#ダークエルフ王国見聞録　その４ ～ゴブリン退治～

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「学士殿、邪魔である。こちらまで下がるとよい」と将に怒鳴られる。 恐怖で足がすくんでいる私を馴染みの恐狼が、彼らにしては丁重なやり方で後方へと引きずってくれる。引きずられながら、横にいたダークエルフの女戦士たちの表情を見やる。 #ダークエルフ王国見聞録

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「いよいよ、堪えが効かずに打って出るか！強き戦士がおればよいのだが！」 「ゴブリン程度で残念ですが、わたくしの武功がまた増えますわ！」 そう語り、愛用の得物を構える銀髪の女戦士と黒髪の女剣士は共に瞳をぎらつかせ、美しい顔に凶暴な笑みを浮かべていた #ダークエルフ王国見聞録

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～つづく 次回、ゴブリン決死の反撃！

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不気味な戦太鼓の音が終に入口付近に至り、大盾を構えたゴブリンが現れると共にその体ごと茨だらけの矢来に体当たりを加える。槍柄を束ね先端に鉄兜を結わえた道具を破壊槌のように数匹で抱えて茨だらけの矢来に繰り返し勢いよく叩きつける小鬼達の姿も遠眼鏡で確認できる。 #ダークエルフ王国見聞録

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矢来を無理やりに或いは押し倒し或いは破り、ゴブリンの戦士達が入り口から飛び出してくる。 「一の弓放て！」 横殴りの矢雨に先頭集団が倒れ伏しながら炭に水瓶を叩き付け、まずは火を消しに来た。 同胞の死体を踏み越え、血走った眼のゴブリンの一団が続く #ダークエルフ王国見聞録

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「二の矢放て！魔道兵ぼやぼやするな！」 ある者は火球に包まれ、ある者は矢に貫かれながら果敢に礫や松明を投げつけ、その身を後続の肉盾とする。戦太鼓の音に狂乱した雄叫びを上げながら続々と洞窟から飛び出るゴブリンの一団は、もはや矢で止まらぬ勢いになっていた。 #ダークエルフ王国見聞録

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「各個に放て！白兵用意！」 少々の焦りを滲ませる将の下知に、弓隊は熟練の射手以外は弓をおろし長刀や槍に持ち変える。手ぐすねを引いて待ち受けていた戦士達が前に飛び出し、白兵戦が始まった。ダークエルフの振るう剣や長柄が、押し寄せる小鬼を切り伏せていく。 #ダークエルフ王国見聞録

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小鬼達は手にした雑多な武器を手当たり次第に振り回し、突き出す。血走った眼は興奮によるものだけではなく、洞窟に流し込まれた赤黒い煙の毒にやられ、視界が定まっていないのであろう。唸り声の合間にヒューヒューと苦しげなこちらまで響き渡る。 #ダークエルフ王国見聞録

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更には、錫杖を構え、肌の呪印を淡く光らせながら詠唱する魔道兵達が、敵味方入り混じる中でも正確に火球をゴブリン達に当て、焼死体へと変えていく。ゴブリン達が決死の突撃をかけたとはいえ、未だ形勢はダークエルフ側の圧倒的優位が保たれていた。 #ダークエルフ王国見聞録

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しかし、ひしゃげた金属の鎧と兜を身に着けた特に大柄のゴブリンと戦太鼓の打ち手達、そして土笛のようなものを持った小鬼が洞窟から現れると状況に変化が訪れた。小鬼がその土笛を吹くと、魔道兵達は顔をしかめ、呪文の詠唱が止まる。 #ダークエルフ王国見聞録

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「くっ、この程度、耐えて魔術を撃てぬのか！？」 「・・・この乱戦、味方に当てぬように調律するのには十分な集中がいる！素人は黙って頂きたい」 将の叱責に魔道兵の長がいまいましげに反論する。魔道兵と同じく狙い撃ちに集中を必要とする弓兵達も手を止めている。 #ダークエルフ王国見聞録

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あの土笛はおそらく“エルフの術封じ”と呼ばれる道具であろう。人間の私には聞こえない波長の音を出し、聴覚に優れたエルフ系種族の集中力を大きく乱す道具である。白兵戦で興奮状況下にある戦士達には効果が薄いようだが、特に術の詠唱には大きく影響するものだ #ダークエルフ王国見聞録

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更にはこれに呼応するかの様に、洞窟の入り口がある崖の中腹に突如穴が開き、中に籠っていた煙が噴き出す。そこから盾持ちの小鬼に守られながら、小鬼の弓使いや礫撃ちが現れる。彼らも目をやられ狙いは不正確だが、高所の利を生かしてこちらの後衛を狙ってくる #ダークエルフ王国見聞録

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新たに掘り抜かれた入り口からの射られた矢が一人の弓使いの腕をかすめる。小さな傷であったが彼女の顔をみるみる青ざめ、倒れ伏す。なにかしらの毒が塗ってあるのか。一匹の恐狼が彼女の着衣を引きずって後ろに下げ、薬師達が解毒の丸薬を飲ませて治療を始める。 #ダークエルフ王国見聞録

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また、ひしゃげているが頑丈そうで意匠も優れた鎧兜を装備した大柄のゴブリンが瀕死で倒れ掛かる小鬼を払い飛ばしながら雄叫びを上げ、猛然と駆け出してくる。こちらの射撃を封じた上で、高所からの射撃を開始し、突破力のある戦士で戦局を打開する三段構えの戦術であった。 #ダークエルフ王国見聞録

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右腕に戦斧を掲げ、左腕の盾を構えながら突進する鎧兜の小鬼の前に、長刀を持った銀髪の女戦士が立ち塞がる。 「大将首と見た！こいつは私の獲物だぞ！」 脇から駆け寄る小鬼の喉笛を冷静に長刀で切り裂きつつ、彼女はそう宣言した #ダークエルフ王国見聞録

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「ええい、小鬼風情が！我が氏族の面目を保て！」 指揮を執る将も集中力が乱され冷静さを欠きつつある。私は、同じく戦況を眺めている恐狼を見やる。どうも鳥獣にもあの土笛の効果はないようだ。“面倒なことになったな”としかめ面に書いてある同里の女獣使いに駆け寄る。　#ダークエルフ王国見聞録

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上空に飛ばしている猛禽達を使ってあの土笛の吹き手を何とかできないのか彼女に提案してみる。 「なるほど、センセイ、それは妙案ですね！」 獣使いは鳥寄せを吹いて犬鷲と白隼を呼び戻し、次いで土笛を吹き続けている小鬼を指さして二羽を解き放つ #ダークエルフ王国見聞録

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二羽はダークエルフ達とゴブリン達が入り混じる刃の林を飛び越え、窟口横で土笛を吹くゴブリンに襲い掛かる。鋭い爪と嘴がその目や指先を狙って突きまわり、溜らずに悲鳴を上げ、手をばたつかせる小鬼は土笛を誤って地面へと落とす。この瞬間を見逃さない将ではなかった #ダークエルフ王国見聞録

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「今だ、彼奴を射殺せ！」 集中を取り戻した熟練の射手達が怒りの籠った矢を幾重にも放つ。猛禽達は上空に飛び戻り、笛吹きの小鬼は何本もの矢に射抜かれ倒れ伏す。また、崖の中腹から射撃していた小鬼達も魔道兵の放つ火球によって黒焦げとなり、次々と崖下に落ちていく #ダークエルフ王国見聞録

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最後に残った小鬼の弓兵が焼死体となり、崖下に落ちてその体を細片へ砕かれた瞬間と、鎧装束のゴブリンの戦士が、足元に低く飛び込んだダークエルフの戦士の長刀を鎧の隙間から喉に突き刺さされ、鮮血を吹き出しながら前に倒れこんだ瞬間は奇しくも同じであった #ダークエルフ王国見聞録

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数で押す相手を処理しきれぬ戦士達の脇をすり抜け、弓兵達を守る槍衾の近くまで一部の兵が突き進んだ小鬼達であったが、戦術の要を全て失い、為す術ももなく、或いは切り裂かれ、或いは貫かれ、或いは燃やされ死んでいく。背を向けて逃げようとする小鬼に恐狼達が食らいつく #ダークエルフ王国見聞録

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広間に打ち出でた小鬼達が全て駆逐された。おそらく洞窟の中にはもう戦力は残っていないのであろう。将により先程と打って変わって静寂が支配する洞窟を捜索する部隊が編成される。 「魔道兵長殿、先程の失態を返上する機会であるぞ」 「・・・まぁ、よかろう。任されよ」 #ダークエルフ王国見聞録

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ダークエルフの霊光を多数周囲に浮かばせる捜索隊は、魔法兵の長と護衛の戦士数名、そして北の里の獣使いから成っていた。獣使いの女性は肩や腰から紙で封をした竹筒を多数ぶら下げている。 「学士殿に中の物品を検分させるが、捜索を終えてからだ」将が告げる #ダークエルフ王国見聞録

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捜索隊が洞窟内に入ってしばらくすると何かの記号が書かれた緑の色紙を足でつかんだ蝙蝠が穴から出てくる。将の近習がその色紙を脚から取り、蝙蝠を洞窟へと戻して羊皮紙に記録を取る。また時間が経つと、色紙を持った蝙蝠が舞い出てきて、近習は同じことを繰り返す #ダークエルフ王国見聞録