山本七平botまとめ／【裏切者ヨセフスの役割⑦】自信家で自己宣伝屋だったヨセフス

山本七平bot @yamamoto7hei

①彼は『自伝』を書いている。 最古の自伝文学といえるかも知れないが、これは厳密な意味で「自らの伝記」とはいえない。 というのはティベリアスのユストスという人が、ヨセフスが煽動をしてガリラヤを叛乱に決起させたのだと言ったようなことを書いて彼を弾劾したらしい。＜『禁忌の聖書学』

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②らしい、というのはその文書が残っていないからだが、この『自伝』はそれへの反論として書かれたものだからである。 従って彼の家系や生いたちから書き初めてはいるものの、その主要な部分は、生涯の内の６カ月に過ぎないから、自伝としては極めて不完全なものだが、一応、彼の経歴はわかる。

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③彼の本名、いわばヘブル名はヨセフ・ベン・マッタティアスで、正確にいえば紀元３７―３８年の生れである。 …大体、イエスの十字架刑の８、９年後に生れたわけで、死んだのは紀元１０２年と１０５年の間と推定されるから、新約聖書の大部分が成立した時代に生きていたことになる。

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④その彼は『自伝』…に次のように記している。 【…私は…勉強はよくでき、すぐれた記憶力と理解力とで評判となった。まだ少年だった１４歳のころ、私の学問にたいする情熱はすでにだれ一人知らない者はないぐらい有名となり、（続】

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⑤【続＞大祭司たちや町の指導者たちが、私たちの掟についてより正確な知識を得るため、あい連れ立ってしばしば私のもとへやってきた】 ここまで読んだだけでだれでも感ずることは、ヨセフスという人間があらゆる点で大変な自信家で自己宣伝屋だということである。

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⑦【私はこれらの各派を徹底的に学んだ後、その内の最上のものを選びとるべきだと考えたわけである。 私は激しい訓練に身を委ね、厳しい勉強をつんだ結果、三宗派とも卒業したが、しかしそこで得られた経験は、私にとって十分なものとは思えなかった。】

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⑧【ところがその頃、バンヌースという人物の存在を耳にした。彼は荒野に住み…土地に自生するものを食べて、昼夜を問わず、浄めのため、冷水で沐浴するという生活を送っていた。 私は彼の熱心な弟子となった。そして私は彼の傍らで三年間生活をし、目的を果したので都に戻った】

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⑨ユダヤ教の三大宗派のことを彼は『ユダヤ戦記』でも『ユダヤ古代誌』でも取り上げている。 このうちパリサイ派、サドカイ派は新約聖書にも登場するが、エッセネ派は登場しない。

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⑩エッセネ派をヨーロッパに紹介したのはヨセフスとアレクサンドリアのユダヤ人学者フィローン、そして面白い事に膨大な『博物誌』を著わしたローマ人プリニウスである。 エッセネ派はこの三人の紹介で知る他に方法が無かったのだが…死海写本が発見されて彼らの文書を読み得るようになった。

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⑪ただヨセフスが…エッセネ派の僧院に入って学んだとは考えにくい。 というのはここは入団までに三年間の厳しい試験期間があるからである。恐らく町に住むエッセネから知識を得たという事であろう。また新約聖書に出てくる洗礼者ヨハネと極めてよく似たバンヌースという人物への記述も興味深い。

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⑫だがその傍らで三年をすごしたとなると、次の言葉と矛盾する。 【今や１９歳になった私は、パリサイ派の教義に従って身を処する事にした。このパリサイ派はギリシア人の間のストア派と呼ばれているものに似ている】

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⑬彼は祭司階級出身の神殿貴族だから、その出身はサドカイ派であるが、教義としてはパリサイ派を選んだということであろう。 これが以後の彼の態度を特徴づけているとも考えられるが、さらに彼に大きな影響を与えたのは次の事件であろう。