筍提督と僻地の泊地 (9)

艦娘と同じ海でイージスシステムを背負って戦う海軍大将・筍の、「新時代軍事力整備計画」の大革新の軌跡を綴る日記。(「OENAFE(沿赤道新時代軍合同演習)」編)
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筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『皆を守るためだと言ったら、納得してくれたんだ。それに、運用方法次第では、深海への影響を抑えられる。それは、救出作戦で確立できた』 サイドワインダーを、レシプロ機相手に、目視距離でしか撃たせなかったことを指して言いました。<ゆら>は肯きます。 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:13:18
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『最初にお前が言った通り、確かに多すぎかもしれない。だが、F-14とEA-18G以外の戦闘機は、完全に受け身で動くことになる。AWACSや空中給油機は、そもそも自らは攻撃をしない。だから、これなら大丈夫だと思うんだ』 「私も否定はしない。根拠があるわけだし」 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:16:36
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「でも、万一ということも……」 <ゆら>の言葉に、私は肯きます。しかし。 『……しかし、備えなければならないんだ。俺たちは、ローリーの力を借りて、<あやなみ>の救出を強行した。奴らには、リンガを攻める理由を与えてしまったようなものだ』 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:18:10
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『何かあってからでは遅い。それを考えると……これだけ用意しても、足りないくらいなんだ』 ふと、机に落としていた視線を上げると、<ゆら>は微笑していました。 「あなたの奥さんがそうしたように、私も提督さんの意思を尊重します」 『ありがとう』 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:20:46
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『F-14とF-15は、まだ話し合いが必要だ。他は、さっき言ったようにやってくれ』 「了解。早速設計に移ります」 私は席を立ち、設計室を出る扉を目指しかけて、踵を返しました。 『もう一つだけ、頼みたいことがあった』 「なあに?」 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:22:50
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『俺の主砲のことなんだが――』 「メンテが足りなかった?」 『いや、そうじゃない。俺、Mk.45の方がしっくりくるんだ。あれを速射砲に改良できないかな』 「ああ……あれ、連射速度遅いもんね。<ゆうばり>に伝えておくよ」 『頼む』 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:25:56
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それから、<ゆら>の方を向いたまま、『あれから何か食ったか?』 「そういえばまだだなぁ」 『駄目元で食堂に行ってみろ。何かあるかもしれん』 「そうね。……あれ、提督さんは?」 『部屋で鋼材でも食うさ』 そう言い残して、作業場の音が漏れてくる設計室を後にしました。 #僻地の泊地日記

2015-10-12 23:29:09
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埠頭で風に吹かれていると、後ろから誰かが近付いてくるのが分かりました。私が振り返る前に、その人は私に声をかけました。 「提督――」 『大淀か』 「奥様が探していましたよ。なかなかお戻りにならない、って」 『そいつは悪いことをしたな』 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:18:25
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「お考え事ですか?」 『ん』 それ以上ないくらい短い返事をすると、大淀は、海に足を投げ出す私の横まで来ました。 「それは、提督や<はぐろ>の艤装に関係することでしょうか」 『どうだと思う?』 「さあ。私には……」 『だろうな。そう簡単に心を読まれてたまるか』 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:21:31
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『大淀――君のことは……いや、「軽巡大淀」のことは聞いている。真面目で、指揮官の補佐もそつなくこなすから、秘書艦に選ぶ提督が多いらしいな』 「そうみたいですね。佐世保でもそうでした」 『頭が切れるんだろうな』 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:28:17
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『俺の悩みは、そんな君でも解決できないことかもしれない』 「話していただけるのですか?」 私は肯かず、しかし否定もしませんでした。 『例え話で考えよう。君にかけがえのない大切な人がいるとする』 「急ですね」 『まぁ、聞け』 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:30:44
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『男でも女でもいいんだ。君はその人をこの上なく愛している。いつも笑っていてほしい。ここまではいいか?』 「え、ええ」 『ここで、もう一つ。君は、大事な仕事を抱えている。何かしらの犠牲を生むかもしれないが、成功すれば多くの人を救える』 「スケールが大きいですね」 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:34:26
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『犠牲、というのが肝だ。それを生ずる可能性があるということは、大なり小なりの危険を伴うということだ。さて、君の大切な人が、それを怖いと言ったら?』 「その、危険を伴う仕事について、ですか?」 『そうだ。誰をも襲い得る危険。誰にでも平等に訪れる犠牲』 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:39:39
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『成功する保証はないが、その見返りの大きい仕事を怖いと言われるんだ。そんな時、君はどうするだろうか』 「愛する人を取るか、可能性に賭けるか……」 大淀が考えている間、私は静かに答えを待っていました。その間を、波の音が埋めていました。 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:43:04
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「もし、私がその仕事に何の信念も抱いていないとしたら、すぐにそれをやめて、愛する人を抱き締めるでしょうね。怖い思いをさせてごめんなさい、もう大丈夫だから、と」 『ほう』 「しかし、それを絶対に……そう、多少の犠牲の上であっても成功させたいとするならば――」 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:49:08
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「自分を信じて、最後まで成し遂げるしかないでしょう。愛する人が犠牲になってもそれまでの自分でいられる強靭な精神を持っているなら、ですがね」 『…………』 「当人にとってはともかく、世間一般では、一人の命より百人、千人の命ですから」 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:53:28
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「もっとも、愛する人を失っても変わってしまわない人なんて、滅多にいないでしょう。そんな人が多くの命を救う計画に携わっているのなら、誰も苦労しません」 『俺はどう見える?』 「え?」 大淀は、目を見開いて私を見下ろしました。一方の私は、大袈裟に腕を広げてみせます。 #僻地の泊地日記

2015-10-15 00:56:44
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『俺は、それくらい冷血……というか、強い人間に見えるか?』 「例え話ですか?」 『そうだとも』 大淀は髪を掻き撫で、海を見ます。 「そうですね……この南の島で一人、この規模の艦隊を指揮するのは、強い方にしかなし得ないのでは?」 『そう来たか』 #僻地の泊地日記

2015-10-15 01:01:13
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「だって」大淀は、不意に、友人と話す時のような笑顔を見せました。「そもそも、誰かを愛する人の体に、冷たい血など通っていると思いますか?」 その言葉を聞き、理解した途端、自分の問いがどうにも馬鹿らしくなって、堪え切れずに笑ってしまいました。 #僻地の泊地日記

2015-10-15 01:04:29
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『参ったな。ごもっともだ。一本取られた』 笑いが収まらぬうちに立ち上がった私は、小さく息を吐くと、彼女と向き合いました。 『頼みがある。君くらいにしか頼めないことだが、拒否してもいい』 「何でしょうか」 #僻地の泊地日記

2015-10-15 01:08:38
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『ファイス泊地は分かるか?』 「話には聞いています。太平洋の孤島を拠点にしたとか」 『そこに飛んでほしい』 「提督と同じような艤装を背負って?」 『四人目のイージス艦として、第12艦隊旗艦<なち>を補佐してほしい』 真意の読めない瞳が、私を見つめていました。 #僻地の泊地日記

2015-10-15 01:12:08

悩める杯

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その日の夕食の後、私は執務室に籠もりました。手元の江戸切子の杯に入っているのは、お茶でも燃料でも、まして小岩井みかんでもなく、那智隊長から貰った「白鶴」でした。秘書艦室から出てきた寝巻姿の鳳翔が、一升瓶を見て「まあ」と漏らしました。 #僻地の泊地日記

2015-10-18 00:46:17
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「今夜もお酒を? 明日は九時から会議ですよ」 『伝えておいてくれたか?』 「ええ、提督のご指示でしたから」 『悪いね』 私は肯くと、酒を一口飲み、『少し付き合ってくれないか』 「私は結構ですが、提督は大丈夫なのですか?」 #僻地の泊地日記

2015-10-18 00:48:13
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『鳳翔――』 「はい」 『昨日の収穫は二つ。一つは、マレー沖にて<あやなみ>を救出したこと。もう一つは――』 「何です?」 『俺が、案外、酒に強いってのが分かったことだ』 突き出したVサインを見て彼女は微笑み、「少々お待ちを」と、ペアの杯を取ってきました。 #僻地の泊地日記

2015-10-18 00:50:18
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