■界隈ログ(小伊)3

小伊(シャオイー・マーティン) 16歳/アルビノ/父親がとあるお偉いさん 3章です。
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シャオイー(小伊) @applex002

その時、ぼくは正しく人成らざる悍ましい怪物に成り果てるのだ。怪物の血がぼくの中に混じり、ぼくの身近な人を危険に陥れようと虎視眈々と身を潜めている。狙っている。ぼく自身を怪物に作り替えようとゆっくりと侵蝕している。

2016-11-25 00:36:58
シャオイー(小伊) @applex002

それでも、そんなぼくを見捨てることなく救ってくれたのは彼女だ。誰よりも間近で脅威を知ったはずなのにこうして側に置いて、自分を弟のようだと言う。家族のように慕ってくれる。 わがままで高飛車で手に負えない、ぼくの自慢の主人だ。

2016-07-16 15:20:36
シャオイー(小伊) @applex002

「……だから、」と少女はひとり納得するように小さく呟いた。「だからシャオさん、あんなにたくさんの吸血鬼の本を読んでいらっしゃったのですね」『え?』

2016-11-25 00:40:51
シャオイー(小伊) @applex002

「司書さんとお話させて頂いた際に、貸出記録を見せて頂いたんです。そしたら、一時期吸血鬼に関する民話や伝承の本ばかり読んでいらしてる期間があって」『ああ……ぼくはシャオの"持ち物"ですから。やっぱり、興味やそれなりの知識は必要だと思ったんでしょう』

2016-11-25 00:46:28
シャオイー(小伊) @applex002

「それだけじゃないと思います。……すごい記録だったんですよ、本の名前がずらっと並んでいるだけの貸出記録の、何ページもずっと吸血鬼の本ばかり」くすりと他人行儀に笑いながらも少女は覚えていない過去を振り返って言う。「強い執念のようなものを感じました」

2016-11-25 00:50:39
シャオイー(小伊) @applex002

『執念……ですか』「あ、えっと、今は覚えてないんですけどね!」おどけて取り繕う少女を見つめながら、執事はその意味を考える。こうして血を入れ替える方法を見つけたのも、以前に自分が手の付けられない状態になった時も、いつもぼくを救ってくれたのはシャオだった。

2016-11-25 00:56:34
シャオイー(小伊) @applex002

わがままで高飛車で手に負えない、ぼくの自慢の主人。 いつも突飛なことばかりしでかす彼女が陰でどれだけの苦悩を、努力を、心を裂いていたのかを、ぼくはちゃんと理解していたんだろうか。それは今のシャオに聞いてもわからないことだろうけど、聞かなくても確かにわかっていることがひとつある。

2016-11-25 00:59:30
シャオイー(小伊) @applex002

どんな時もシャオは決して諦めなかった。 どんなくだらない勝負も賭け事も、ぼく自身が人として生きることを諦めかけた時だって、彼女は絶対に。

2016-11-25 01:02:27
シャオイー(小伊) @applex002

砂時計が最後の一粒を音もなく零しきる。 主人が、シャオが諦める前にぼくがまた諦めてしまったら今度こそ合わせる顔が無いや。 執事は針を抜いて道具を手早く片付けると、最後に残った砂時計をもう一度ひっくり返した。時計はまた、一から終わりへと時を刻み始める。

2016-11-25 01:06:16
シャオイー(小伊) @applex002

『シャオ。本当はあまりお勧め出来ないのですが、最後にもう一箇所だけ、心当たりがあります』 だから、どんなことがあっても最後まで諦めない。今度は必ずぼくがシャオを助けてみせる。 「……約束は、今日までですもんね。今日が終わるまで、二人で頑張りましょう」

2016-07-16 15:23:54
シャオイー(小伊) @applex002

執事の強い頷きに少女も笑顔で頷き返した。

2016-07-16 15:24:02

まとめ 青猫堂へ 493 pv

シャオイー(小伊) @applex002

二人並んで歩く足取りは重たい。 自分でも頭が良い方だとは思っていないが、流石に先程のやり取りの後で少女がただの記憶喪失でないことに気づかないほどの馬鹿ではない。店を出てから少女は石のように固く沈黙を守り、執事もまたそんな少女の気持ちを察して話しかけることを躊躇っていた。

2016-12-16 00:39:41
シャオイー(小伊) @applex002

「……何も聞かないんですか?」 『あ、……えっと、話したいことがあるのでしたらもちろんお聞きします。でも、先ほど"お話しします"とおっしゃったので。シャオから話してくれるまで待ちますよ』 にへらと緊張感なく言う執事に少女はそっと目を伏せた。

2016-12-16 00:40:47
シャオイー(小伊) @applex002

「……ばか」 『え?』 そして再び執事を正面から見据えたかと思うと、満面の笑みを浮かべた。 「クリスさんって、ばかですよね!」 『え?えーっと、そうですかね?あはは……』

2016-12-16 00:43:08
シャオイー(小伊) @applex002

普段からバカだの間抜けだのと罵られるのは慣れているつもりだったが、いまの少女に面と向かって(それも今日一番と言える良い笑顔で)言われると、執事は胸の奥の柔らかいところを斜め45度から突き刺されたような気持ちになった。凶器はロンギヌスの槍かと思う程の威力である。

2016-12-16 00:45:16
シャオイー(小伊) @applex002

「……ちゃんとお話しします。だから、もう少しだけ、わたしに付き合ってください」 そんな執事の胸の内を知ってか知らずか、少女は儚くも強い眼差しで執事を伺った。そんな少女を無碍に思うはずも無く、執事は困ったように眉を下げる。 『はい、もちろんです』 もとよりそのつもりだ。

2016-12-16 00:47:46
シャオイー(小伊) @applex002

『あ、こっちです』 それからいくつかの曲がり角を過ぎ、人混みの多いメインストリートから外れた頃合いになってようやく目的の場所にたどり着いた。 閑散とした古い建物が並ぶ一角。その存在を知っていなければ見落としてしまうほどひっそりとした謙虚な居住まいでその店はそこにあった。

2016-12-16 00:49:00
シャオイー(小伊) @applex002

街並みに溶け込む階段を恐る恐る降りる。穏やかな木彫のドアには確かに『林檎屋』の看板がかけられていた。 『……開けますね?』 少女が小さく頷いたのを確認し、執事はその扉を引いた。 @applex000

2016-12-16 00:49:29

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