忘却の天井 第一部 ~塔を目指して~

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夢乃 @iamdreamers

「だからこそ、“常夜の領域”ってわけか」 「そういうこと。う~ん、お昼のときも思ったけど、このペースト、家で食べてたのとちょっと味が違うかな」 「浄化槽が違うからな。調整すれば多少は味も変えられるけれど、どうする?」 #twnovels

2016-06-12 18:35:02
夢乃 @iamdreamers

「いいよ、このままで。変わるって言っても、そんな劇的に変わるわけじゃないでしょ。気分が変わって、かえっていいかも。昨日までの生活から変わったんだ!って感じで」 「そうか。じゃ、俺もこのままでいいか。気になる程じゃないし。すぐに慣れるだろ」 #twnovels

2016-06-12 18:35:23
夢乃 @iamdreamers

その後も言葉を交わしながらゆっくりと食べ、飲んだが、簡素な食事はすぐに終わった。時間的にはまだ早かったが、翌日に備えて、二人共椅子を倒し目を閉じた。 「おやすみ」 「おやすみなさい」 二人の言葉が重なった。 #twnovels

2016-06-12 18:35:44
夢乃 @iamdreamers

こんなに早い時間に、こんな環境で眠れるだろうか? カイムは思ったが、椅子を倒したベッドは長期の移動に備えられていて意外に寝心地がよく、それに慣れない一日に思いの外疲れていたらしく、すぐに眠りに付いた。意識が途切れる寸前に聞こえたのは、隣のアリューの寝息だった。 #twnovels

2016-06-12 18:36:10

電力受電所

夢乃 @iamdreamers

「今日にはその電力受電所には着けるかな」 服を捲り上げて出した肌を、堅く絞ったタオルで拭き取りながらカイムは聞いた。 「そうだね。もう近くまで来ているはずだし、調子良くいけば太陽が出る前には着けるかも」 先に身を清めていたアリューは答えた。 #twnovels

2016-06-26 15:06:25
夢乃 @iamdreamers

「それにしても、小さいとはいえ洗濯槽まで載せていたとはね」 使い終わったタオルを二つの座席の間に設置されたコンパクトな洗濯槽に入れるとスイッチを入れた。 「何しろ半年以上だからね。塔まではまだいいけど、塔を昇り始めたら窓も開けられないし」 #twnovels

2016-06-26 15:07:29
夢乃 @iamdreamers

チェックしていたホロパッドから顔を上げて、アリューは言った。 「それじゃ、そろそろ行こうか。朝食は移動しながらでいいよね? 最初の運転はカイムでいい?」 「ああ、いいよ。昨日はアリューの運転で終わったしな」 そう言うとカイムはハンドルを手前に倒した。 #twnovels

2016-06-26 15:07:52
夢乃 @iamdreamers

「方角は合っているかな?」 「うん、車のセンサーが正しければ」 「誤差はどれくらい出るかな」 「これが初めてだからね。ぜんぜん解らないよ」 「頼りになるんだか頼りないんだか」 「そんなこと言ってて、車をひっくり返したりしないでよ」 #twnovels

2016-06-26 15:08:10
夢乃 @iamdreamers

そんなことを言い合いながらも、旅の二日目は順調だった。地面が比較的安定しており、昨日ほど迂回の必要なく進むことができた。 「このあたりのはずなんだけど」 アリューがそう言った時には、出発してから二時間以上が経過していただろうか。 #twnovels

2016-06-26 15:08:31
夢乃 @iamdreamers

「そうなのか? それらしいものは見えないけど。尤もこの暗闇だからな。よほど近付かないと判らないか」 「でも、近付きすぎたらそれはそれで判りにくいだろうし」 アリューはホロパッドに映し出されるデータとヘッドライトに照らされる外を見比べている。 #twnovels

2016-06-26 15:08:49
夢乃 @iamdreamers

「せめて太陽が出てくれればな。おっと」 ライトの光の輪の中に現れた岩の壁を前に、カイムはブレーキを力強く踏んだ。 「どっちに進んだ方がいいんだろ?」 「うーん、多分、左の方がいいかな」 「よし」 カイムはアリューの言葉に従って、左にハンドルを切った。 #twnovels

2016-06-26 15:09:09
夢乃 @iamdreamers

自動車の右側に見える壁は、どこまでも続いているように見えた。 「あれ? さっき左に向きを変えたから、今は東に向かってるはずよね?」 「そうだと思うけど。センサーは?」 「だんだん南向きになってる。この壁、丸くなってるのかな?」 #twnovels

2016-06-26 15:09:31
夢乃 @iamdreamers

「その、電力受電所ってどんなところにあるんだっけ?」 「えーと、父さんの記録だと、台地の上一帯を占めてるって。・・・え? もしかして?」 「何か解った?」 「もしかして、この壁の上、なのかも」 「この上? でも、登れそうなところないけど」 #twnovels

2016-06-26 15:09:51
夢乃 @iamdreamers

「えーと、父さんの記録だと、どこかに登り口みたいのがあるはずなんだけど」 「もう少し、壁に沿って進んでみるか」 「うん。ゆっくりね」 自動車はさらに壁に沿ってゆっくりと進んで行った。そのうちに徐々に周囲が明るくなってくる時分になった。 #twnovels

2016-06-26 15:10:09
夢乃 @iamdreamers

「あれ? ねぇ、あそこ」 「ああ。あそこから登れるかもな。暗かったら見落としていたかも」 そこは、自動車の向きがほぼ真南であることから考えて、恐らくこの台地の東の端に近いところだった。少し先に壁が途切れているように見えるところがある。 #twnovels

2016-06-26 15:10:27
夢乃 @iamdreamers

自動車をそこまで進めると、北向きに登っている斜面があった。 「ここかな」 「ここだな」 「道幅、足りるかな?」 「測ってみるか。寒いけど」 「あ、私、測ってくる。窓開けるね」 答えを待たずにアリューはキャノピーを開けた。道具入れからメジャーを取り出すと外に出る #twnovels

2016-06-26 15:10:50
夢乃 @iamdreamers

登り口と思しき場所に駆けてゆくアリューの後ろから、カイムはゆっくりと自動車を進め、数メートルを遺して停止した。時間が掛かるようなら俺も降りて手伝った方が良いかな? と思ったとき、アリューが立ち上がって戻ってきた。 「どうだった?」 #twnovels

2016-06-26 15:11:15
夢乃 @iamdreamers

「うん、行けそう。幅は結構余裕あった。後は、登り道が九十九折になってるはずだから、切り返しができるかどうか、ね」 「それは、行ってみないと判らないな。・・・それじゃ、行くか」 「うん、行こう!」 カイムはキャノピーを閉めると、改めてハンドルを握り直した。 #twnovels

2016-06-26 15:11:35
夢乃 @iamdreamers

自動車はカイムの運転でゆっくりと坂を登り始めた。道幅はアリューの言ったように充分にある。しかし、右側も道を隠すように岩の壁がそそり立っているので圧迫感があって、アクセルを思い切って踏み込めない。カイムは慎重に自動車を操った。 #twnovels

2016-07-10 09:52:09
夢乃 @iamdreamers

それでも、周りが明るくなってきていることもあって岩壁にぶつける心配はしなくてもよさそうだった。 「わりと緩やかだね。下から見たときはもうちょっと急な気がしたけど」 「見た目だけだよ。平地よりもかなりアクセルを踏み込んでる。サイドミラーで後ろを見てみな」 #twnovels

2016-07-10 09:53:13
夢乃 @iamdreamers

アリューは身体を動かして、今はカイムの座る右の座席に角度を調節してあるサイドミラーを覗き込んだ。 「あ、ほんとだ。後ろを見ると結構登ってるんだね」 「前だけ見てると気付かないけどな。・・・お。ここが最初の折り返しかな」 #twnovels

2016-07-10 09:53:30
夢乃 @iamdreamers

坂が少し緩やかになり、道が先で大きく左に曲がっているのが分かる。 「曲がった先の道はあそこね」 アリューが左上方を指差した。カーブした先には外側の岩壁がないようで、見上げると南に向かって登っている道を確認できた。 「そうみたいだな」 #twnovels

2016-07-10 09:53:48
夢乃 @iamdreamers

頷いて、カイムはカーブに沿ってハンドルを切った。向きを変えて登山が続く。 「今度は落ちないように気を付けないといけないな」 「危なくなったら声出すね」 「頼むよ」 二人の顔から笑みがこぼれる。 「あ」 突然の強烈な光に、アリューが声を上げた。 #twnovels

2016-07-10 09:54:10
夢乃 @iamdreamers

天井の端から、太陽が顔を出したところだった。南向きに登っている自動車から見た太陽は、いつもよりも近く、明るく感じられた。気のせいに違いないのだが。 「いいタイミングでここを見つけられたよな。この道を真っ暗闇の中を車のライトだけで登るのはきつそうだし」 #twnovels

2016-07-10 09:54:29
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