルトリイの申し開きを聞くしかないな!ここは地獄のレース。参加者も同意済み!」「ウォルナットをキャッチしに来たなら死ぬしかない」とキンキー。19
2015-09-29 17:22:04「許さねえーッ!」シスターオブマーシーは自動運転モードに切り替え、自らはルーフの銃座に上がった。ミニガンを後部へ巡らせ、狙うはヘルトリイ999!「死ねーッ!」BRRRRRRRTT!ルール無用!ガトリング攻撃である!「ア、アイエエエ!これは大混迷の三日目だァ!」ユージが叫んだ!20
2015-09-29 17:28:34はやくもケオスの坩堝と化した後続群を尻目に、トップ3は競り合いながら先陣を切る。ルートが整えられた三日目においてパワー温存の戦略は無意味。いわばこの最終日は長距離の短距離レースなのだ!「さあサンライザーは優雅!ネズミハヤイはナビ行方不明の悲しみを乗り越えクールな走りだ!」21
2015-09-29 17:37:07「あら。セクシーなレイコ」フラストミチ・マレナがバイオサーモン刺し身を咀嚼して言う。「それから、食材調達立役者」然り、ホット・チックの後ろにつけてくる2車両があった。カミマスターとサイバギーである!「なんと!わからなくなるか!?」「面白くなるだろう」キリング・マキが言った。22
2015-09-29 17:48:03