筍提督と僻地の泊地 (9)

艦娘と同じ海でイージスシステムを背負って戦う海軍大将・筍の、「新時代軍事力整備計画」の大革新の軌跡を綴る日記。(「OENAFE(沿赤道新時代軍合同演習)」編)
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筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『お疲れ様です。お茶にしませんか?』 「ああ……頼んでも良いかな」 『勿論ですよ』 私は秘書艦室から急須と提督の湯呑を持って来ました。そうして、提督の目の前で、お茶を注いで差し上げるのです。 有難う。提督は短くそう仰ると、早速一口飲まれました。 #南方秘書日記

2015-10-10 00:40:56
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「落ち着くなあ」 『それは良う御座いました』 「君がお茶を注いでくれるのを見てるだけでも癒される」 『そうですか? ふふ』 私は微笑しました。提督も、微かに笑っておいででした。 それからは、提督は湯呑を空け、もう一杯と頼まれました。 #南方秘書日記

2015-10-10 00:45:37
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二杯目もすっかり飲み切られると、提督は今一度お礼を述べられ、それから真剣な表情をお見せになります。 「今、時間、大丈夫か?」 『ええ』 「なら、工廠で話してきたことを、君にも話そう。椅子を持って来なさい」 愈々……。 咄嗟に思ったことを口に出さ無いよう努めました。 #南方秘書日記

2015-10-10 00:48:13
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執務机を挟んで、提督と向かい合って座ります。提督は身を乗り出し、机に肘を突いて、顔の前で手を組みます。お話は、前置き無しで始まりました。 「俺は、昨日のマレー沖海戦で、ジェット戦闘機の発艦や攻撃の参加を許可した。それは君も知っての通りだ」 私は静かに肯きます。 #南方秘書日記

2015-10-10 00:55:09
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「俺は、新時代計画が海の事情を変えてしまわ無いか否かという問題を抱えて居る。それも知って居るだろう?」 『ええ。提督から伺って居ります』 「今の俺にとって、此の二つの事実が、とても重く圧し掛かって居る」 提督が、そっと息を吐きます。 #南方秘書日記

2015-10-10 01:04:48
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「今回の出撃は、救出対象がそれこそ新時代艦であったから、緊急性ありとして許可した訳だが、それ自体が深海側に何らかの影響を与えかねん。出撃許可を後悔して居るとかでは無いが、結果として心配の種を増やしてしまった」 #南方秘書日記

2015-10-10 01:08:23
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『つまり、深海棲艦が、ジェット戦闘機を何時か運用するのでは無いか、ということが、ご心配なのですね』 「そうだ」提督が肯かれます。「更に、それが何時実戦配備されるかが推測出来無いのも問題だ。何時かやれば良いと後回しにして、一方的にやられてしまうのではいかん」 #南方秘書日記

2015-10-10 01:13:19
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「そこで、この問題に対処しなければなら無くなった」 『どう対処されるのですか?』 「新時代空軍の設置、及び、艦上戦闘機隊の増強だ」 『空軍……!?』 決して小さく無いその変革案は、あまりにもあっさりと、提督の口から零れ落ちました。 #南方秘書日記

2015-10-10 01:16:05
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提督は、机の端に置かれて居た帳面を開き、私が読み易いように置いて下さいました。そこには、戦闘機の名称が並んで居ました。F15、F2、F14……。 「空軍は、敵ジェット戦闘機による泊地攻撃に対処する為に設置する。リンガにもファイスにも置くんだ」 #南方秘書日記

2015-10-10 01:20:17
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それから、夫々の戦闘機の簡単なご説明が挿まれました。 F15は制空戦闘機。実機では、空中戦による被撃墜記録は無いとされる、高性能な機体。対地攻撃に特化したものも開発されて居るようです。 F2は対艦攻撃を得意とする戦闘爆撃機。対空攻撃能力も兼備して居るとのこと。 #南方秘書日記

2015-10-10 01:26:06
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F14は空対空戦闘を主任務とする艦上戦闘機。開発国の米国では既に退役して居るものの、性能を見ても捨て難い為、新時代空軍で採用したい、ということでした。 どれも高性能な機であることは理解出来ました。然し、どうしても投げ掛けたい問いが、頭の中に現れてしまいました。 #南方秘書日記

2015-10-10 01:30:04
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『提督――大丈夫なのでしょうか?』 「言いたいことは分かる。こんなものを造って、余計に深海を刺激し無いか、ということだろう?」 『ええ……』 それが、今の私の、最大の懸案事項。護身の為の対処が挑発に見られることは現実で例が多々ありますが、これは挑発を超えて居ます。 #南方秘書日記

2015-10-10 01:32:19
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然し、提督は「大丈夫だ」と言い切られました。 「配備はする。だが、普段から積極的に使うようなことはしない。俺達の対艦ミサイルは、あまりにも活用し過ぎたからコピーされたんだ。だが、此れ等の……特に、F15とF2は、必要最低限の運用に止める」 #南方秘書日記

2015-10-10 01:37:10
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「防空任務も、他の機に優先して任せようと思って居る」 『零戦等ですか?』 「いや。これも新規開発になるが、震電や景雲をジェット化させようと思う」 震電。景雲。 それは、私の遠い記憶にもある名でした。実戦配備が幻に終わった、大戦当時の局地戦闘機と偵察機。 #南方秘書日記

2015-10-10 01:43:29
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「接近する敵機は、情報部のレーダーで確認する。それを最初に確認しに行く役が、震電と景雲だ。それらで対処し得る敵であれば、その儘交戦してもらう。俺達も防空に参加するぞ。それでも難しいと判断した時のみ、F15やF2に発進命令が下る」 #南方秘書日記

2015-10-11 00:21:05
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『F14はどうなのですか?』 「海上兵力はデリケートだ。F15やF2よりは出動回数は多くなるだろうが、これも必要最低限の運用をすればいい。目視距離のみで交戦するとか、偵察に止めるとか」 提督は、多くのことをお考えのようでした。 #南方秘書日記

2015-10-11 00:26:30
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「艦上電子戦機を開発して分担しても良い。陸上基地向けに、大型の早期警戒機を開発しても良い。……この場合は早期警戒管制機かな。F15に戦闘空中哨戒を任せて、空中給油機で飛行時間を延長しても良い。兎に角、何処迄手を出すかは課題だが、打てる手は山程ある」 #南方秘書日記

2015-10-11 00:29:06
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「程度の問題だよ。俺が、救出作戦で、サイドワインダーを最大限活かさ無かったのと同じだ。此方がスペックを出し惜しみすれば、深海共は、それが俺達の限界だと思い込む。奴らが同じものを造ったら、少し上の力で押し返せば勝てる。俺達の優位性は維持出来る」 #南方秘書日記

2015-10-11 00:39:57
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

自信満々に、自論を展開された提督。然し、最後には、優しい目で「……どうかな」と問うのでした。 私の心配が完全に除かれることはありませんでしたが、理解はしました。提督が目指されて居るものが何なのか。その為に、何を必要として居るのか。 #南方秘書日記

2015-10-11 00:46:07
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『そうですね……どう、と訊かれたら、全く怖く無いと言えば、嘘になりますね』 提督は、肯きもせず、凝っと次の言葉を待っておいででした。 『ですが、此の司令部の……延いては私達の海の安全が維持されるということでしたら、私も賛成致します』 「鳳翔……」 #南方秘書日記

2015-10-12 22:44:17
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『守って下さるのですよね?』 「守るさ」 視線が絡みます。提督は、微かに笑っていらっしゃいました。私も微笑を返しました。 間も無く、提督が立ち上がります。 「明日、会議を招集する。通達を頼む」 『お時間は?』 「九時」 足音は、廊下へと消えていきました。 #南方秘書日記

2015-10-12 22:53:21

机上の愛

筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「どうだった?」 工廠に戻った時の、<ゆら>の第一声がそれでした。 『憂いてはいるが、賛成すると言ってくれた』 「諸刃の剣を振るうことを止めなかったのね」 相槌を打つ彼女に勧められて、昼食を跨いで座っていた設計室の椅子に再び腰を下ろします。 『そういうことだな』 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:05:13
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「信頼の証かもね」 『証?』 「鳳翔さんは、私たちの研究が深海に与える影響を知ってるわけでしょ? なのに、これだけ新規開発するとなると、旦那に反対しても止めそうなものだけど」 言いながら、<ゆら>は手元の書類をペンで叩きました。 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:08:26
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

戦闘機、またはそれに準ずるものだけで、震電、景雲、F-14、F-2、F-15、EA-18Gの六機種。優先順位は低いものの、管制機や給油機を合わせれば、九機種。我ながら、一度ではやりすぎだと思わないでもないラインナップ。 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:11:28
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