「ブレイク・ザ・ケージ・オブ・ゴッドスピード」
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それは、既に人でも艦でもない怪物である吹雪が抱いたある種のシンパシーからの疑問だろうか。吹雪は考える。答えは出ない。「ブイが見えた!」島風が叫んだ。吹雪は思案から帰還する。鹿屋はもうすぐの距離に迫っていた。吹雪はブレーキを握る。島風も滑るように減速した。 50
2016-04-08 23:54:53ブイには島風が先に辿り着いた。10秒ほど間を置いて、吹雪が追いすがる。「イェーイ!勝ちー!」島風は吹雪にVサインを作り勝ち誇る。「負けちゃいましたね」吹雪は微笑み、右手を差し伸べた。島風は一瞬その意図を考え、やがて笑って右手を差し出し、握手を交わした。 51
2016-04-09 00:00:48「またかけっこしようね!」島風は素直な笑顔でそう言った。「ええ」吹雪も自然に笑みが深くなる。「ですが、勝負になるには夕張=サンに改良…」KADOOOM!その時、出撃ドックから爆発音が響いた!島風と吹雪は笑顔を消し、戦士の表情でドックに目を向ける!「何が」「兎に角行こう!」 52
2016-04-09 00:04:37「「イヤーッ!」」二人は直ぐ様出撃ドック内へと跳躍移動。そして見えた。ドッグ内のコンクリート地面がひび割れているのが。「何が」吹雪が原因を探ろうとした、その時!「イヤーッ!」二人目掛け何かが投げ飛ばされる!「エッ…」「イヤーッ!」困惑する島風を庇い、吹雪はそれを受け止める! 53
2016-04-09 00:10:09吹雪は受け止めたその傷だらけの艦娘を見、声も無く驚愕する。「嘘…」島風は目を見開いた。見紛う筈もない。その白髪黒服の艦娘の名は天津風…島風の親友である。「天津風ちゃん!?」「し、島風…?」天津風は呻き、島風を見た。「どうしたの一体!?」「ダメ…」「えっ」「逃げ…て」 54
2016-04-09 00:12:47「遅カッタジャナイカ」奥の工廠から誰かが歩いてきた。「うう…」その者は傷つき倒れた夕張を引き摺りながら二人の前に姿を現した。悪魔めいた流線型フォルムの詩型を持つそれは人型の深海棲艦であった。「貴方は」吹雪の左目の虹彩がセンコめいて窄まり、緑色の炎光が灯る。「何者だ!」 55
2016-04-09 00:16:39「貴様ニハ用ハナイ」深海棲艦はそう言うと、島風にアイサツした。「ドーモ、ハジメマシテ最速ノ艦娘=サン。スピードデーモンデス」そして深海棲艦は、スピードデーモンは目を光らせ宣言した。「貴様ヲ、スピードノ果テヘ連レテ行ク」 56
2016-04-09 00:19:26#2
時刻は少し巻き戻る。夕張は出撃ドックから海を臨み、手元のタブレットを操作し、吹雪に手渡したヘルメットから送信される様々なデータに目を通していた。「流石、カラテ特化の艦娘ね」夕張は数値を睨み、そう称賛する。「どういう意味よ?」横から画面を覗き込む葛葵が問うた。 1
2016-04-23 15:12:53夕張は葛葵に視線を向けず、言った。「詳しい説明は省きますけど、あの試作機、意図的にリミッター緩めてるんですよ」「リミッターを?」「まぁ、機体限界を知るためですね。けど、エンジン部門とブースター部門の開発チームが調子に乗って、想定の倍以上のモンスターマシーンになったんですけど」 2
2016-04-23 15:17:11「相変わらずだねぇ、あそこ」「ええ、全くです」夕張は溜息を吐き、言葉を続ける。「ともあれ、想定の倍の馬力を獲得したあの試作機だと、普通の艦娘じゃ乗れないんですよね」「艦娘で?」葛葵は目を丸くした。「艦娘で」夕張はオウム返しに返答する。 3
2016-04-23 15:22:55「もし乗れるとしたら、そうですね。大和型や長門型の機関出力で強引に抑え込むか…」夕張はもう一度タブレット画面を見る。数値化された吹雪の身体データから、吹雪は振り落とされていないことが分かる。「カラテ…その中でも柔の動きたるジュー・ジツをマスターしていることですかね」 4
2016-04-23 15:30:01「カラテ、ねぇ」葛葵は自身の無精髭を撫でる。「この鹿屋でカラテを鍛えて居る艦娘はリカルド大将と鹿屋長官の施策によって他の鎮守府よりも多いのはありがたかったです」夕張は出撃ドックの壁に吊るされた「ノーカラテ、ノー艦娘」の垂れ幕を一目見た。 5
2016-04-23 15:38:04「その数多いカラテの使い手の中で、今回求められるほどの力量の持ち主は、恐らく神通教官と吹雪=サンでしょう」「けど、今の神通は」「ええ、今回のような試作機のテストなんかにあの人を駆り出せるほど、私偉くないですし」「だから消去法で吹雪が」「ええ、そうなりますね」 6
2016-04-23 15:48:51「しかしまぁ、やっぱり出力は下げたほうがいいですねぇ」「そりゃそうだよ」葛葵は呆れたような表情を浮かべる。「あんなモンにウチの初霜や磯風が乗ると思うとぞっとするよ」「ですよねー」夕張はタブレットを操作しようとして「君だって島風をあれに乗せたくないだろ?」動きが、止まった。 7
2016-04-23 16:16:52「中将」夕張の顔から、少しばかり血の気が引いた。葛葵は少しばかり眉を顰める。「…君、まだ気にしてるの?」「気にしますよ、そりゃあ…」夕張はタブレットから目を離し遠くを、海を、そこで走っているであろう島風を見た。「あれは事故だったんだろう?」葛葵は案ずるように問い掛ける。 8
2016-04-23 16:49:08数年前の事故。忘れもしない。夕張は下唇を強く噛んだ。当時の海技研最新鋭の艦娘であった島風の速力テスト。彼女は速かった。理性すらも、肉体をも置き去りにするほどに。島風は研究者達の制止を振り切り、限界まで速力を上げようとして…自分の肉体の限界に捕らえられた。 9
2016-04-23 17:12:57結果、島風は瀕死の重傷を負った。致命傷と呼ぶに相応しいほどの。「彼女は君が救ったんだろう?」葛葵が問う。葛葵の言葉通り、死にかけた島風を蘇生させたのは、当時まだ人間の研究員であった夕張だ。「そうですね…ですが…」夕張はただ目を閉じた。「あの子にとって…これは幸せだったの?」 10
2016-04-23 18:07:20「夕張」葛城は何かを言おうと、顔を上げた。KRASH!「えっ」何かが砕けた音がした。葛葵は咄嗟に下を見た。割れたタブレットが落ちている。先程まで夕張が手に…そこまで思考し、葛葵は気付いた。自分の隣にいるのが夕張ではなく…流線型フォルムを持った謎の存在だと言う事に! 11
2016-04-23 18:13:30「邪魔ダ」その存在はそう言うやいなや、葛葵の体は浮いていた。「グワーッ!?」腹部への強烈な打撃。くの字に折れ曲がった葛葵は壊れたブーメランめいて壁まで吹き飛んだ!((何だ、一体…!))激痛で霞む視界で、葛葵は見た。蹴りの姿勢で留まる謎の敵。壁に叩き付けられた夕張。そして… 12
2016-04-23 18:21:05((天津風…ッ!?何故!))見紛う筈も無かった。謎の敵が小脇に抱えるその少女を、自分の部下を!((無事でいてくれ…))葛葵はそう心中で呟き、壁に叩き付けられた。CRAAAAASH! 13
2016-04-23 18:23:42「連れて…行く?」スピードデーモンとアイサツした流線型フォルムの深海棲艦の言葉の意味を捉えかね、島風はただ呟いた。「ソウダ」スピードデーモンは頷いた。「疾風ノ乙女ヨ。貴様モ最速ヲ標榜スルナラバ求メルハズダ」スピードデーモンの目が煌々と輝く。「スピードノ果テヲ」 15
2016-04-23 19:37:05