魔術書『聖キプリアンの書』と聖人キュプリアヌスの伝説
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【中世ヨーロッパで流布した聖人伝説集『黄金伝説』での描写】
『聖キプリアンの書(The Book of St. Cyprian)』はポルトガル語では『リヴロ・デ・サン・シプリアーノ(Livro de São Cipriano)』と呼ぶようだ。en.wikipedia.org/wiki/The_Great…
2016-04-22 00:41:24キプリアン(シプリアーノ)はキプリアヌス(キュプリアノス)ともいう。この聖人については中世の聖人伝説集『黄金伝説』の「136:童貞聖女ユスティナ」の章にも登場する。扱いは大きく、この章のもう一人の主役といったところ。この章の、彼についての文章の内容をまとめると、こうなる。
2016-04-22 00:46:20キュプリアノスは幼少期から魔術師だった。彼の両親は7歳の息子を悪魔に捧げ、彼は不可思議な力を得た。彼は魔術を操り、女性を動物に変えたり他にも様々な悪戯を行った。彼はキリスト教徒ユスティナに恋をした。彼女は異教の祭官の娘として生まれたが、両親ともどもキリスト教に改宗していた。
2016-04-22 00:55:41キュプリアノスは魔術を使って彼女を自分のものにしたいと欲した。それが無理なら、自分と同様ユスティナに恋していたアグラティオスという男を自分のものにするつもりだった。ちなみに彼もまたキュプリアヌス同様、魔術の使い手である。キュプリアノスはユスティナを連れてこさせようと悪魔を呼んだ。
2016-04-22 01:00:12この悪魔は自分が人間を楽園から追放させたとかユダヤ教徒にキリストを殺させたのも自分と言っているが訳文だと一人称が「あっし」になっていて口調もやたらくだけている。自称サタンの残念な悪魔という注釈書でもあるのだろうか。ラテン語原文の文体がくだけているのか。
2016-04-22 01:03:34わざわざ注釈は必要なかった。あっしなら恋の炎を燃え上がらせるなんて楽勝、と安請け合いしてキュプリアヌスにあぶら薬を使った仕込みをさせるが、彼女が祈りながら自分の体につけた十字に恐れをなしてヘタれて逃亡してしまう。キュプリアヌスはこいつを見限り、より強力な悪魔を召喚する。
2016-04-22 01:08:02前のやつを腰抜け、と呼び仕込みなしでユスティナの家に乗り込み、悪知恵を吹き込んでよこしまな恋情を呼び起こそうと試みる「あっし」よりは強力な悪魔であったが、今回も彼女は十字のしるしで誘惑に耐え、身も心も神にゆだねた彼女の息はこの悪魔を追い払ってしまう。
2016-04-22 01:14:33逃げ帰って前任者と同様「十字のしるし見せ付けられたら怖くなった」と弁明する悪魔に毒づきまくったキュプリアヌスは、三度目の正直とばかりに今度は悪魔の頭目を呼び出した。前の二人の有様を呆れてみせた彼は、ユスティナの頭に血を上らせ幻覚を見せ、きょうの真夜中には連れてきてやる、と請合う。
2016-04-22 01:21:32悪魔は若い女性に化け、ユスティナのもとに行くと、自分もあなたのもとで貞節を守りたい、と言い、貞節を守る事による報酬はどれくらいか?と聞いた。ユスティナはその報酬は大きく、お勤め(貞潔を守る)は極僅かなものだ、と返した。それを聞いた悪魔は旧約聖書『創世記』1章28節を引用する。
2016-04-22 01:27:09神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。 神は彼らを祝福して言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」。 (創世記 1章 27~28節)
2016-01-22 12:00:01悪魔は貞節を守るのって「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」に反するんじゃないの?と揺さぶりをかけた。ユスティナの心に迷いが生じてしまい、激しい恋が燃え上がり、立ち上がって悪魔についていきかけた。しかしそこでこんな邪なことを言うのはさては悪魔だな、と考え、持ち直した。
2016-04-22 01:34:45十字を切って息をふきかけると女に化けた悪魔の姿は蝋が溶けるように消失した。それと同時に心の迷いも掻き消えた。悪魔は次に美青年の姿で彼女のベッドに入り込むが今度は速攻で撃退。悪魔は諦めず彼女を高熱にする、悪魔憑きの口から彼女が結婚しないとアンティオキア中に死者が出ると言わせる、
2016-04-22 01:40:34といった作戦をしかけた。同時期に死病が町中に出たためパニックになった市民は彼女の家に押しかけ、彼女を結婚させろ、そうでないと彼女を殺すぞ、と騒いだが、両親はそれに応えようとはしなかった。ユスティナは町民のために祈りを捧げ、七年後、死の病は町から去った。
2016-04-22 01:45:13全てのたくらみが失敗した悪魔はせめてユスティナの評判だけでも落としてやる、と彼女の姿に化けキュプリアヌスのもとに向かい、彼に熱烈に恋しているような仕草でキスしようとするが、「よく来てくれたね、ユスティナ!ほんとうに美しい」と喜色満面に彼が言うと、煙となって消失してしまった。
2016-04-22 01:52:37ユスティナの名は神聖なものとなっており、それを口にすることすら、悪魔には耐えられないものだった。キュプリアヌスは意気消沈するどころか、更に恋心を燃え上がらせた。魔術を使って女性や鳥に変身して彼女の家に向かうが、戸口まで行くと変身の術は解けてしまう。
2016-04-22 01:55:43アクラディオスも雀に変身してチャレンジするが、窓辺で彼女の視線を受けると変身が解けて落下してしまう。家に入ることも飛んで去る事も出来ない状況に震え上がるアクラディオスだったが、ユスティナは梯子を使って下まで降りてきて彼に法律に反しもするし魔術使うのはもうやめるように、と諭した。
2016-04-22 01:59:35そのシーンの次に「以上のことはすべてあきらかに悪魔の詐術によるものであった」という文がある。アクラディオスに魔術の力を与えていたのは悪魔だった、という意味か、それともこの「アクラディオス」は偽者で実は悪魔だった、という意味か。ともかく悪魔はついに負けを認め、キュプリアヌスのもとに
2016-04-22 02:02:41行き、申し訳なさそうにした。「お前も負けたのか」悪魔の癖に若い娘ひとりどうにもできないとは、と馬鹿にするキュプリアヌスだが、ついでに尋ねた。ユスティナのどこにそんな大きな力が隠されているのか、と。自分を見捨てない事を話す条件とした。キュプリアヌスは同意し、見捨てないと誓った。
2016-04-22 02:09:19悪魔は言った。十字架の男(イエス)のしるしを見せられると力が抜けて姿が溶けてしまうと。キュプリアヌスはさらに問うた。その十字架の男とやらはお前より強力なのか?この問いに、その男の力には誰も適わず、自分の仲間だけでなく人類を騙すもの全てを地獄に落とす、と悪魔は答える。
2016-04-22 02:15:00これを聞いたキュプリアヌスは掌をひっくり返す。自分は地獄に落ちるなんて御免なのでキリスト教徒にならなきゃ、と言った。悪魔は俺の持ってる大いなる力、地獄の軍勢の全ての力かけて誓ったじゃねぇかと憤るが、お前のショボい力なんぞ怖くない。悪魔なぞ御免だ。十字架の尊いしるしで武装するんだ、
2016-04-22 02:20:03そうキュプリアヌスが言い返すと、悪魔は逃げ出した。その後、キュプリアヌスはキリスト教の司教のもとを訪れる。信者を惑わしにきたのか?といぶかる司教に事の次第を語り、洗礼を受けた。彼は善きキリスト教徒として徳を積み、その司教が亡くなると後任者として選出された。
2016-04-22 02:24:25司教になった彼はユスティナを修道院に迎え、そこの修道院長に任命した。迫害を受ける他のキリスト教徒たちには手紙を送って激励した。二人のことを聞きつけた現地の総督は二人に異教神への供物を要求するが当然拒否。総督は、瀝青、蝋、硫黄が溶け込んだ煮え立つ釜に二人を投じたが……
2016-04-22 02:29:14まったく効果なし。火傷どころか熱いという感覚さえなかった。それを見た異教祭官は自分を釜の前に立たせてくれれば二人の力を無効化してみましょう、と言い、釜の前でヘルメスとゼウスを称えた所、釜の火が溢れ出て祭官を骨も残さず燃やし尽くした。当の二人は釜から出され、斬首刑に処せられた。
2016-04-22 02:33:19