風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#2 嵐のシルフ◆2
_3人がかりで資料を整理する。次々と新しい事実が分かってきた。風車の副作用だ。風車の回転効果が、シルフを強くするという。 「聞いたことがある飛行船のジャイロには、シルフがよく住み着くと」 「つまり、サンダーシルフはどんどん強くなるってこと」 41
2016-03-31 17:15:47_風車塔は巨大だ。いくつもの風車が設置され、それらの生み出す力すべてが一帯を支配するサンダーシルフのもとに流れ込んだとしたら……? 「サンダーシルフは危険だ。もはや、誰にも止められない力を得てしまったのかもしれない……」 少年は途方に暮れる。 42
2016-03-31 17:20:33「なぁ、おじさん。おじさんはシルフと戦えるか……? 魔法でも使えたら……」 「おじさんではない。レジルという。魔法はいくつか使えるが、軍隊の真似事は苦手であるな」 本気で戦ったらどうなるだろうか。少年は次第に恐れを感じる。窓の外の風が強くなり、ガタガタと窓を揺らす。 43
2016-03-31 17:26:23「きっと兄さんは強すぎるサンダーシルフの力を抑えるために、避雷針を建てに挑んだんだ……そして、逆襲された……」 窓の揺れと少年の不安が重なり、反響する。 「真意は、どこにあるのか」 レジルはぽつりと呟いた。 44
2016-03-31 17:31:18「兄さんはきっと、街を守ろうとして危険に挑んだんだ。シルフを倒せなくても、雷さえ防げれば街は守られる。風車は絶対に必要なんだ。堅麦を挽かなくちゃ、この街の食料供給は成り立たない」 「シルフを倒さない理由……」 レジルは少年の隣で別な考えを巡らせていた。 45
2016-03-31 17:37:11「シルフは恐ろしいんだよ! 普通に強いし、伝説にもあったように、殺したら呪いがかかる。生かさず殺さず、力だけをそぐ方法として、避雷針は最適なんだ」 「シルフの力は雷だけではあるまい。シルフは風も起こせるし、嵐も起こせる。避雷針を破壊するのは可能だ」 46
2016-03-31 17:41:43「そ、それは……きっと風車の力が惜しいから手加減してくれるはずって思って……」 「フム、仕方なく共存を選ぶというわけだな。それは街への復讐という動機から大きく外れる行為であるな」 突っ込まれて、あたふたとしてしまう少年。幾分か冷静になって、押し黙る。 47
2016-03-31 17:46:26「しかし、真実には限りなく近いように思える。要は風車の力と、避雷針による防護だ。そして我々は守らねばなるまい。風車塔を、そして風車塔を誇るひとたちを……」 レジルは風車塔に思いを馳せた。いま、そこでは急ピッチで修理が行われているはずだ。遠くから、工事の音が聞こえる。 48
2016-03-31 17:51:19_工事現場では、大工の男が嵐に負けない大きな声を張り上げていた。 「補強を急げ! このまま嵐が来たら、崩れた箇所から大きく崩落する! 街の象徴を、街の災厄にしてたまるか! 北側の作業が遅れている!南の班から救援を頼む!」 男たちは皆、強い意思で作業を続ける。 49
2016-03-31 17:56:58_男たちの中に、サンダーシルフへの不信が無いわけではない。街の守り神のはずが、今こうして、風車塔を崩そうとしている。しかし、それ以上に男たちには風車への誇りがあった。素晴らしい風車を見れば、きっとシルフも考えを改めてくれる……そう信じて。 50
2016-03-31 18:01:07【用語解説】 【ジャイロ】 飛行船のものは、特にプロペラと呼ぶ。回転する鉄の棒で、種類によっては剣のように平たい。この世界には揚力が無いので、地球のプロペラと同じ原理では推進力を得られない。ただし、回転体の回転力によって空気中の魔力に作用し、低速ながら馬力のある推進力を得られる
2016-03-31 18:06:51