rsbs日誌#46

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　如月は、なんとなしに士官室に飾られていた物や写真を眺めた。飾られている古いライフルや拳銃は手入れが入れられていて、まるで日常的に使われて居るかの様に思われたし、額縁に収められた写真は酷く活き活きとして動いていた。まるでその情景、その世界を切り取ったかの様に…

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#rsbs日誌　「では、お話を伺おうかい？」胡乱な声が、如月を現実に引き戻した。彼女の目の前にそっと珈琲、そしてミルクと砂糖のポットが置かれる。如月はゆっくりと一口、そのままの味を楽しんでから…ミルクと角砂糖を一つ入れた。とても好みの味になった。心がホッとする、暖かい味に…

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#rsbs日誌　「美味しいかね…？」「えぇ…とっても。何だか…まるで春の日向で日光浴をしている様な…」「そうか。それは良かった…」微笑み、提督もまた静かに珈琲を啜った。たっぷりのミルクを注いだ珈琲を…「…あの、信じて貰えないかもしれませんけれど…」如月はおずおずと切り出した。

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#rsbs日誌　「なんぞ、鯨が海面で逆立ちでもしていたかね？」「そうでなくって…！　…私達は、深海棲艦の潜水艦狩りをしていました。何隻か倒した後の事…突然、海の向こうに恐ろしく黒い積乱雲が広がってて…その下には、大津波が立っていて…私達目掛けて、やってきたんです。凄い速さで…」

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#rsbs日誌　如月は語りながら、そして思い出す。あの荒れた海での事を。波に弄ばれ、転覆した姉妹達と、頼れる先輩の長良。果たして彼女達は大丈夫なのだろうかと。不安が再び、心に広がっていく。まるで水面を揺らす波紋の様に…「ふむ…妙な黒雲に、大津波か…」如月は静かに頷き返した。

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#rsbs日誌　「時にその黒雲と大津波が出たのは、数日前の事かね？」提督が問うた日付は正に、如月が対潜哨戒任務に出ていた日の事であった。「はい！　その日に私達は…！」「……胡散臭いニオイがプンプンして来おったな」提督はシリアスに呟き、何かを思案するかの様に手を頤に当てた。

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#rsbs日誌　「…あの。それで…私達はその大津波に飲まれちゃって…気が付いた時には皆と散り散りに…そして私は、あの無人島に漂着していました」「…艦娘を飲み込む程の大津波…そんな物、早々簡単に出る訳では無いのだが…ともあれ、話してくれてありがたう。貴重な情報になった」

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#rsbs日誌　「いえ、そんな！　それと…貴重な情報…？」如月の疑問に、提督は静かに頷いた。「うむ…どうにも他所の鎮守府とかでも色々と被害を受けたやら、目撃したやらと言う話を聞いてな…個人的に調べておるのだよ。深海棲艦の新しい作戦か兵器か…そう言うので無ければいいのだが…」

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#rsbs日誌　苦笑交じりに呟いた提督に、如月は「それは困ったものですね」と同情の言葉を漏らした。艦娘は、目の前の戦場を戦い抜けば良い。特に、如月の所属しているこじんまりとした鎮守府…いや、小さな泊地では、毎日コツコツと小さな任務をこなし続けるのがとても大切な仕事であるから。

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#rsbs日誌　然し、提督は違う。深海棲艦との戦略を考えねば為らない。時には鎮守府や泊地の周囲の人々の生活や命を預かる事になるのだ。その苦労は…日々せっせと海に出てサラリーを稼ぐ如月にとって遠い世界の様に思えた。きっと自分の泊地の提督も、色々と悩みを抱えているのだろう…と。

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#rsbs日誌　「さてまぁ。お話も聞けた事だ。お前さんの家…もとい、鎮守府にまで送ってゆこう」「何から何まで…お世話になります」如月は何度目か判らない感謝の会釈を深々と返した。「艤装もガタガタの娘っ子を拾って、捨て置くなんて目覚めの悪い事は出来んよ。お前さんの所属は…？」

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#rsbs日誌　「はい。Ｆ５１２Ｗ鎮守府です。鎮守府とは名ばかりの小さな泊地ですけれども…」と如月は小さく自虐した。きっと、他所の大きな鎮守府と比べれば己の所属する鎮守府は掘っ立て小屋に等しいのだろう。だが…それでも愛しい我が家なのだ。艦娘の自分にとっての。大事な我が家なのだ。

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#rsbs日誌　「良し。無電を打ってお前さんの無事を鎮守府に伝えよう。願わくばお前さんと逸れた他の少女達も探してやりたい所だが…生憎、偵察機を飛ばせども、無線機に齧り付いても、其れらしい姿が見つけられん…すまんな。力に成れんで」比良坂はそう呟くと、申し訳無さそうに頭を下げた。

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#rsbs日誌　「そんな…お構いなく…きっと他の皆も…生きているでしょうから」如月は気丈にもそう答えたが、内心は残念な気持ちであった。だが、だからと言ってこの提督を責められようか？　既に彼女は捜索の手を広げていたのだ。そして結果は得られなかった。ただ、それだけの事である…

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#rsbs日誌　如月は、巡洋艦の甲板に立った。四本もの細長い、まるで大昔の客船の様な煙突からは濛々と煙が上がっていた。その流れていく煙をぼんやりと眺めていた。海は穏やかその物で、あの時の黒雲と、大津波がまるで嘘の様に思えてしまう。然し…修理中の自分の艤装が、現実だと伝えている。

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#rsbs日誌　あの嵐の様な黒雲と大津波が無ければ、艤装は壊れなかった。そして頼れる先輩と、姉妹達と逸れて漂流する事も無かったのだ。どれだけ世界が穏かであろうとも、如月が今、独りぼっちであると言う事が全ての出来事が現実だと伝えてくるのだ。はぁ…と小さく零れた溜息が風に溶けていく。

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#rsbs日誌　「如月さん！」元艦娘のクルー。恐らくは…叢雲であろうか。プラチナの様に艶やかな白髪が風で揺れていた。「ちょっと困った事が起きたの。無線室に来て貰えるかしら？」「…？　えぇ。判りました」不思議に思いつつ、促されるままに如月は艦橋直ぐ横の無線室へと通される事になった。

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#rsbs日誌　其処では数人の無線士と、比良坂提督が立っていた。彼女らの顔は渋い。良くない状況だと言う事が如月にも直ぐに判った。「ああ、如月殿…すまんが君の所属する鎮守府の無線周波数の確認を良いかね？　無線を飛ばしているのだが、何故だか反応が無いのだよ」「反応が…無い？」

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#rsbs日誌　如月は不信に思いながらも、無線機の周波数を調べ、そして自ら無電を打った。何時もならば常駐しているラジオ係りが直ぐにでも飛び付いて来る。筈なのだが…「…本当だわ。おかしい。ウンともスンとも返事が無いだなんて…」「良からぬ予感がする。すぐに艦を急がせよう」

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#rsbs日誌　提督の命令が下された。エンジンテレグラフがカンカンと心地よい鐘の音を鳴らしながら増速を命じる。ボイラーに施されたメカニカルストーカーが効率良く石炭を紅蓮の炎へと投げ込んでいく。轟々と炊き上げられた蒸気が力強く蒸気レシプロエンジンを動かし、船足を滑らかに速めた。

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#rsbs日誌　その酷くクラシカルな船体の見た目とは裏腹に、旧式の巡洋艦はグイグイと速度を伸ばした。如月は驚くと同時に感心する。この胡乱な提督は、この艦を愛しているのだと。でなければこの様な近代化改装を施したりはしない。いや出来ない。模型を弄るのとは掛かる金額の話が違うのだ。

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#rsbs日誌　そう。確かにこの胡散臭い少女は、艦を愛している。船体も甲板も、そして艦の内部も綺麗に磨き上げられている。使われ続けている温もりが其処にはあった。そしてこの見た目に見合わぬ快速っぷり。並大抵の愛情では到底実現しえない事が、船魂を与えられた如月の心には響く物があった。

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#rsbs日誌　不意にブリッジの伝声管に連絡が届く。提督がその知らせを受け取ると、満足そうに何やら頷いた。「如月や。喜びなさい。お前さんの艤装が直ったと言う知らせが今し方、整備兵から届いた」「そうなんですか！」如月は喜んだ。艤装は言わば己の半身と言っても差し支えない存在だから。

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#rsbs日誌　如月は導かれるままに、艦尾近くの小型格納庫に足を運んだ。つい先日までボロボロだった己の半身たる艤装を身に纏う。彼女は試運転をする為に数日振りに海に降り立った。動きは…恐ろしく軽やかだった。思うが侭に海を走れる。加速も減速もターンも、一挙手一投足が気持ち良いのだ。

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#rsbs日誌　宛ら新品以上の心地よさ。こんな整備が出来るだなんて、この提督と…そしてその部下は何れ程優秀なのだろうか？　疑問は尽きないが、如月は今暫く…純粋に海を駆け抜ける喜びを楽しんだ。戦闘ともなれば、こんなに気持ち良く走る事なんて出来ない事なのだから。思う存分、走った。