忘却の天井 第一部 ~塔を目指して~

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夢乃 @iamdreamers

「そうだよな。街灯も点いてるし。おっと」 カイムは前方に突然姿を現した比較的深い穴の手前で車を停めた。幸い・・・かどうか、あまり大きくはない。カイムは右にハンドルを切ると、再びアクセルを踏んだ。 「太陽が出れば少しは進みやすくなるかな」 #twnovels

2016-05-15 16:29:32
夢乃 @iamdreamers

「だね。それもあって急いだの。八月になったら一日中真っ暗だもんね。まぁ、このまま南に進んで行けば太陽の出ている時間はどんどん短くなっちゃうけど」 「そして、ずっと南は常夜の領域、か。でも、何でだろうな」 注意深くハンドルを操作しながら、カイムが言った。 #twnovels

2016-05-15 16:30:35
夢乃 @iamdreamers

「ん? 何が?」 「これから行く電力受電所が、さ。昔の受電所って言えば資源の宝庫だろ? みんながそこに殺到して、道だってもっと整備されててもいいのに。親父さんが見つけてからだって十年以上経っているんだろ?」 「ああ、それね」 #twnovels

2016-05-15 16:31:01
夢乃 @iamdreamers

アリューはホロパッドと外を見ながら続けた。 「なんかね、やたらと見つけにくいところにあるみたい。父さんの日記とか記録とか見ると。場所は記録にあったけど、どうやってそこに行けるのか、判らないのよ。記録になくて」 #twnovels

2016-05-15 16:31:27
夢乃 @iamdreamers

「なんだって?」 「多分、皆が受電所の部品を取ってっちゃうのを警戒したんじゃないかな」 「それなら、俺たちもそこに入れないんじゃないか?」 「場所は判ってるんだから、なんとかなるわよ。それに、私は父さんの娘よ? 父さんが見つけたなら、私だって見つけて見せる」 #twnovels

2016-05-15 16:31:59
夢乃 @iamdreamers

アリューの声には自身が漲っていた。隣で慎重にハンドルを操るカイムはアリューほどには楽観的にはなれなかった。場所が判っていても見つけられるか判らない。いや、その場所には辿り着けるだろう。街から直線距離にして200km程度でしかないし。 #twnovels

2016-05-15 16:32:29
夢乃 @iamdreamers

ところが、それから十余年、そこが“鉱山”になっていないことから考えても、アリューの父以降、そこへ入る道は誰も見つけられていないということになるんじゃないか。そんなところを、俺たち二人だけで見つけられるんだろうか。 #twnovels

2016-05-15 16:33:13
夢乃 @iamdreamers

けれど、すぐにそんな考えは止めた。そもそも、探検家とはそういうものだ。永い時の彼方に忘れ去られた遺産を求めて未踏の地をさ迷い歩く。探検家として活動するアリューに付き合う以上、俺も探検家だ。見つけてみせるさ。カイムはハンドルを握り直した。 #twnovels

2016-05-15 16:33:42
夢乃 @iamdreamers

「ちょっと停めてもらっていい?」 「ん? どうした?」 カイムはブレーキをかけて、車を停めると、隣のアリューを見た。 「うん、その、ちょっと・・・おしっこ」 「えっ」 カイムは慌てた。 「えっと、それじゃ、俺、外に出てるよ」 #twnovels

2016-05-29 00:24:11
夢乃 @iamdreamers

カイムはキャノピを開くスイッチに手を伸ばした。 「あ、待って」 その手をアリューの華奢な手が止めた。 「せっかく暖まってるのに窓開けたら冷えちゃうよ。このままでいいよ」 その頬が微かに紅く染まっているように見えるのは恥じらいか、それともカイムの気のせいか。 #twnovels

2016-05-29 00:25:04
夢乃 @iamdreamers

「いや、だけど」 「それに」アリューは視線を僅かにカイムから逸らしたままで続けた。「塔を昇り始めたら窓開けられなくなるから。今から慣れておかないと」 「それはそうだけど・・・それじゃ、俺、外を見てるから、手早く頼むよ」 #twnovels

2016-05-29 00:25:26
夢乃 @iamdreamers

「うん」 アリューは頷くと、シートベルトを外して狭い車内で苦労して外着のズボンを下ろした。カイムが目を逸らしているのを確認して、下着もおろして下半身を曝け出す。座席の蓋を開いて吸引機を下半身に当てる。隣を気にしながら、用足しにかかった。 #twnovels

2016-05-29 00:25:52
夢乃 @iamdreamers

「・・・もういいよ」 アリューの声を背に受けて、カイムは振り返った。尤も、外は暗い。グラスメタルに歪んで写るアリューが気になってしかたがなかったのだが。 「いいのか」 「うん。すっきりした。緊張して出せないかと思ったけど」 #twnovels

2016-05-29 00:26:14
夢乃 @iamdreamers

えへ、とアリューは照れ隠しのように笑った。 「カイムはしなくて大丈夫?」 「え? あ、俺はまだ、大丈夫」 へどもどしながら答えるカイムを見て、アリューは笑った。その頬はまだ少し赤味が残っていたが。 「折角だし、運転変わろうか」 #twnovels

2016-05-29 00:26:34
夢乃 @iamdreamers

「うん? ああ。そうだな。大丈夫か?」 「平気平気。ルート確認はよろしく」 そう言ってアリューはダッシュボードに置いていたホロパッドをカイムに渡すと、自分の座席のハンドルを手前に倒した。 「それじゃ、行くよ」 ハンドルを握ってアクセルを踏み込む。 #twnovels

2016-05-29 00:26:55
夢乃 @iamdreamers

車は再び、ゆっくりと静かに動き出した。カイムはホロパッドに地形図を出す。 「気をつけろよ。地面の状態が悪いから」 「うん、解ってる」 アリューは慎重にハンドルを操作した。 #twnovels

2016-05-29 00:27:20

夢乃 @iamdreamers

旅の初日は順調、と言えた。昼食も車内で交代で食べた。天井の端から太陽が顔を覗かせ、気温も上昇する正午過ぎに外で食べようか、とも考えたが、その時間帯は貴重な明るい時間でもある。暗闇をヘッドライトの灯りだけで進むより、遥かに高速を出せる。 #twnovels

2016-06-12 18:30:59
夢乃 @iamdreamers

二人で相談した結果、纏まった休息を取るよりも距離を稼ぐことを優先することにした。 車の時計が18時を過ぎたところで、運転を担当していたカイムはブレーキを踏み込んだ。 「今日はこの辺にしておくか? あまり最初から急ぎすぎると後が辛いし」 #twnovels

2016-06-12 18:32:44
夢乃 @iamdreamers

「う~ん、カイムがそう言うなら、今日はここまでにしておこっか。もうちょっと進んでおきたい気もするけど」 「街からどれくらい離れた?」 「う~んと、ざっと150キロ弱、ってところかな。走行距離は300キロ越えてるんだけどね」 #twnovels

2016-06-12 18:33:04
夢乃 @iamdreamers

アリューはホロパッドに表示したデータを読んだ。 「12時間くらい、ほとんど走り続けて、そんなもんか」 「仕方ないよ。道の状態も悪いし。って言うより、途中から道なんてほとんどなかったけどね」 #twnovels

2016-06-12 18:33:26
夢乃 @iamdreamers

「そうだな。それに、外が暗いってこともあるしな。太陽の出ている時間がもっと長ければいいんだけれどな」 カイムは上を見上げた。その視界には黒々と天井が広がっている。視線を北に向けると、途中から星空が顔を覗かせる。 #twnovels

2016-06-12 18:33:45
夢乃 @iamdreamers

漆黒の空と星空の境界線、そこが天井の端。天を横切るその境界に沿って、カイムは目を動かした。 「だけど、これからはその時間もどんどん短くなっていくからねぇ。明るい時間にスピードを出せるのも今のうちだけだよ」 #twnovels

2016-06-12 18:34:04
夢乃 @iamdreamers

「ん? まだ一ヶ月くらいは昼の時間が伸びていくんじゃないか?・・・あぁ、そうか、俺たち、南に向かっているからか」 カイムは座席の下からペーストと水のチューブを取り出しながら言った。 #twnovels

2016-06-12 18:34:22
夢乃 @iamdreamers

「そ。南に行けば行くほど、太陽を見られる時間は短くなっていくからね。赤道近辺は一年中、一度も太陽が出ないわけだし」 アリューもホロパッドをダッシュボードに置くと、自分の座席の下からチューブを取り出して吸い口を咥えた。 #twnovels

2016-06-12 18:34:42
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