厨二病心くすぐる古代の天体観測器「アストロラーベ」が欲しすぎて一から作っちゃった人の奮闘記
突然だが、「アストロラーベ」というアイテムをご存じだろうか。
アストロラーベとは、真鍮などで作られた円盤型の小型天体観測機器のこと。太陽や月、星の位置観測から方位・時刻の測定などさまざまな用途を備えていて、現代で言うところの「GPS付き腕時計」のようなアイテムだった。4世紀ごろに発明され、17世紀ごろまで天文学者や占星術師の間で広く使われていたという。

このアストロラーベ、たいへん厨二心くすぐられるロマンアイテムだが、博物館や展覧会などで実物をお目にかかる機会こそあれ、普段の生活で手にする機会はほぼない(多分)。
でもカッコいいからどうしても欲しい。そんなあこがれを10年以上に渡って温め続け、ついにアストロラーベを一から作ってしまった人がいる。

Luminareo(@Luminareo_Seno)さんは、オリジナルのアストロラーベの作りに奮闘する様子をTwitterに投稿し、Togetterでまとめてくれた。その技術と熱量が凄すぎたのでご紹介したい。
14年かけて試行錯誤を続けた
Luminareoさんは最初に銀製のアストロラーベを作ろうとしたが、その難易度の高さに頓挫する。それでもアストロラーベへの想いをあきらめきれず、頓挫から9年越しの2017年に、紙製のアストロラーベを作成。
昨日いちにちアストロラーベのメモリーフを組み立ててこんな感じに出来上がった。留めているスケスケ盤と針は独立で動くのだ…へへへ。
アストロラーベを作ってみるのは夢だったから嬉しい。これは試作で背景の色を変えるつもりだけど、パーツの作画し直しはしなくて良さげでこれまた嬉しい。 https://t.co/XTYSQK3yqS
— Luminareo・瀬野ユカイ (@Luminareo_Seno) 2017年5月28日

紙版を経たのちに、一度は頓挫した金属製のアストロラーベ作りに再び着手。3Dプリンターを駆使してデータを一からデザインしながら作っていき、2018年には手のひらサイズの真鍮製アストロラーベの完成にこぎ着けた。
試作、軸のカシメがうまくいかず、泣きそうになったけど、まずはなんとかした! 明日1日つけてみて様子を見てみる。
今ちょっと別の意味で泣きそう。11年間夢見たものが手の中にあるのが嘘みたいでさ…。 https://t.co/SsBXAlmy3e
— Luminareo・瀬野ユカイ (@Luminareo_Seno) 2018年8月29日

ここまででも十分スゴいが、Luminareoさんにはさらなる野望があった。大きいサイズのアストロラーベを作ることだ。製図した設計図を金属加工業者に持ち込んで、特注で1点物の特大アストロラーベを作るという壮大な計画。
約14年間にわたって蓄積してきた知見、多大な労力と、夏のボーナスをまるっとつぎ込んだ結果、2021年9月についに大サイズのアストロラーベが完成。これこそが、Luminareoさんの夢のゴールだった。

本当にまるっとさようなら今年の夏のボーナス。そしてようこそ14年間ずっと憧れていたアストロラーベ…
— Luminareo・瀬野ユカイ (@Luminareo_Seno) 2021年7月30日
Luminareoさんがアストロラーベを作る過程の詳細については、Togetterのまとめをご覧になっていただければわかると思うが、正直内容が高度すぎて普通の人が理解するのはかなり難しいと思う。
しかし、Luminareoさんが並々ならぬ熱意と、専門家顔負けのリサーチ力・理解力をもって夢を叶えたことはひしひしと伝わってくる。制作の背景をもっと知りたくなったトゥギャッチ編集部は、Luminareoさんに詳しく話を聞いてみた。
日本向けに緯度を設定し、恒星を自分で選んだ
アストロラーベに興味を持ったきっかけを教えてください
2007年の夏におそらくネットサーフィンで出会ったはずなのですが、知ってからすぐに彫金で作成しようとして四苦八苦した挙句に轟沈した思い出の方が強烈で、具体的に何を検索していてどのようなサイトで出会ったかということはすっかり忘れてしまいました。
頓挫した銀のアストロラーベ。3Dプリンターも普及していなかったため、作ろうとすると相当な難易度だったみたい
アストロラーベに長年持ち続けた情熱の源はどこにあると思いますか
小学校に上がる前からずっと全天星図とその中の恒星の固有名への興味が強かったからだと思います。
実際の星空を見るよりは、どちらかというとフラムスチード全天図譜やヘベリウス星図、あるいは古代中国の星図といった、古い星図を眺める方が大好きな子供でした。
アストロラーベ以外にも、星座に関連するアイテムを作っている
特大アストロラーベにオリジナルポイントはありますか
現在の日本国内で使えるように緯度を設定したことと、リート※に載せる恒星を自分で選定したのがポイントです。
明るい恒星を選ぶことはもちろんですが、中世の魔術で使われた恒星や、現代でも天測航法で使われる恒星を選びました。
※リート=恒星の位置を記したプレート。星座早見表のような役割を果たす
恒星を記したリート部分
特大アストロラーベは、実際に使ってみましたか?
太古のマニュアルに書かれた持ち方に従って構えたりしています。片手で吊り下げつつもう片方の手で背面の定規を操作するのですが、この大きさだと1.2kg以上の重さがあってまだ扱いに慣れていません。
本物のアンティークのアストロラーベはもう少し小さいものが多く、それが謎というか正直なところ不満に思っていたのですが、なぜその大きさだったのか思い知りました。
これから新たに取り組んでみたいことはありますか
普段は占いのカードやそれに関連したアイテムを作っています。カード占いといえばタロットが有名ですが、それ以外のマイナーなカード占いを知ったら、そのカードを自分で作ったり解説をまとめたくなることが多いです。
天文関係ではプラハの天文時計に興味があります。あの天文時計を作りたいわけではありませんが、ちゃんとした読み方を整理したいと思っています。
特大アストロラーベは、残念ながらコストの関係で量産できないそうだが、ペンダントサイズのアストロラーベは、一般向けに販売されている。小型の分目盛りなどは簡略化されているものの、こちらも実際に使えるように設計されており、日出と日没の時刻を算出できるそうだ。
2021年10月現在は品切れ中となっているが、近日中に再販予定とのこと。

Luminareoさんのパッションあふれる天文学・占いの世界に興味を持った方は、ぜひ一度TwitterアカウントやWebサイトをのぞいてみては。