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竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次です! 今回は艤装と艦娘、その強化手術の関連性のお話と、叢雲の話。わりと艤装設定部分は、近いことを作者本人も考えていた感じです。 ぜひぜひおたのしみください! 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

明石が派遣されたのは相模湾に面した人気のない海岸だった。砂浜ではなく、岩石海岸である。タブレットに映し出された叢雲のGPS航跡はふらふらと蛇行していたが、おおよそこのあたりを目指していた。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:21:25
竹村京 @kyou_takemura

ここに来るまでに、道路脇で陸軍が大勢待機しているのが見えた。さすがに戦車はなかったが、機銃を備え付けた偵察車両や装甲戦闘車、果ては水際地雷敷設装置まであった。深海棲艦に対してよりは効果はあるだろうが、艦娘を相手にしては被害ゼロというわけにはいかないだろう。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:23:25
竹村京 @kyou_takemura

明石の乗った車を見る陸軍兵の目は一様に暗い色を宿していた。 海洋国家である日本は元々海空を重視して防衛力を整備してきたが、深海棲艦の出現以降ますます海軍偏重が進み、陸軍には充分な予算が回っていない。それが原因で多くの陸軍軍人が海軍を目の敵にしている。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:25:22
竹村京 @kyou_takemura

「そんなに睨まれたって知りませんよもー……私だって海軍ってわけじゃないんですし……」 明石はスモークガラスの向こうの陸軍兵に怯えながら小さく漏らした。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:27:56
竹村京 @kyou_takemura

彼女の所属は海軍だが、基本的にずっと技本に出向しているのでいわゆる鎮守府に所属した事はない。だから自分が海軍の兵士・戦士というよりも技本の技術者であるという意識の方が強かった。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:29:36
竹村京 @kyou_takemura

とはいえ、陸軍兵がそんなことを知るわけもなく。明石は陸軍兵たちに睨まれながら海に入るための岸壁に到着した。 明石は運転手と警護の海兵を残して海に入る。艤装を装備して水面に立つといえば試験用の大プールばかりで、海面に立つことはほとんどなかったので波に違和感を覚えた。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:30:58
竹村京 @kyou_takemura

GPSの航跡を映し出すタブレットを見つつ、叢雲と接触すべく予定会合ポイントの見当を付ける。しばらくしても波にはあまり慣れなかったので、進軍速度はかなりの鈍足だ。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:32:42
竹村京 @kyou_takemura

双眼鏡でGPSが指し示す位置を探す。小さな影が見えた。セーラー服を着て大きな煙突型の艤装を背負った、長い髪の少女――叢雲だ。 「おーい、叢雲ちゃーん!」 通信機越しに呼び掛けてみる。だが受信機は空電を返すばかりだった。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:34:17
竹村京 @kyou_takemura

きらり、きらり。 叢雲が光を放つ。 発光信号? 違う、砲撃! 遅まきながら気づいた明石はエンチャントフィールド強度を高めるとともにほぼ横っ飛びに回避する。ほぼ同時に明石の周囲に二つの水柱が立った。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:35:53
竹村京 @kyou_takemura

「わ、わ、わ!待って待って!敵じゃないですって!」 通信機と発光信号を併用して呼びかけるが、砲撃は止まない。 叢雲は完全に正気を失っていた。 『何をしているのですか。呼びかけが通用する状況ではありませんよ』 イヤホンから藤郷の声。 「じょ、状況確認です!」#落ちぬい二次

2016-01-15 22:37:51
竹村京 @kyou_takemura

――おそらく耐え難い幻肢痛と凄まじい違和感によって脳がオーバーフローしているでしょう。 移動中に行ったブリーフィングで藤郷はそう言っていた。#落ちぬい二次

2016-01-15 22:40:03
竹村京 @kyou_takemura

新旧双方のナノマシンが競合しているという事は、つまり艤装からのフィードバックがでたらめで、しかも新旧それぞれが勝手に送信するので単純に二倍の情報量になっているという事だそうだ。そんな状態に並の人間の脳が耐えられるはずはない。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:00:13
竹村京 @kyou_takemura

また、こうも言っていた。「自分の手足が突然腐り果てたゾンビのそれになったようなものです」と。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:01:02
竹村京 @kyou_takemura

艦娘にとって艤装は自分の手足の様に扱えるものだが、それは有線ないしナノマシンによる接続があってこそだ。この接続は人体で言えば神経に当たる。神経が異常をきたして無茶苦茶な情報を脳に伝えてくれば、脳は手足が異常であると判断するだろう。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:03:21
竹村京 @kyou_takemura

だから、叢雲は既に正気ではいられなかった。 しかし敵味方の区別なく無暗矢鱈に攻撃を加えるほど錯乱しているとは予想外だった。 けれど、だからこそ明石は安堵した。 正気ではないにしろまだ生きている。生きているならきっと直せる。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:03:40
竹村京 @kyou_takemura

『いいですか。叢雲君を行動不能にすること。艤装を破壊すること。この二点が遂行できればよしとします』 作業上の注意点を告げるかのように淡々とした藤郷の指示。それに戦場における頼もしさは全くなかったが、却って技本の研究室にいるかのような落ち着きを明石にもたらした。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:05:34
竹村京 @kyou_takemura

明石の艤装は艤装の造修を主目的としたもので、戦闘力はほぼないと言っていい。スロットと呼ばれる追加スペースに搭載できる兵装も限られている。今回装備してきた武器は15.5cm三連装副砲のみで、あとの3スロットはエンチャントフィールドを増幅するバルジだった。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:07:19
竹村京 @kyou_takemura

『エンチャントフィールドとバルジがあれば今の叢雲君の砲撃程度ならほぼ無効化できます』 振り返ってみれば先程の叢雲の砲撃はセオリーを無視しためくら撃ちと言えるもので、それならまっすぐ進んだ方が狙いがぶれる分安全と思われた。意を決した明石はまっすぐ叢雲のもとへ進む。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:07:48
竹村京 @kyou_takemura

三連装副砲は深海棲艦に対してはあまり強力とは言えないが、人に向ければ大口径拳銃ほどの威力はある。砲そのものの射程は中程度だが、戦闘が苦手な明石は確実に命中させられる距離――叢雲から20メートルほどの距離で止まった。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:08:53
竹村京 @kyou_takemura

『冷静に。解析の結果、叢雲君のフィールドはほぼ消失しています。あなたの防御はフィールドに任せて問題ありません』 明石が15.5cm三連装副砲を構える。叢雲も12.7cm連装砲を構えたが、手足が小刻みに痙攣して狙いがまるで定まっていない。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:09:11
竹村京 @kyou_takemura

「それはいいですけど、本当にやっちゃっていいんですか?」 ブリーフィングでの手筈を、最後の最後で確認する。何か他に方法があるのではないか、と。 『やりなさい。逆にそのくらいでなければいけません』#落ちぬい二次

2016-01-15 23:11:00
竹村京 @kyou_takemura

藤郷の答えは他に思案の余地がないと断じていた。それを聞いた明石は再び研究室での作業モードに入る。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:11:21
竹村京 @kyou_takemura

波が二人の艦娘をゆっくりと揺さぶる。叢雲は痙攣し続ける腕で断続的に撃つが、そのいずれも逸れ、至近弾も強化された明石のフィールドが激しい光とともに拡散させてしまう。今の明石にとって、そんなものはアーク溶接の火花程度のものでしかなかった。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:13:45
竹村京 @kyou_takemura

揺れ動く海面で、一瞬だけベストな射撃姿勢が訪れる。 かたり、と。 僅かなタイミングを逃さず、明石が引金を落とした。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:15:54
竹村京 @kyou_takemura

相手を傷付けるために引金を引き絞るのではなく、単に狙い通りの位置に弾丸を送り出すためのスイッチとして、余計な振動を与えないように、ほんの少しの力だけで優しく引金を落とす。射撃に何の感慨も抱かず、ただそういう作業として行っているからこその冷徹さだった。#落ちぬい二次

2016-01-15 23:17:14
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