不知火に落ち度はない５４（早霜）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「いや。すっげかわいっすよ、遠くから見てれば」 「ちょこちょこ動く姿とか、いいよな。かっこいいし」 「じゃあ何が不満なんだよ」 「ビール飲むときと、煙草吸ってるときの持ち方が……なんつーかおっさんくさくて」 あ、はい。十分理解しました。 #不知火に落ち度はない

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「あと浜風ちゃんは誰かさんがねー」 「あー、そうそう誰かさんがなー」 「入り浸ってるような誰かさんがなー」 「いい加減にしやがれこの司令って感じっすよねー」 清い関係だっつの！？ こいつらまで知ってるっていろいろヤバいんじゃなかろうか。 #不知火に落ち度はない

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「そいや羽黒とかどうなんよ」 「ファンクラブ会員一桁ナンバー山岡！」 「同じくファンクラブ会員ナンバー２桁！ 前川！」 「抜け駆け厳禁！ 違反者は私刑！」 だめだ。あいつもアイドルにされてる。 そも、羽黒は男苦手そうだしな。 #不知火に落ち度はない

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「那珂ちゃんについて聞こう」 「那珂ちゃんの魅力が歌ってる時のキラキラ感だっていうのは素人。帰還時のメンテ時のお礼でときめく奴は童貞。真のファンはアイドルの仮面を脱ぎ捨てた風呂上りに自販機でビール買ってる姿を拝める喜びをかみしめよ」 うん。重症だ。 #不知火に落ち度はない

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「お前ら、そんだけ詳しいのに彼女いねーのな」 「司令が言うとマジで爆破とかしたくなるんすけど」 「本妻愛人元カノってどんだけっすかアンタ」 「軽挙妄言は慎めお前ら。俺は日照りしてます」 「憎しみで人を殺していい世界早く」 だめだ、話を聞かない。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ともかく、だ。うちの基地になじんでねーのはよくわかるだろ非モテ三銃士」 「その言い方はともかくわかりますとも。なんか壁があるんですよね」 「ええ、笑顔が嘘っぽいというか」 うん。流石はうちの整備士ども。 こういうところはしっかりしてくれてる。 #不知火に落ち度はない

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「じゃ、どうか一つ頼むわ。お前らが取り計らってくれれば、他の艦娘とも距離縮まるだろし」 「お任せあれ。やったぜ彼女がハネムーン！」 「俺とあの子でタイタニック！！」 「トゥルーラブストーリーよここに！！」 おーおー、勇ましいが殺し合うなよお前ら。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして意気揚々と、我が基地の非モテ三銃士は肩を組んで去っていったわけである。 さて、あの10万で早霜の態度がどれぐらい変わるか、と俺は期待も込めて見送っていたわけであるが。 #不知火に落ち度はない

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その後俺の上に置かれたのは高級クラブの領収証と。 そこに書かれた俺の名前だけであった。 それを早霜が持ってきたあたりで、俺はすべてを察したのである。 つまるところ大玉砕の挙句、俺の名前でヤケ酒しやがったな。 流石非モテ三銃士である。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「司令官。だいぶ飲まれたんですね……」 「おう、まあな。お偉いさんとちょっとな」 「うふふふふ。お偉いさんとえらいのまれましたなあ……」 ツッコミ不可である。 繰り返すがツッコミ不可である。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

と、いうわけで接待費として消えた俺のポケットマネーであるが、早霜が何事もなく処理してるあたりで色々察する。 そりゃヤケ酒もするわなぐらいの、箸にも棒にもかからん対応くらったわけか。 早霜、おそるべしだな。 俺が動くってわけにもいかんし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

と、まあ。そんな手探りでの下調べ状態が続いてた早霜であるが。 本当の事情を知ったのは、避難誘導指示の時だった。 #不知火に落ち度はない

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その日気象庁からのお達しは「集中豪雨」であり。 そして同時にラジオから流れるのは「緊急避難地域」であった。 現状俺たちは深海棲艦と戦う組織としてあるが、同時に国防のための組織でもある。 豪雨からの避難誘導にも当然対処する必要があり。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

つまるところ、俺達は雨合羽を着込んで、避難区域の車を赤棒振って誘導しているわけである。 指揮官は残って拠点から指示出せって話もあるが、そこはそれ。 『司令、現在その区域の住人の半数がいま避難終わりました』 無線機越しに、聞きなれた声がそう告げてくる。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「残り半数な。河川の状況どうよ」 『陽炎からの報告では近くの川の満水までもうしばらく。別区域にも氾濫注意報は出ていますが避難は間に合いそうです』 「那珂ちゃんトレーラーは？」 『正常稼働。川内さんも運転できたんですね』 「三姉妹侮れねえよな」 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

バケツをひっくり返した雨の中でも、かつての秘書艦不知火は優秀であった。 あいつは現在拠点で各地への指示を取りまとめて飛ばしている。 このあたりの地図も把握しており、さすがにこれは早霜には行えない任務であった。 よって、早霜はというと。 #不知火に落ち度はない

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「司令官、こんなに避難する人が出るんですね……」 「地形的に氾濫しやすい川あんのよな。あと数時間もすりゃ道が水で埋まるんだ」 「取り残された人も出るのでは…？」 「最悪はヘリとお前らの出番。大抵はその前に水が引くけどな」 艤装もスタンバイ済みである。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「避難勧告の車には誰が乗ってるんです？」 「運転手は神通とかが手分けしてやってくれてる。万一の事態にゃ俺らが車でひとっ走りする」 水陸両用のもお隣の基地から出てきてる。こういう地域連携がすぐ取れるのはありがたい。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「こういうのもうちじゃ、よくある仕事なんでな。悪いが出てきてもらったけど、どうよ」 「てるてる坊主っぽくなれるので…素敵です」 言われてみればそうだな。 早霜すごい真っ白い雨合羽装備してるからな。 なかなか縁起のいい避難誘導員である。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「しかしその雨合羽すげーね。撥水率が半端ないぞ」 「これもアウターヘブン製ですので……ごめんなさいね」 「謝るこたねえって。うちにも回ってこねーかなー」 俺のはいつものカラーのお古の雨合羽である。 穴あきで撤収するころにゃパンツまでぐっしょりだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

『司令。陽炎から入電です』 「おうなんだ。緊急事態か」 『横殴りの雨で下着が濡れて気持ち悪いとのこと』 「脱いでその辺に捨てとけと伝えろ」 『お前には下着なんて上等なものは必要ない、だそうです陽炎』 和やかすぎる事実を歪曲した話が出てる。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「不知火さんは、ツーカーなのですね」 「秘書艦にして長いんでな。昔は大変だった」 「いいなあ……」 お、なに？ てるてる坊主が急に何をおっしゃるか。 「お前さんは派遣だし気にすんな。ツーカーなのは否応なく顔を合わせるからだ」 あれドーベルマンだし。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それが、いいなあと思います」 「お前さん、あちこち行くんだっけ？」 「いいえ、だいたいはアウターヘブンの中です。でも」 ──仲のいい人はほとんどいませんから。 早霜は笑う。ただ、儚げに。 アウターヘブンも一枚岩じゃねーのかな？ #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それに積極的に相手を避けてる早霜がそれを言うのも、不自然な気がする。 矛盾がある。早霜の言動には。 「仲良くしてないのか？」 「仲良くできないんです…」 事情アリ。そんなふうな会話である。 叩きつける雨の中で、ここだけ静かな気がした。 #不知火に落ち度はない