座敷鎮守府「欧州難民船団護衛編」◆艦これSS◆その1

座敷犬さん @zash_dog による艦隊これくしょん~艦これ二次創作作品です。 - 座敷鎮守府「欧州難民船団護衛編」 - Zulu Navy District "Escape from, guardian from" 続きを読む
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座敷犬 @zash_dog

「120人分のバイアルがこの中に収まっています、もし欧米からのスタッフがいるのであればこれの投与を実施してください」――受け取って構わないのか。「"お近付きの印に"、ですよ」その笑顔に屈託はないが、相手が相手だけに信頼し辛い。医療課のスタッフを呼んで、運んでもらう。 #座敷鎮守府

2015-12-30 00:25:55
座敷犬 @zash_dog

「さて、今回僕たちがここに来たのは純粋にあなた達座敷鎮守府(ズールー・ホームポート)の力をお借りしたいと考えたからです」本題が始まる。「目標は現代駆逐棲鬼(イージス・アビサルシップ)、個体名『ヴァリー・フォージ』。元アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、DDG-132」 #座敷鎮守府

2015-12-30 00:39:39
座敷犬 @zash_dog

僕の記憶の限りでは艦番号130からはフライトIV――2030年台の最新技術が取り入れられたタイプになっている筈だ。主砲は51mmEML(電磁投射砲)。艦載機はUCAVと沿海域戦闘用ドローン群。WWIIの艦船やそれを元にした艦娘が少数で立ち向かって勝つのは難しい。 #座敷鎮守府

2015-12-30 00:48:39
座敷犬 @zash_dog

「話は聞いています、超大型深海棲艦を限られた戦力で『しずめた』巨人殺し(ジャイアントスレイヤー)としての逸話を」語弊がある。だが、相手の目は真剣だ。応接室の角に立つあきつ丸の視線も刺さる。――後ろにいるのは合衆国(ステイツ)だという事を忘れるな、か。選択肢はないと。 #座敷鎮守府

2015-12-30 00:54:58
座敷犬 @zash_dog

「ヴァリー・フォージには任務が与えられていました――『欧州から脱出する難民船団の護衛』」 ! 「それを果たせず彼女と、彼女のクルーたちは沈められ、関係のない無念と怨念に巣食われ、亡霊として蘇った――護るべきものを、水底へ引きずり込む為」 #座敷鎮守府

2015-12-30 01:00:50
座敷犬 @zash_dog

20XX年12月12日、リンガ泊地先遣隊、米海軍第77任務部隊と共に泊地を出発、一路インド洋へ。火中から僅かな希望を拾い上げる為の戦いが、始まった。 #座敷鎮守府

2015-12-30 01:16:01

座敷犬 @zash_dog

20XX年6月17日。RLV、フランクフルト宇宙港に到着。 #座敷鎮守府

2015-12-30 19:27:40
座敷犬 @zash_dog

深海棲艦勢力圏に張られた「黒い靄」に対する強引な片道切符。軌道降下中、敵AAA(対空火器)の迎撃を受け、日本の派遣部隊4つの内3つがリタイア。私たち第四遠征艦隊だけが先人の思念渦巻く戦場へと降り立つ事になった。――滑走路にはレストアされたWWIIの戦車が並んでいる。 #座敷鎮守府

2015-12-30 19:32:53
座敷犬 @zash_dog

空が黒いのは、天蓋を覆いつつある黒い靄だけが原因ではなさそうだ。真新しい交戦の跡から上がる黒煙を眺めながら、そう思う。「硝煙の匂いが最高だなぁ、オイ」黒髪、金の隻眼――軽巡洋艦娘、天龍が嬉しそうに呟く。私は顔を顰めたらしい――その言動が些か、悪趣味に思えたから。 #座敷鎮守府

2015-12-30 19:41:26
座敷犬 @zash_dog

「ダメよぉ天龍ちゃん、私たちは『殺しに』来たんじゃなくて『護りに』来たんだから」私を一瞥し、意図を察し、彼女を咎めるように言った紫髪は同型艦娘の龍田。だが彼女とて、戦いを迎える悦びをその振る舞いから隠せてはいない。この二人への嫌悪を、表に出すつもりはないが。 #座敷鎮守府

2015-12-30 19:48:01
座敷犬 @zash_dog

「あぁもう、テンション下がるなぁ」「嫌な空ですわね……水偵は飛べるかしら」空を睨むは最上型重巡洋艦娘の鈴谷と熊野。彼女らは改修され、ある程度の水上機運用能力を有している。作戦性質上、空母を始めとする大型艦娘は連れてこれなかった。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:04:32
座敷犬 @zash_dog

宇宙港のターミナルビルは、脚の踏み場もない程だった。敷かれた毛布、乱雑に置かれた荷物、負の感情に包まれた人々。難民。20世紀の人類の業は、21世紀に生きる人類を確実に欧州から追い出しつつある。空気も悪い――衛生状態は少しずつ悪化してきているらしい。モラルも。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:09:36
座敷犬 @zash_dog

この難民たちは輸送船団によって東へと向かう。大西洋からアメリカに向かう難民たちもいるらしい。少なくとも、私達は彼らの長い旅路を護る必要がある。同日夜、陸路でハンブルクへと向かう。ESUA(欧州臨時連合陸軍)の将兵が、想像を絶する量の血を流して守る道を通って。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:17:01
座敷犬 @zash_dog

私たち海軍は、殆ど何もできない。ホバートラックの防弾窓から、かつてドイツ国防軍が駆った戦車たちが砲火のやりとりをする様を見ているだけだ。――また一つ、戦車がやられる。弾薬庫の爆発に、近くを通っていたバス――難民を乗せたそれが巻き込まれた。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:20:35
座敷犬 @zash_dog

港についた時、2986人の難民は2397人になっていた。民間から徴用されたフェリーやタンカーに、ぞろぞろと人々が雪崩れ込む。余裕などなかった――すぐ後ろで最後の戦車中隊が今まさに壊滅しようとしていたのだから。ありがとう、名も知らない将兵たち。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:25:24
座敷犬 @zash_dog

《やっと俺達の》《出番みたいね》《鈴谷、行っくよぉ!》《退屈していた所ですの――熊野、参りますわ》《支援砲撃を要請する――俺達の頭上に降らせろォ!》時間を稼ぎきった彼らへの、慈悲の一撃。それが彼女たち、そして私たちの最初の交戦内容となった。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:29:12
座敷犬 @zash_dog

6月29日。難民船団、ヘルゴラント沖を通過。最初の深海棲艦との交戦。駆逐艦と魚雷艇を模した敵の斥候を、熊野の水偵が発見。哨戒中のドイツ艦娘隊にデータリンクによって情報がもたらされ、アウトレンジ砲撃によって撃破。快勝といえる成果だった。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:36:20
座敷犬 @zash_dog

《此方ゼーレヴェ1。素早い情報共有に感謝するわ》「ポーラーベア了解。やりますわね、どれもこれも一発でバイタルパートを貫いて『しずめ』て」《――自己紹介も済んでなかったわね、カサンドラ・ハンナヴァルト。ビスマルク級ネームシップを艤装するわ》「最上型重巡、熊野ですわ」#座敷鎮守府

2015-12-30 20:50:44
座敷犬 @zash_dog

《――? 「あなた自身」の事を聞いてるのよ?》「熊野は熊野ですわ、ビスマルク?」噛み合わない会話。向こう側の妖精と技術士官、こちらのスタッフが話すことで齟齬の理由が漸く明らかになった。それは日本と欧州の艦娘の構造の違いに起因するもの。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:54:31
座敷犬 @zash_dog

私は日本の艦娘を「ワダツミ・モデル」、欧州のそれを「セイレーン・モデル」と呼称する事にする。前者は艦船とそれに携わった人々の、正の思念の塊――艦魂を「人」に封じたもの。後者は「艦」(を模した個人携行可能なレプリカ)に宿したもの。 #座敷鎮守府

2015-12-30 20:58:57
座敷犬 @zash_dog

後者が飽く迄「対深海棲艦用の装備を背負った人間」であるのに対して、前者は「艦船の記憶を持った人間とやや違う存在」。その有り様の違いは、一目瞭然だった。しかしそれを理解し、共通の敵を前にしては人も艦も関係なく。私達と異国の艦隊との絆は簡単に結ばれ、強くなっていった。 #座敷鎮守府

2015-12-30 21:06:04
座敷犬 @zash_dog

天龍と龍田、鈴谷と熊野。4人が「人外」である事は更に意外な交流を生んだ。「付喪神」ともいえる有り様の彼女らと妖精たちは、難民たちに「守護神」として受け入れられていったのだ。平時に甲板を歩く彼女らの周りには、元気な子供達の姿が常にあった。 #座敷鎮守府

2015-12-30 21:10:38
座敷犬 @zash_dog

「私たちは飽く迄『兵士』だからね、それを分かるのかな、皆からは避けられちゃうんだ」重巡洋艦、プリンツ・オイゲンを艤装していたマルタ・アウフレヒト少尉は苦笑して言った。彼女と鈴谷・熊野の二人は(外見)年齢が近い事もあって仲が良かった。しかし彼女に子供達は寄り付かない。 #座敷鎮守府

2015-12-30 21:17:23
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