冒険者の酒場には#1 うまい話があるという◆2
_酔っ払いの軽戦士は、へらへらと笑って二人の顔を見る。順番に見る。見返すエンジェとミェルヒ。ようやく様子がおかしいことに気付いたようだ。軽戦士はバタバタと手を振って釈明する。 「わりぃわりぃ、人違いだ!」 軽戦士は言い訳めいた状況説明をする。 11
2016-07-06 19:58:53_どうやら仲介人と交渉していたところを以前見かけて、仲介人の仲間だと勘違いしたらしい。 (ということは、同じ仲介人から仕事を受けている……?) エンジェは訝しんだが、口には出さない。藪蛇な行為で危機に陥ることは少なからずある。こういう些細なことでも。 12
2016-07-06 20:04:03_軽戦士は顔を赤くして自分の席に戻っていった。その後姿を見ながら、ミェルヒが顔を寄せて囁く。 「あのひと……妙だね」 「……ん?」 二人のテーブルからは軽戦士の立ちテーブルがよく見える。エンジェは特に違和感を覚えない。 13
2016-07-06 20:08:16_ミェルヒは視線をエンジェに戻す。 「さっきから一人で飲んだり食ったりしている。連れはいないみたいだ。とても仕事をしているようには見えない。普通、暇なら求人くらい見るだろう」 「お食事なんじゃない? 美味しいし」 14
2016-07-06 20:18:17_酒場は冒険者の雇用を仲介したり、噂話の売り買いをしたりする場所だ。基本的には。だからと言って、ただのお食事がダメだというわけではない。飲食物は冒険者の支援のために普通の飲食店より安い。仕事が決まっている貧乏な冒険者なら、噂話を買うことも仕事を探すこともないだろう。 15
2016-07-06 20:24:02「誰かを待っているようにも見える……怪しい、怪しいぞ」 「ミェルヒ、ひとを疑うひとがいちばん疑われるように、ひとを怪しむひとがいちばん怪しく見えるんだよ」 「くっ……その法則は僕につらい」 錆びだらけの鎧を着ているミェルヒも怪しさでは負けていない。 16
2016-07-06 20:28:37「人間観察なんて流行らないって。やめなさい」 「思うだけなら自由さ。僕の見立てでは、店内の4グループがお食事のみだ。1人から3人のパーティまで。全席のうち6割って所か。明らかに多い」 「人間観察ミェルヒの中では大ブームでございましたか……」 17
2016-07-06 20:33:26「もちろん、僕らもその中に入っている。ワクワクするよ。僕は昔探偵になりたかったんだ。何か大きなものが動いている……大きな思惑が、この異常な状況を作り出している。バランスが悪いいびつな箱庭さ。それを僕は知りたい。箱庭が崩壊する前に……」 「無理やり壮大にしてきた」 18
2016-07-06 20:39:36_ミェルヒはビールを呷って、堅炒り豆をつまんだ。ぼりぼりかみ砕きながら牙をむいて笑う。 「謎に挑戦しようよ。もし、この『お食事組』が僕らと同じ仕事を受けていたとしたら……?」 エンジェの眉がピクリと動く。そして碧の瞳が輝いた。 19
2016-07-06 20:43:53「ま、他の話題も尽きたし……思うだけなら自由だし」 二人は肘をついて顔を近づけ、共ににやりと笑った。 「謎解き、始めちゃいますか!」 20
2016-07-06 20:51:04【用語解説】 【軽戦士】 衝撃消散の呪文によってある程度は攻撃に耐えられるとはいえ、何発も殴られたら魔法が耐え切れずに崩壊し、無防備になる。これを解決するには装備の素材を重くし強力な魔法を織り込むか、軽い素材で妥協して肉体強化の魔法で攻撃が当たらないほど俊敏にするか、である
2016-07-06 20:57:09