【書きかけ】セイバー提督と神通さん【完結編】

約束の場所へ ※途中一部、ツイートの落丁等がありますが、全て書き終えたら補填します ごめんなさい
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深海さかな @dzurablk_kai

その黒い機体はただ一機、孤独に眼下の海を見下ろしていた 海といっても水面は少なく、視界の端に直線的に型取られ僅かしか覗いていない 視野の大半は朝靄が白く立ち込めた雲海である 所々にコンビナート施設の鉄塔やパイプの束が見える様は、さながら枯山水のようだ #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:01:40
深海さかな @dzurablk_kai

乳白色の海に沈んだコンクリートと鉄の水面に、動く物はない 時折、煙突の頂上に揺らぐ火炎が風に渦を巻いた朝霞の合間に覗くのみだ それはさながら、海の底のごとき眺めであった マリンスノーのみが降りしきる、光も届かぬ死んだ世界 #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:05:19
深海さかな @dzurablk_kai

音も、光も、その存在を霞の彼方へ追いやってしまう、時間や自己の概念すら失いそうな白の世界 その中でただ1つ、自己主張をするのが黒い機体だった 何物にも染まらぬ漆黒の上半身と、自ら光を放たんとする金色に輝く脚部パーツ #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:12:30
深海さかな @dzurablk_kai

ナクシャトラ社の開発した中重量機体ディスカスは時折頭だけで辺りを見回し警戒する他は、円形に縁取られた装甲板を海風に撫でられ洗われるのみで、円筒形のガスタンクの上に立ち尽くしていた 無彩色の景色の中で唯一存在を主張するその姿は、名前通り熱帯魚のようである #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:22:14
深海さかな @dzurablk_kai

機体のコックピットに座るのは、かつて神通と呼ばれていた人間だった だがその額には艦娘の頃とは異なり、ケーブルで機体へと繋がった、仮面を思わせる巨大なバイザーがある 暖房も切られ底冷えする鋼鉄の檻の中で彼女は無感情に、眼前に広がる港湾地帯の哨戒を続ける #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:29:27
深海さかな @dzurablk_kai

もう何度目になるかもわからぬ目視哨戒の時だった 彼女は機体の左肩に、1羽のカモメが羽を休める姿を機体のカメラを通じて見つけた カモメは凍えているのか、或いは眠っているのか、白い世界に溶け込むように身体を縮こませながら風に耐えている #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:32:11
深海さかな @dzurablk_kai

頭部を何度か左右させ、ほんの少しだけサーボモーターの唸りを上げてみる カモメは動こうとはしない ややあって浚巡の後に、機体の右腕部だけに動力を入れ、その細く尖ったくちばしへと触れてみる するとカモメは驚いたように閉じていた目を開けて、黒い瞳で此方を見た #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:35:51
深海さかな @dzurablk_kai

漆の椀を覗いたような、底の見えない瞳の奥は、何を思うのかそれでも逃げようとはしない それはまるで、自らが危害を加えられることはない、と確信しているかのような態度であった その時、バイザーの耳元で耳障りな空電が鳴る #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:38:04
深海さかな @dzurablk_kai

『XA26483号、機体が起動している 何事か』 無線の彼方からの、機械質なノイズの混じった無表情で冷淡な声 似たような声音で彼女も答えた 「何事でもない、動作確認である」 湿度の不足した機内にあっては、喉がしわがれ自ずと機械質な声になる #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:40:31
深海さかな @dzurablk_kai

ちらと視界の左端にカモメを見やると、先程までまどろんでいた鳥は何かを恐れるかのように、しきりに辺りを見回していた 『許可のない行動は厳罰に値するぞ もう二度とするな』 「了解」 命令の意味内容以外を徹底的に排除した、無機質な通信は乱暴に切られてしまった #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:43:39
深海さかな @dzurablk_kai

通信を終えると不思議なことに、カモメは再度平静を取り戻し毛羽だった羽を流線型に整えた 「驚かせてごめんなさい・・・」 なぜそんな言葉が口をついたのかは自分でもわからない だが無線に怯えているように見えたカモメには、何故か謝らなければならない気がした #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:48:34
深海さかな @dzurablk_kai

無線以外で言葉を発したのは、一体いつ以来のことだろう 少なく見積もってもここ数ヶ月、そんな機会は訪れなかった なぜなら、気が付いた時にはこの機体に乗り、戦場を駆け巡っていたのだから 傭兵が乗るブラストを多数撃破し、深海棲艦と共に侵攻を繰り返すだけの日々 #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:51:26
深海さかな @dzurablk_kai

それより以前の記憶は彼女には残されていなかった どうやってこの機体の扱いを訓練されたのか、なぜ自分が戦っているのか それよりもっと前、どんな人と触れあってきたのか、どこに住み何をしてきたのか それら全て、人間らしさの全てが今の自分には感じられない #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:53:25
深海さかな @dzurablk_kai

唯一残っている記憶と言えば、「神通」という名前だけである だが、恐らくは自らの名前を指すのであろうその単語にも、実感や懐かしみは微塵も湧くことはなく、そのことに対する違和感もまた感じることはない そうして彼女はただ1人、孤独に戦いを重ねてきたのだった #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:57:28
深海さかな @dzurablk_kai

しかし時たま、極々希にではあるが、彼女は違和感を感じることがあった それは自身の存在にではなく、今の乗機に対してである ディスカスは確かに優れた性能を誇る機体であり、背中に背負う重火力兵装の火力と相まって、敵ブラストに負けたことは一度もない #私の彼はブラストランナー

2016-12-07 23:59:41
深海さかな @dzurablk_kai

であるにも関わらず、なぜか彼女は時折思い出したように、今ある記憶の最初の地点から乗り続けてきたこの機体が、本来乗るべき物では無いように感じていた この違和感を抱くようになったのは他でもない、前回この産業港へ侵攻してきた時である #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:02:10
深海さかな @dzurablk_kai

幾多の作戦から帰還する度に、数えきれないほど繰り返されてきたコンデショニングと呼ばれる記憶の完全消去 それらを経てもなお脳内に強く焼き付けられた、満身創痍の軽量機体、それだけはどうしても忘れることができなかった #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:06:55
深海さかな @dzurablk_kai

自機と同じ黒い塗装に、ニュードを思わせる翡翠のライン 独特の騒がしい歩行音と、アサルトチャージャーが炊かれた際にブースターが奏でた甲高い排気音 バリアユニットに突き刺さるライフル弾と、コックピットを掠めるスピアの衝撃 #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:09:25
深海さかな @dzurablk_kai

中でも一際印象強く瞼に焼き付いている光景は、その機体の目であった 敵機のスピアがディスカスの胸部を穿ち緊急ハッチが火薬で弾け飛んだ後、視野一杯に飛び込んだガラス張りの華奢なカメラアイ 本来ブラストのコックピットでは、敵味方識別装置が敵機を赤く表示する #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:13:04
深海さかな @dzurablk_kai

敵機に重なるコンテナマークに、四肢のあちこちに輝く編隊灯、そして頭部パーツのメインカメラも例に漏れず紅く輝くはずである だが、その機体だけは違った バイザー越しとはいえ初めて肉眼で目にした敵の軽量機体は、味方と同じライトブルーの光を身に纏っていた #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:15:17
深海さかな @dzurablk_kai

どこか懐かしさを覚えるその敵機は、随所のボルトや装甲板を惨めに脱落させながら、尚も微笑みかけるかのように、青い光を明滅させていた その光景だけは何度忘れようと努めても、記憶の中に存在し続け その機体を思うだけで、不思議と胸が締め付けられた #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:19:00
深海さかな @dzurablk_kai

そんな思いを抱え続けた彼女が、この産業港への配属を志願したのも半ば当然の成り行きだったと言える 彼女はもう一度この戦場へ来れば、あの機体と出会うことができ、とどめを刺し損ねた敵機もろとも違和感も払拭することができる そう考えたのだ #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:37:15
深海さかな @dzurablk_kai

その時であった 機体のマイクが霧の彼方の、微かな音色が嗅ぎ付けた それは幾度も耳にしてきた目障りな傭兵の輸送ヘリのローター音 時を同じくして耳元の無線からも、新たな命令が届いてきた #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:39:24
深海さかな @dzurablk_kai

『戦域各機に告ぐ、未確認機の侵入を捉えた 全ての現作戦を中止、即応迎撃体制を取れ』 やはり今の音は敵だったらしい 間もなく鉄火場と化すであろうコンビナート地帯が俄にざわめく様を尻目に、彼女はまた機体の左肩へ目をやる しっかと目を開けたカモメと目が合う #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:44:12
深海さかな @dzurablk_kai

『XA26483号、復唱はどうした!?』 無線の催促に我に帰る 「・・・XA26483、起動する 爾後はコードネームとして、アイビスを使用 作戦許可を確認、指揮を申し受ける」 『確認した、直ちに敵を撃滅せよ』 「了解」 #私の彼はブラストランナー

2016-12-08 00:48:01
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