高関健氏によるマーラー《夜の歌》の資料評価

札響正指揮者、高関健氏によるマーラーの交響曲第7番《夜の歌》の資料評価連続ツイートです。
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高関 健 @KenTakaseki

GM7について、これまでも折に触れて呟いてきたが、ここ1年で2回の演奏を経て、作品に対する自分のスタンスもようやく固まりつつある。周辺の資料を調べることも大いに役に立った。これまで呟いたことと重複するが、3回目の演奏を控え、考えてきたことをまとめておく。まずは資料評価について。

2011-02-27 11:12:49
高関 健 @KenTakaseki

2)GMの作品では変化に富んだ表情や舞曲に基づく独特のリズムなど、アイディアが多様で、作曲者自身が記譜にかなり苦心したようだ。有能な指揮者でもあったので、イメージの正確さと記譜とのギャップに満足できなかったことが大きな理由であろう。草稿と初版を見比べるとその変化に驚かされる。

2011-02-27 11:13:04
高関 健 @KenTakaseki

3)第7交響曲でもスケッチから清書原稿、ゲラ刷り、初版、自作自演(全部で5回)に際し、自分のイメージを正確に定着させるために、改訂を加えていった。準備段階はもちろん、練習の途中でも改善の余地があれば、その場で直接オケに指示を出すことも多かった。

2011-02-27 11:13:18
高関 健 @KenTakaseki

4)演奏に使われたGM所有のスコアにはこのようにたくさんの変更が書き込まれているはずである(詳細後述)。しかし練習時は煩雑を極め、限られた時間の中で変更をすべて記録することができず、楽員によってメモされたパート譜のみに残されることもあった。

2011-02-27 11:13:30
高関 健 @KenTakaseki

5)プラハ初演では、12日間にわたる練習の間、GMは寝食も忘れてパート譜に直接改訂を加えていた(Klempererによれば「私がお手伝いを申し出ても丁寧に断られた。」)という複数の報告がある。このパート譜は初版以前の手書きのものであったことも判明している。

2011-02-27 11:13:40
高関 健 @KenTakaseki

6)その後4回の自作自演(ミュンヘン、オランダ)でもこのパート譜が引き続き使われた可能性が大きい、と新批判全集版(NKG)の編集者Kubik博士は校訂報告で述べている。これはGMの書簡などから証明される。(De la Grangeの評伝にも同様の記述あり。)

2011-02-27 11:13:51
高関 健 @KenTakaseki

7)GM7の場合、残念なことにGM所有の初版スコア(M-DP)が現在行方不明。また自作自演に使われた手書きのパート譜(楽員による書き込み多数)とオーケストレーションを決定した下書き原稿のうち、第2楽章以降がおそらく第2次世界大戦の戦禍により紛失している。

2011-02-27 11:14:05
高関 健 @KenTakaseki

8)M-DPには改訂が綿密に記入されていたはずである。したがって、この3点の損失は非常に大きい。また第7交響曲を最初に引き受けた出版社が倒産(?)してしまい、途中で現在のB&B社に出版が引き継がれた、という不幸な事情も絡み、他にも大切な資料が失われてしまった公算が高い。

2011-02-27 11:14:14
高関 健 @KenTakaseki

9)出版社がGMの作品に対して理解が足らず、初版スコアは膨大な誤植を含む。現在入手できるDover社による複製は初版と同一である。GMの指摘を受け、あわてて「訂正と改善」リストを印刷してスコアに挟み込む一幕も。その後、演奏用のパート譜も出版された。

2011-02-27 11:14:28
高関 健 @KenTakaseki

10)しかし作品への理解が深まらず、演奏の機会も増えないので、出版社は改訂版の出版に積極的ではなかった。大型スコア(レンタル)も一部が「訂正と改善」リストを反映して訂正が書き込まれたのみである。NYPhのHPから公開されているLB書き込みのスコアは当時の出版社の姿勢を良く示す。

2011-02-27 11:14:40
高関 健 @KenTakaseki

11)1960年のRatz校訂版はこれまでの状況を一変させる画期的なものである。初版と見比べれば、その違いは明らかであり、これを機会に演奏する(できる)機会が大幅に増えた。Ratz版を基に新たな資料評価と検証を加えたのが、間もなく出版されるKubik新校訂版(NKG)である。

2011-02-27 11:14:52
高関 健 @KenTakaseki

12)最も重要な資料3点が失われた中での編集作業は困難であったようだが、その周辺に残された資料の検証を積み重ねることで、かなり多くの事が判明した。また、初演当時の改訂の諸段階においてもミスが重なって、結果としてスコアには膨大な錯誤や不統一が残っていたことも明らかになった。

2011-02-27 11:15:02
高関 健 @KenTakaseki

13)初版スコアは当然のことながら、出版まで作曲者の改訂の大部分を含む。続いて製版のための写譜師による版下にGM直接の書込みが多数残る。自筆の完成原稿との比較により、改訂の段階をある程度推定することができる。GM7においては、以上3点が最重要資料である。

2011-02-27 11:15:14
高関 健 @KenTakaseki

14)現存する周辺資料の中で、Kubik博士が最も重要視するのがWillem Mengelberg所有のスコア(WM-DP)。WMは早くからGMの卓越した指揮と作品の先進性に気づき、頻繁にコンセルトヘボウの指揮台に招いた。そして自ら献身的に事前の練習を行っている。

2011-02-27 11:15:24
高関 健 @KenTakaseki

15)WMはGMの練習にもすべて立ち会って自分のスコアに作曲者のオーケストラへの指示を細かくメモに残した。NKGではそのうち重要な部分が校訂報告に掲載されている。私はこれまでに第4交響曲のWM-DPの記載を一部読んだことがあるが、演奏家側からの実際的なメモは非常に明快である。

2011-02-27 11:15:37
高関 健 @KenTakaseki

16)Kubik博士校訂によるGM7/NKGはRatz版に比較しても、非常に多くの改訂と更新を含む。校訂報告も充実して検証も綿密だ。現状では作品に対するGMの意図を最も反映した出版になったと評価する。改訂の実際と札響との演奏についての私の姿勢についてはまとまった段階で再び呟く。

2011-02-27 11:15:59
高関 健 @KenTakaseki

追記:幸いなことにMengelbergの残した録音の中にGM4全曲(1939年11月)がある。録音の状態も良い。WM-DPの書込みを参照しながら聴いていくと実に面白い。GMとWMの演奏家としての資質に近いものが感じられ(僭越ながら…)、二人の相性が良かったことも容易に想像できる。

2011-02-27 12:11:06

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