最近ベトナム語のことが気になって、ちょっと調べている。きっかけは、古本屋で買ったコリン・ジョイス「「ニッポン社会」入門」だ。外国人による日本論は、チェンバレンやルーズ・ベネディクトの歴史もあるが、これは「英国人記者の抱腹レポート」という副題で、柔らかく読める本。
2016-06-02 22:05:43近年の日本賛美ブームで、改めて日本論が粗製乱造されたが、この本は文章と視点がユニークで、類書の中で優れていると思う。帯には「文藝春秋で塩野七生氏絶賛」とある。著者はときどき通俗的観念に反抗して、「イギリス料理はまずくない」とか、「日本語は難しくない」と書いている。
2016-06-02 22:06:20日本語は、発音や文法が楽なんだそうだ(26~27ページ)。ただし漢字は難しくて、新聞が読めるようになるまでハードルが高い。これは日本生まれ日本育ちの私もそうだ。小さいころ、漢字にルビを振っていない大人向け漫画や、ドラえもんなど一部漫画が読みづらかった。
2016-06-02 22:08:35(ドラえもんは学年誌にも連載していた。学年誌は、その学年までに習っている漢字にはカナをつけない。おそらくそれが、単行本にまで踏襲されていた。現在ではどうやら、漢字にすべてカナがついている。)
2016-06-02 22:09:26中国の文字体系・漢字は、日本語の表記に実は適していない(32~33ページ)とか、昔、高島俊夫「漢字と日本人」でも見たような議論が出てくる。同じ中国文化の強い影響を受けて、漢字文化圏だった朝鮮半島やベトナムの場合、もう漢字はすたれている。
2016-06-02 22:09:48韓国はまだ漢字の勉強もあるるようだが、北朝鮮ではハングルだけ使っている。で、ベトナムはどうかというと、フランスの植民地として支配されていた時代に、ローマ字を使ったベトナム語の表記法「クォック・グー」(「国語」という意味)が植民地総督府によって推し進められた。
2016-06-02 22:10:59そして、儒教文化から切り離された新しい世代の独立運動家たちも、クオック・グーの普及を進めた。識字率の低かった当時、漢字よりも覚えやすく、自分たちの文章が早く理解されると思ったそうだ。独立後北ベトナムはクオック・グーを公式に採用し、現在に至る。
2016-06-02 22:11:46一般的にベトナムでクオッック・グーは、覚えやすいのでベトナムの高い識字率につながった、と評価されている。一部には、ベトナム語の表記に適さず、漢字を捨て去ったのは文化的損失だった、学校教育で漢字を必修にすべき、という意見もある。
2016-06-02 22:12:32参考、今井昭夫、岩井美佐紀・編著「現代ベトナムを知るための60章 第2版」37ページ、68~69ページ。
2016-06-02 22:25:31私には是非を判断する知識などないが、日本も欧米の植民地になっていたら、漢字が廃れてローマ字にとって代わっていたかもしれない。もっとも、江戸時代末期すでに日本人の識字率は高く、それが日本の急速な近代化につながった、という分析もある。
2016-06-02 22:15:01ベトナムのクオック・グーも、朝鮮のハングルも、近代化前の識字率が低かったから、庶民に普及したという事情もあるだろう。一度文字を覚えてしまえば、別のものは覚えづらい。コリン・ジョイス氏があげる例でいえば、キーボードの配列のように、一度そうなったものは定着してしまう。
2016-06-02 22:15:39西洋文明を吸収しやすいように、漢字を廃止してローマ字表記にするという提案も何度かあったようだが、実現することなく終わったからな。漢字は、「読み」はまぁいいんだけど、書くのがめんどくさい。ダンスマンも「漢字読めるけど書けない」って歌ってる。
2016-06-02 22:21:56私は昔、新聞などで見たことなので、「日本語は覚えるのが難しい」といったら、ツイッターで「言語学的に覚えにくい、覚えやすい言語の違いはない」と指摘された。
2016-06-02 22:53:11たとえば、スペインからの分離独立運動がくすぶるバスク地方は、バスク語を操るが、「悪魔が七年間バスクにいて、やっと三つ単語を覚えたといわれるほどに難しい」(岩根「物語 スペインの歴史」)(281ページ)らしい。しかしそんなエピソードよりも、
2016-06-02 22:54:06追加
ところで、コリン・ジョイス「ニッポン社会入門」は、笑ってばかりいられない話も伝える。著者はイギリスの高級紙「デイリー・テレグラフ」の東京駐在特派員になり、日本のニュースを日々伝えようとしたが、うまくいかなかった。多くのイギリス人は日本のことをよく知らず、関心が低い。
2016-06-04 18:49:04それを反映して、政治経済の硬派なニュースは短く済まされ、日本について間違った記事も気づかれない。さらに、本社の編集が注文を付ける。日本の高齢化問題とその対処を書いた記事は、デスクの「もっと軽いトーンにしてもらえないかな」という注文から、
2016-06-04 18:49:40重要な話題についてもそうらしい。小泉前首相が、首相になったおり憲法9条の見直しに賛成だ、といったことは、「日本の新首相、交戦権を要求」という見出しになった。歴史教科書問題の原稿では、微妙なニュアンスをそぎ落とされた。
2016-06-04 18:50:30「ニッポン社会入門」の「拾四章」。
イギリスの高級紙の一角を占める「デイリー・テレグラフ」がこんな有様では、歴史問題についてイギリス人が正確に理解できることはないだろう。そもそも日本人にも、歴史問題は細かくて難しい。
2016-06-04 18:50:59