編集部イチオシ

小野小町と在原業平、『サプリ』と『働きマン』

一カ月くらい前にはたと思いついて、しばらくぼんやり考えていたことを整理したくて、ざざっと呟いてみたことをまとめておきます。あとで見返す用。
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ふと思いついた『サプリ』と『働きマン』のこと

たられば @tarareba722

駅からの帰り道にてくてく歩いてて突然閃いた。同じ「若い女子が葛藤を抱えつつ仕事に全力を尽くす作品」であっても、『サプリ』(おかざき真里著)は小野小町的で、『働きマン』(安野モヨコ著)は在原業平的なんだ。世界に振り回される物語で戦う人と、世界を振り回す物語で戦う人なんだな。

2016-10-29 23:00:36

そしてふと思いついた小野小町のこと

たられば @tarareba722

そのうち書きますが、小野小町って、出自不明生没年不詳なんですね。ただ生み出した作品によってのみ、その人生が想像されている。これはあらゆる表現者が一度は夢見る理想形です。作品によって、ただ生み出した作品のその先にだけ、おぼろげに作者が浮かび上がる。小野小町はそういう作家なのです。

2016-11-25 23:57:43

もうあれこれ考えるより呟いちゃったほうが早いなと思って考えてることをザッと呟いてみました

たられば @tarareba722

ちょっと思い立ったので、このツイートの続きをつらつらと呟きます。やや長めなのでうっとおしい方はリムーブかミュートしてください。全部で12ツイートくらいかな。それに伴い、内容がかぶる前出ツイートを一つ削除します。ではつらつらと。 twitter.com/tarareba722/st…

2016-11-26 23:47:03
たられば @tarareba722

先日途中まで書いた小野小町の話、少し時間があるので続きを呟いてみます。 繊細で雅で観察力に優れた小野小町の歌風は「女流歌人のあり方」を確立し、後世の清少納言、紫式部、和泉式部らのいわゆる女房文学に絶大な影響を与えました。また後年には紀貫之、藤原定家、世阿弥らの絶賛を受け、

2016-11-26 23:48:26
たられば @tarareba722

恋歌での「夢」を表現手段として本格的に進化させた立役者でもありました。その手法は漱石の『夢十夜』や三島の『豊饒の海』など和製幻想作品に受け継がれ、近年では映画『君の名は。』で新海監督が小町からの着想を語ってます。恋する乙女心が夢見るオッサンと魔結合したわけですな。なんてことを。

2016-11-26 23:49:34
たられば @tarareba722

そんな小野小町の代表作といえば、やっぱり小倉百人一首の九番、「花の色は うつりにけりないたずらに わが身世にふるながめせしまに(桜の色は、長雨に見とれているうちに時間がたって、気づけば色褪せてしまいましたね。こうしてそれを眺めているわたしのように…)」ですよね。いやー美しい。

2016-11-26 23:51:02
たられば @tarareba722

藤原定家が「古今第一の歌」と語った、平安前期を代表する名歌です。美しい情景描写と季節の移り変わりに(特に女性の)人生の切なさを重ね、「世に経る=降る」「眺め=長雨」と要所に掛詞を使って技巧も凝らしています。この一首、優れた歌の証明として多くの一流歌人から本歌取りを受けており、

2016-11-26 23:52:19
たられば @tarareba722

紫式部、後鳥羽院、藤原定家&為家親子などが類歌を詠んでます。 ただこの歌をなにかと比較して鑑賞するなら、私は別の歌がふさわしいと思うんですね。前述のような後世の一流歌人(紫式部は小町の約150年後、後鳥羽院や定家は350年後に活躍)ではなく、小町と同時代の作品がいいと思うのです。

2016-11-26 23:53:18
たられば @tarareba722

以前も書きましたが、和歌はその作品単体で鑑賞してももちろん楽しいし美しいんですが、別の作品と比較して、類似点や相違点に注目するとその一首をいっそう深く味わえることがあります。白の横に黒を置くと、白の白さがより際立つのと似た感じです。では小野小町とその傑作は、誰とどう比較すべきか。

2016-11-26 23:54:19
たられば @tarareba722

私は「月やあらぬ 春や昔の春ならむ わが身ひとつは元の身なれど(あの月は昔のままの月だろうか、香り立つ春はかつての春と同じなのか。何より私は以前の私と同じで、こうして君を想っているのに)」(解釈は複数説あり)がふさわしいと思うのです。古今集や伊勢物語に採られた在原業平の歌ですね。

2016-11-26 23:56:55
たられば @tarareba722

「小町」と言えば美人の代名詞であったように、「業平」といえば美男子の代名詞でした。「昔男」といえば業平を指し、「今業平」といえば「現代の美男子」を指すってどんだけイケメンなの。俵屋宗達や尾形光琳の作風に影響を与えたと言われ、白洲正子氏は「日本の美の創始者の一人」とまで書いてます。

2016-11-26 23:58:01
たられば @tarareba722

その小野小町と在原業平が、前出2首でともに「変化」について歌っています。 ただし小町は「変わりゆく季節、変わりゆく自分、変わりゆく気持ち」の切なさを歌い、業平は「変わらない自然、変わらない自分、変わってしまった君」のつらさを歌っています。この2首、同時代に詠まれてるんですな。

2016-11-27 00:00:44
たられば @tarareba722

この2首は、小町と業平それぞれの作風の違いを代表していて、それは現代風にいえば「少女マンガ的=世界が変わり相手が変わり、自分も変わる=小野小町的」か「少年マンガ的=世界も自分も変わらないが、相手は変わる=在原業平的」の違いと言えるんですよね(やや強引な解釈なのは承知してます)。

2016-11-27 00:01:54
たられば @tarareba722

こうした違いは、例えば同じメディアの最前線で激務に励む女性が主人公でありながら、作風が大きく違う『サプリ』(おかざき真里著)は小野小町的な作品であり、『働きマン』(安野モヨコ著)が在原業平的な作品と言えるような、そういう「世界へのアプローチと解釈」の違いにあるように思うのです。

2016-11-27 00:03:02
たられば @tarareba722

自然も世の中も、相手の気持ちも変わってゆく。そうした事態に自分はどんな態度で臨むのか。もちろんそれは千差万別ではあるけれど、優れた作品は時代を超えてある種の王道的な態度を照らすのだなと、小野小町とおかざき真里先生、在原業平と安野モヨコ先生の作品を読みながら思うのであります。(了

2016-11-27 00:04:11

以下参考文献など

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