「ゆとり」以後、授業についていけなくなった理由
- ShinShinohara
- 29876
- 82
- 3
- 14
私は中高時代、塾に行っていなかった。もちろん家庭教師もいなかった。家が貧乏だったから当然なのだが、それでも京都大学に合格することができたのは、「学校の勉強で十分」な時代だったからだ。
2016-01-05 18:02:22私は中学2年生の11月までひどい成績だった。定期テストは30~60点。三者面談や家庭訪問では「行ける高校があるかどうか」と言われていた。
2016-01-05 18:02:37そんな子供でも、いざ勉強しだすと成績を上げることができた。教科書を丹念に読み、授業のノートを開き、例題を解く。そうした愚直な勉強の仕方で、中学2年の3学期で平均70点台、3年生の1学期には平均80点台を取ることができた。
2016-01-05 18:02:50点数が取れれば自信がつき、勉強も面白くなる。以後は自分で勉強するようになり、高校は学年(560人以上)で1年生の頃に30位、2年生で11位、3年生で2位だった。
2016-01-05 18:03:10学習は教科書と、授業のノート。中学生の間は、問題集や参考書の類にほぼ手を出さなかった。教科書と授業ノートで勉強するだけだから、塾に行く必要がなかった。高校も英語と数Iを除けば教科書とノートの学習をひたすら繰り返すだけで事足りた。
2016-01-05 18:03:33これは私だけの特殊事情ではなく、私の通っていた中学・高校では、好成績の学生はたいがい塾にも予備校にも通わず、自分で勉強していた。塾や予備校に通っていたのはむしろ、成績が伸び悩んでいる同級生だった。
2016-01-05 18:04:07しかしもし、ゆとり教育以後に同じやり方を通そうとしたら、私は落ちこぼれていただろう。授業を真面目に聞き、ノートを取っていてもテストで点数が取れず、自信も持てず、勉強にやる気をなくし、落ちこぼれてしまっただろう。
2016-01-05 18:04:23何が変わってしまったのだろう?学習内容はゆとり教育以後の方が大幅に少ないはず。なのに塾に行かないと授業についていけないなんて。そんなおかしなことがなぜ起きるのか?
2016-01-05 18:04:37事実、今の公立の中学では、その珍妙なことが起きている。成績の分布図をみると「二つのコブ」がある。70点台を取る生徒のピークの次には40~60点台の谷があり、10~30点台に小さな山がもう一つある。「フタコブラクダ」状態だ。
2016-01-05 18:04:57私の頃の成績の分布図は、60点台の成績を取る生徒が一番多く、それより高得点か低得点になると人数が減っていくきれいな一つの山(正規分布)を描いた。それが今の公立中学では、二つのコブになってしまうのだ。
2016-01-05 18:05:30二つのコブになってしまうのにはわけがある。1つ目の高得点のコブは、塾に行っている子たちの分布。低得点のコブは、塾に通っていない子たちの分布。塾に行っているかどうかでこんなにも格差がついてしまうのだ。
2016-01-05 18:05:50しかしこれは大変奇妙だ。既述のように、学習内容がもっと多かった私の時代でも、自力学習だけで十分好成績をとれた。ゆとり教育後は授業内容が減ったのだから、自力学習でも十分好成績を取れるはずだ。
2016-01-05 18:06:18しかし、今の学校教育では、塾に行かずに自力学習だけだと十分な成績を上げられない。私もムリだったろう。そしてその状況は、ゆとり教育以後、ずっと続いている。学習内容が減ったら、塾に行かない限り授業についていけなくなった、という逆説的なことが起きている。
2016-01-05 18:07:19まず一つ目。「ゆとり教育への不安」。 ゆとり教育がスタートする時点でよく騒がれた「円周率は約3で教える」。これを聞いた親は「そんなことで受験戦争を勝ち残れるのか?」と不安になった。
2016-01-05 18:08:36しかし実際には、公立高校の受験問題は公立中学の教科書で習った範囲からしか出ない。だから教科書の内容で十分なのに、なぜか受験は教科書以上の内容を学ばないとダメだと勘違いする親が多く、「学校の授業だけではダメ」という不安が広まった。
2016-01-05 18:09:48二つ目。「塾通いの激増」。 ゆとり教育では受験に対応できないと勘違いした保護者が、子供たちを塾に通わせるようになった。塾産業も親のこうした不安をあおり「うちでは円周率を3.14と教えます」と言って、塾通いをするように誘導した。
2016-01-05 18:10:42このころ、不幸な事件が重なったことも影響した。子どもを狙った凶悪犯罪が立て続けに起きて、公園から子供の姿が消えた。不審者に子供を襲われるよりは塾にでも通わせた方が、と親も考えて、塾通いが増える要因にもなった。
2016-01-05 18:11:27この傾向が強まると、塾に行かないと友達に会えなくなった。公園で一緒に遊べる時間のある子どもはいなくなった。友達に会うためにますます塾通いが増えた。塾に行けないのは経済的に困窮した家庭だった。
2016-01-05 18:12:04三つ目。「学校の塾依存」。 塾通いの子供が増えると、公立中学の授業の遅さに親たちがイライラしだした。塾はどんどん学習内容が進むのに、学校の授業は基礎からのんびりと教える。授業が退屈だという生徒が増えた。
2016-01-05 18:12:52ゆとり教育に批判的な親は、学校に「もっと授業の進行を速く!もっと難しい問題を出して!」と注文を付けるようになった。しかし公立中学は学習指導要領に則った速度で授業を進めなければならないし、塾に通わない子供にとっては初めて学ぶ内容だから、授業を速めてはついていけなくなる。
2016-01-05 18:13:21しかしクラスの大半が塾通いになると、学校の先生も声を無視できなくなった。この結果、授業内容と定期テストの性質が大きく変質した。
2016-01-05 18:13:35ゆとり教育以後、教科書をほとんど利用せずにプリントを配布して授業を進める教師が増えた。プリントは塾通いの子でもへえ、と思うような内容が書き込まれている。これで塾通いの親たちの不満を解消しようとした。
2016-01-05 18:14:20可哀想なのは塾に通わない生徒たち。プリントは習いたての子どもにとってはややハードルが高い内容。教科書も時々使ったりして、教材が教科書とプリントの2倍に増えた格好。学ぶ内容が2倍に増えたようで、自力学習の子どもにはハードルが高くなった。
2016-01-05 18:15:40定期テストの内容もガラリと変わった。私の頃は、教科書を下敷きにした問題で構成されていた。英語なら教科書の英文、数学なら教科書掲載の練習問題。教科書をしっかりやっていれば80点は採れるような問題構成だった。しかし今の定期テストは「見たことがない」問題ばかりになってしまった。
2016-01-05 18:22:47