不知火に落ち度はない　46（早霜）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「八十八カ所巡りってどんだけ旅行カマしたんだよって感じなんだが」 「出雲とかにも行ってるわよー。報告きたからー」 どういうことなんそれ。 「お祓いだとかでー」 「……。おはらい？」 「ええ。お祓いですってー」 信心深いのよね、と電話口でため息。 #不知火に落ち度はない

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「で、肝心の身長とか身体データと一致しないのはなんでか教えてくれねえ？」 「それはねー。成長見込みデータを送ったからでーす」 成長見込みって、何？ 「自己申告で、これぐらい変動があるっていうことを予測して貰ってたのー」 自己申告でけえな！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「じゃああの不自然に長い写真はなんだったかっつーと」 「ええー。私が頑張ってフォトショ加工した、早霜ちゃんの成長予想後の姿よー」 堂々と公的文書で詐欺ってんじゃねえよ龍田－！？ お陰であのちまっこい座敷童っぽいの追い返すとこだったじゃねえか！！ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「と、着任時間の間違いはどうなんだよ」 「時差ボケ－？」 「あるわけねえだろそんなん！ 日本をめっちゃ巡ってたろ！」 「そうよねー。それは本人に確認して貰わないとー」 ごくごく当たり前風に言うけど、その早霜はお前ントコから来てる子なんですよ、龍田？ #不知火に落ち度はない

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「あー。オーケーわかった。早霜が縮んだ理由は大いに納得した」 「元から小さいだけよー」 思った以上にちっこかったからな。 「じゃ、あれはお前の派遣する早霜で間違いねえんだな？」 「ええそうよー。びっくりしたー？」 おう、ドッキリカメラ並にな！ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「わあった。着任手続きを早回しでやっとく」 「はいはーい。深夜にご苦労様ー」 お前ね。わかってやってるんじゃないかと本気で疑いたくなるのはやめなされ。 俺は電話を切って戻るわけだが。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そうだったんですか。……どうぞ」 「ああ。こりゃどうも、それでね──」 戻ってきた俺が見たのは、盛岡さんが早霜に酌されながら、娘トークに花を咲かせてた現場だったのでした。 酒でないのがまあ、救いだったが。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「つーわけで、ここで済まんが略式で着任おつかれさん。着任は明後日からでいいよな」 「はい……そのように伺ってます。司令官」 宿直室。荷物を畳に下ろして一息ついてる早霜が目の前に居る。 こう見るとやっぱりプチ貞子っていうより、座敷童の印象が近い。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

なお、司令室まで戻っての着任ってのが正式なんだが。 深夜だし。 今めっちゃ深夜だし。 宿直室でちゃっちゃと済ませて、寮の鍵あけて入って貰う方が良いだろうしな。 長旅してきたみたいだし、早霜。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「で、到着は今朝の予定だったみたいだけど。ホテルとまんなかったの？」 「ええ。いろいろ考えたのだけど──朝までなら大丈夫かと」 何が大丈夫なんですかね。 「それで寝袋に入ろうとしたら、守衛さんに声をかけられたのです」 野宿しようとしたのかお前！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そりゃ盛岡さん止めるわ！ 道路のど真ん中っつーか基地の真ん前で野宿って異常事態だし止めて事情聞くわ！ 寝袋完備ってことは、この早霜、全国行脚の時も程よく野宿かましまくってたってことですか？ 蓑虫みたいなものが全国各地で見られたってことですか！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あっとな。早霜、基本的に野宿はいかんことだと思うぞ」 「作戦行動中でしたので……失礼しました」 うら若い女子ってこと忘れてねえかこの子。 いや、中身は思った以上に斜め上だけどさ。 リュックの中のお土産シリーズ、基地の艦娘全員分らしいしさ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「作戦行動ってのは、あー、まあ。そういうのはあるけども。野外任務じゃないなら普通に泊まろうな」 「わかりました……次はそうしますね」 うっすら微笑む早霜が居るわけだが。 うちの連中だと即豪華ホテルに飛び込みそうなあたり、意識の差が見て取れた。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ま、いいや。ではこれからどうぞよろしくな。明日にはうちの連中に紹介して挨拶ってことにするから、今日は休め」 「了解しました、司令官……」 よし。あとはこのリュックをどう運ぶか考えねえと。 寮まで案内して、設備の説明もしなきゃだしな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それでは、お休みなさい。司令官」 「おう、お休み」 ん？ 今普通になんか話がスキップされて無かったか？ 今誰か会話のスキップボタン押した？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

見ると。 そこには。 俺の部屋の布団の横で。 寝袋に入り。 早速蓑虫と化した早霜が居たわけで。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「早霜ストーップ！！ ちょいストーップ！！ そこお前の寝る場所じゃありませんからー！！」 「あら……」 そう言えば、と気づいた顔になる早霜がいて。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「失礼しました、司令官。ここ……ですね？」 そのままころころと転がり、ちゃぶ台の下あたりにポジショニングした早霜がいる。 どうしてそういう判断に落ち着くの君！？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「そうではなく！！ あ、違う！ 土間に寝ろって意味じゃねーから！！」 「司令官──」 俺の言葉に、す、と起き上がる早霜。 どうやらわかってくれたのかな？ こっちをじっと見ながら、言葉を続ける。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「目が、回りますね」 うふ、うふふふ、と何が愉快なのか笑い出す早霜。 そりゃあんだけ転がれば回るわ！！ 三半規管かき回されっぱだわ！！ 「あ、うん。収まるまではそのままでいいから」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして、蓑虫と向き合う俺。 深夜だからか、なんだかすごい哲学的な絵面になってしまっている。 あ、どっちかっていうと、こけしにも見えてきた。 ほら、直立してるとめっちゃこけしだし、これ。 ただしこのこけし、時々無意味に笑うんだぜ。 扱いに困るわー。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして見つめ合うことしばし。 早霜は、特に何も言わず。 俺も、特に何も言わず。 そっと、早霜が目を伏せて、俺も煙草に手を伸ばす。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「すぅ……」 「いやそこで寝るんかよ！！！？」 そうして、俺は早霜を起こし寮まで運んでいくという事になったわけで。 なんとも、ネジの外れた感じの娘が来たモンだなってわけで。 これからどう付き合えばいいのか。この面白い生き物と。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そんな感じで、俺は、派遣された早霜を迎えて新たな生活を始めることにしたわけである。 今日はそんなところで、おしまいだ。 続きはまた、いつか。 じゃあ、またな。 #不知火に落ち度はない