「イービル・インフルエンス・フロム・ザ・ソウル」

「咆哮系提督の吹雪」第4章 「敵は己と知れ」 「嗚呼、世界は広大だ」
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#1

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

少女は空を見ていた。濃霧に覆われた空を、森の中から。少女は地に仰向けで寝そべっていた。その四肢は無残にも折れ、血が止めどなく流れる。少女は己が飛び降りた崖を見、安堵した。これでもう終われる。少女には何もなかった。生きる理由となるものが何もかも。 1

2016-01-16 21:09:20
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

少女は生きることに疲れていた。彼女が死の間際に己の人生を振り返ることはない。安寧たる死に向かう自分にふさわしくないと考えたからだ。末端から徐々に感覚が消えていった。それが心地よかった。少女は目を閉じようとした。だが目を閉じる寸前、霧の中から影が這い出て来た。 2

2016-01-16 21:14:50
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

濃霧の空に巨大な影が浮いていた。細長い形をした影が。少女はそれを幻だと思った。影は動いた。鹿威しめいて斜めに傾く。そして、動いた。少女目掛けて。「……ッ!?」少女は驚愕した。霧の向こうから影がその正体を現した。それは軍艦だった。 3

2016-01-16 21:19:53
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

悲鳴を上げる時間すらなく、軍艦は少女の眼前まで迫った。((来ないで!))少女は内心そう悲鳴を上げた。彼女は本能的に理解した。これは善くないモノだと。軍艦は艦首を少女の心臓に押し付けると、少女の中に吸い込まれるように消えていく! 4

2016-01-16 21:23:48
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

軍艦は色付きの濁流となり少女に注ぎ込まれる。少女は恐れた。消えていったはずの感覚が蘇り、恐ろしい生命力を己の身に感じたのだ。しかも強まり続けている!「ヤダ…やめて!出ていって!」少女は絶叫した。((断る))己の内側から声が聞こえた。少女の恐怖が強まった。 5

2016-01-16 21:26:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

((今からお前は私だ。私の未練を晴らすのだ))声は恐ろしげに宣告した。「嫌!私は死にたいの!」((死んでたまるか!お前は私だ!今からお前は、艦になるのだ!))「アイエエエエ!?」少女は悲鳴を上げた。それが少女としての最後の言葉であった。濁流は全て少女に注ぎ込まれた。 6

2016-01-16 21:30:15
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

………そこで、目が覚めた。「ハァーッ…ハァーッ……今のは」吹雪は瞬間的に立ち上がった。息が荒い。汗もかいていた。「…大丈夫か?」向かい側に座っていたリカルドが心配げに問い掛けた。「あっ…すみません」「また悪夢か」「…はい」吹雪は頷く。リカルドは左顎の古傷を撫でた。 7

2016-01-16 21:35:34
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪は己の席に座り直した。「……私、自殺しようとしてたんですね」「……」リカルドは黙って吹雪の言葉を聞いた。「……ちょっと、外の空気吸ってきます」「ああ」吹雪は立ち上がり、外に繋がる扉を開けた。潮風と波が砕ける音が飛び込んできた。吹雪は外に出た。 8

2016-01-16 21:41:46
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

扉を開けた先は艦首であった。吹雪は絶妙な艦娘バランス感覚で揺れる艦首に立つ。「スゥーッ…」吹雪は調息する。「ハァーッ…」悪夢を追い出す様に。「スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…」曇天の空の元、小さな小型艇が海原を駆ける。やがて小型艇の行き先に、大きな艦が見えてきた。 9

2016-01-16 21:46:28
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪はその艦を見た。鹿屋の「あもり」よりも大きな艦であった。側面には「鎮守府」「よほろ」と威圧的にショドーされていた。「あれが「よほろ」…」吹雪は感慨深げにつぶやいた。潮風が一房に纏められた彼女の髪を揺らした。その瞳は緑色に怪しく輝いていた。吹雪はそれに気づかなかった。 10

2016-01-16 21:49:19
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「イービル・インフルエンス・フロム・ザ・ソウル」

2016-01-16 21:49:55
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「鹿屋基地所属リカルド・ベレンゲル。そして吹雪型一番艦・吹雪。本日付で第18次沖ノ島調査に参加します」「よく来てくれたね」リカルドと吹雪は「よほろ」到着後、司令室に通されていた。司令席にはにこやかに笑う大男が座っていた。その目元は魔女帽の唾で覆い隠され窺い知れない。 11

2016-01-16 22:00:43
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

大男は立ち上がった。魔女帽の先端が天井に擦りかけた。((大きい…))吹雪は立ち上がった大男を見、率直にそう思った。大男の背は隣に立つリカルドとさほど変わりはない。だが横幅は向こうが上だ。大男が吹雪達に歩み寄る。吹雪はその動きから大男は肥満体ではなく筋肉質であると理解した。 12

2016-01-16 22:06:12
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

大男はリカルドに右手を差し出した。「私は今回の調査を統括する舞鶴のザハだ。よろしく頼むよ」「ええ、こちらこそ」リカルドも右手を出し、握手を交わす。その時、リカルドは一瞬眉を顰めた。((この筋肉…))「どうかしたかね?」「いえ、別に」「しかし君も着任早々災難だったね」 13

2016-01-16 22:11:14
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

ザハは労う様にリカルドの肩を叩く。「沖ノ島調査はどちらかと言えば地味な任務だからね。武功を上げたい者には苦痛だろう」「そういうものなのですか?」リカルドは尋ねた。「実質調べきったようなものだからね。もうだいぶ前から調査名目のパトロールさ」「成程」 14

2016-01-16 22:17:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「ともあれ調査は明日だ。船旅で疲れたろう。今日は君の指揮する艦娘達と親睦でも深めて、疲れを癒してくれ」「了解です…吹雪」「はい」「先に行け」「司令官は?」「俺は少しザハ提督に聞きたいことがある」「はぁ。分かりました」吹雪は不思議そうな顔をしながらも、命令に従った。 15

2016-01-16 22:20:57
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

吹雪が退出する。ザハは椅子に座った。「それで、聞きたいことって?」「貴方は…いや、アンタ…ハンターか?」リカルドは端的に問う。ザハの動きが止まる。「何…」「アンタの筋肉の付き方。あれは普通の鍛え方じゃつかねぇもんだ」リカルドは青い瞳でザハを見た。「あれは銃槍使いの筋肉だ」 16

2016-01-16 22:25:32
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「銃槍…」「ガンランス。竜のブレスから着想を得た砲撃機能を備えた大業物。本体の重量は何より、砲撃の反動は素人なら脱臼しかねん代物。それを手足のように使う銃槍使い達の筋肉は独特だ。握手で分かる程度でな」ザハは己の手を見た。幾多の肉刺が潰れたか分からぬ程分厚い手であった。 17

2016-01-16 22:32:04
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「君は一体…」ザハは信じられないという表情でリカルドを見た。彼に過去の記憶はない。目覚めればそこは鎮守府内の医療ベッドであった。彼は謎の八卦炉と魔女帽、そしてガンランスしか持っていなかった。提督適性を見出されなければ、野垂れ死んでいただろう。誰も自分のことは知らなかった。 18

2016-01-16 22:37:25
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

提督として生きていく中で、存在しない過去はしこりめいて胸の裡に残っていた。自分はこの世界の人間ではないと本能的に察していた。その自分が、この世界の命運をかけた戦いの指揮官として相応しいのだろうか。散っていく戦友たちを見て、いつもそう考えていた。 19

2016-01-16 22:42:21
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「俺もハンターだからな」リカルドはそう言った。「君も…」ザハの声は震えた。提督で、ハンター。ザハは感動した。まさか自分と同じ境遇の者に出会えるとは。「そうか…君も…そうか…」「会えて嬉しいぜ、同業」「ああ、私もだ」「聞かせてくれよ、アンタの話を」「ああ、ああ!」 20

2016-01-16 22:50:44
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「うぅん…」吹雪は艦内地図の前で唸っていた。「集合場所、どの辺りなんでしょうか…」吹雪は手元のメモと地図を交互に見た。メモには「18号室」とだけ記されていた。だが地図には部屋番号が記されていなかった。「談話室の事なのかな…」吹雪は悩み続ける。その時。 22

2016-01-16 23:01:01
Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

「そこで何してんの?」後ろから声が掛かる。吹雪は振り向いた。そこに居たのは赤紫色の長髪の女であった。その手には中身の減った一升瓶。「貴方は」「あたし?あたしは飛鷹型2番艦・隼鷹」「ドーモ、吹雪型一番艦・吹雪です」「吹雪…ああ、アンタが今日来るっていう?」 23

2016-01-16 23:13:49
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