金子昌雄中佐変死事件

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数学史研究者 @redqueenbee1

大使,公使,参事官に報告し,東京に対しても詳細報告の上,伝書使の本分も知らぬ本人を厳罰に処すべしと上申した.本人を水戸中学の同窓であった日暮理事官をつけて東京に帰した.伝書使は通常の場合,外務・陸海両軍から一人ずつの二人編成であって,陸軍側にも伝書使たるものの心得がわかっていた

2018-03-18 08:44:08
数学史研究者 @redqueenbee1

はずであるので,この伝書使も当然その心得に従って行動すべきであるのに,いかにも無知で不用意の伝書使ではあった」 法眼証言終わり

2018-03-18 08:46:31
数学史研究者 @redqueenbee1

金子の上司参謀本部通信課長仲野好雄大佐証言要旨 外務省の使用する機械暗号に不信感を持つ仲野大佐は、ソ連への和平斡旋依頼に伴う外務省暗号の「無限乱式」への改正を強要し,金子参謀にクーリエとして携行させたが,金子はシベリア鉄道の中で謀殺奪取され,一件は上司の指示によって外交上不問に

2018-03-18 08:49:28
数学史研究者 @redqueenbee1

伏せられた. 参謀本部暗号班 釜賀一夫少佐証言要旨 海軍と外務省でも無限乱数を使おうということになり,外務省でも無限乱数を作 って,まずソ連に補給しようということで,金子中佐が伝書使になって持参することになったが,シベリア鉄道で毒殺され,持っていった行李は全て開けられていたと聞く

2018-03-18 08:50:47
数学史研究者 @redqueenbee1

チタ領事館の原田統吉が生き残った柴田から聞いた話要旨 チタを発った翌日の午後に,顔馴染になった隣室のコンパートメントにいる戦車兵のロシア人少佐から,明日はメーデー(5月1日)であるから祝いに付き合ってほしいと招待され,物資欠乏中のロシアに似合わぬ饗応を受けて二時間近く酒宴を続けた

2018-03-18 08:53:07
数学史研究者 @redqueenbee1

自室に帰って一時間して,大佐が激しい腹痛を訴え,用意した薬物も役立たなかった.介抱している少佐も胃痛を覚え,ボーイを呼ぼうとしたが,外部から施錠されていて扉が開かない.半狂乱になった大佐が扉のガラスを叩き割って喚きながら外に出ようとすると,屈強な男によって国家財産破壊の酔漢として

2018-03-18 08:53:27
数学史研究者 @redqueenbee1

縛り上げられた.少佐は一人クラスノヤルスク駅で降ろされ,数日監禁後にモスクワに護送された.その間に大佐は死亡し,ロシア側は,日本大使館に「過度の飲酒のために嘔吐物が気管に入り窒息死したもの」という診断書を添えた遺骨を届け,以降このような不謹慎で粗暴なクーリエを大使の責任において

2018-03-18 08:53:53
数学史研究者 @redqueenbee1

差遣することのないように抗議したという.チタ領事館では,大佐の乗った列車のワゴン乗務員が顔馴染のソーニャ嬢ではなく屈強の大男だったこと,ボーイが荷物の積込を愛想よく手伝ったことは異例で,ボーイが数週間後にNKVD准尉の軍服でチタを歩いていたことから,大いに怪しんでいたという.

2018-03-18 08:54:30
数学史研究者 @redqueenbee1

また,ソ連大使館付陸軍武官の矢部忠太大佐から原田統吉は,モスクワに到着したクーリエの鞄は全て開錠・開緘された形跡があり,大使と武官の手紙の中身が逆に封入されていたと聞かされた 原田証言要旨終わり

2018-03-18 08:54:56
数学史研究者 @redqueenbee1

ソ連大使館付陸軍武官の矢部忠太大佐証言 5月6日,駐ソ大使館にソ連外務省の官吏が来訪し,「日本外務省から近日到着予定のクーリエが,同月1日にシベリア鉄道車内で食中毒に陥り,居合わせたソ連医師の献身的な介抱に関わらず死亡し,もう一人はそれを見て発狂して旅行困難となったのでイルクーツクの

2018-03-18 08:57:43
数学史研究者 @redqueenbee1

病院に収容した.死者は現地で葬儀を済ませたが,発狂した者は近くモスクワに届ける」と伝えられ,クーリエの鞄と遺品一式が届けられた.矢部は,鞄から自分宛の参謀本部の文書を取り出したが,佐藤大使宛の外務大臣の文書と入れ替わっていた.佐藤大使宛の文書の封の中に,矢部宛の指令書があった

2018-03-18 08:57:59
数学史研究者 @redqueenbee1

再び柴田進証言 5月6日頃,柴田はシベリア鉄道がスヴェルドロフスクを過ぎたところ,駐ソ日本大使館から法眼晋作書記官と佐藤書記生が迎えにきたので,経過説明を行った.

2018-03-18 09:04:26
数学史研究者 @redqueenbee1

関東軍参謀松村知勝手記 「ソ連を介しての和平工作だとか,昭和十九年五月のヤルタ会談のスターリンの動きなどのニュースは全く関東軍参謀部は知らなかった.クリエールの武官が毒殺されるという事態になって,初めてソ連軍の日本に対するきびしい方針をボンヤリと認識する程度であった」

2018-03-18 09:07:05
数学史研究者 @redqueenbee1

4月10日頃、外交伝書使として入ソした都留重人手記。同行者は小川亮作 「四月十日ごろだったか,私たちはマンジュリからオットポールへと国境を越えたのだった.四月初めとはいえ,シベリアはまだ寒い季節で,書窓から吹雪を眺めることもあり,白樺の直ぐきを競う吹雪かな との一句を詠んだりしながら

2018-03-18 09:09:42
数学史研究者 @redqueenbee1

私は,同行の小川氏から『ルバイヤート』邦訳の苦心談をつぶさに聞く時間を楽しんだ」 「クーリエの役目は,黒かばんをモスクワの大使館やウラジオストック総領事館のしかるべき人に渡し,中身が入れ替えられたのを日本に持ち帰るだけで,小川氏と私の場合,それ以外の任務はない.ハルビンで

2018-03-18 09:10:16
数学史研究者 @redqueenbee1

軍の人から東漸貨物を記録するようにと依頼されたことは,私の場合,結果的には無視する形となった.しかし,同じ「クーリエ」でも,私たちの次に日本からソ連に派遣されたのは,外務官僚を装った参謀本部の暗号将校だったらしく,そのお二人は不覚にも,シベリア鉄道車中でソ連人とアルコールを

2018-03-18 09:10:31
数学史研究者 @redqueenbee1

飲みかわす交歓を行い,有毒物を飲まされて一人は死亡し,もう一人は発狂してしまい,持参していた新しい暗号セットを抜き取られるという事件をおこしたのだった.日本にもはや勝目のないことを私たち以上に知っていたにちがいない参謀本部の人たちの自棄と虚勢のなす業だったのであろうか」 手記終

2018-03-18 09:11:03
数学史研究者 @redqueenbee1

後日参謀本部で金子昌雄変死事件の報告会が開催され,帰国した柴田進が報告を行った。同席者証言二つを紹介する 参謀本部欧米課大屋角造参謀証言 「(柴田の)悲愴な心境と憤怒の気迫を忘れられない」()内は筆者追記

2018-03-18 09:14:57
数学史研究者 @redqueenbee1

陸軍省軍務局の完倉壽郎証言 「わが国民の大部分がスターリンやチャーチルの誕生日を知らないことを考え ると,車室に現れたソ連人が,どうして天長節を知っていたのか,大いに疑問である」 「当時私は陸軍省にいて細部の事情を知らなかったが,いかにも旅行者自身の注意不十分という印象が強かった.

2018-03-18 09:16:08
数学史研究者 @redqueenbee1

幸いに生き残った一人は,帰途大いに活動して多くのものを見て来たが,前記クラスノヤルスク駅北側の援ソ米国戦闘機のつけて来た増加タンクの集積を,爆弾と報告していた.爆弾を銀色に塗装したり,アルミメッキをすることはないだろうし,たとえ信管がついていなくて簡単に爆発することはないとしても

2018-03-18 09:16:24
数学史研究者 @redqueenbee1

無雑作に山積みにすることはないだろう.彼は正常な判断力を失っていると私は感じた」 「この事件以後は,十分に訓練された者が,反復して何回も往復旅行をする,というふうに改められた」 完倉証言終わり

2018-03-18 09:17:00
数学史研究者 @redqueenbee1

ソ連崩壊時、保阪正康はロシア政治史研究者及びジャーナリストと共にモスクワの公文書館をいくつか訪問し,金子事件の関連文書を探したが発見できなかったという.

2018-03-18 09:18:16
数学史研究者 @redqueenbee1

再び柴田進証言 5 月9 日夜半,柴田を乗せたシベリア鉄道はモスクワ駅に到着した.柴田は,戦後に文藝春秋や畠山清行の著書などに書かれた金子事件の描写は,全て真相や真実を書いておらず,ソ連側の一方的な情報や想像で書かれたとしか思えず,泥酔の上で暴れたとか,深酒をして死んだなど全く心外

2018-03-18 09:20:50
数学史研究者 @redqueenbee1

であると回想し,日本への帰途,哈爾濱の石井部隊で毒物の試験台になったが,飲物に青酸が入っていたことを証拠立てたのだという. ここで追加情報を投入する。 畠山の著書にある金子事件の描写は、参謀本部で柴田の講演を聞いた木村登の著書「原爆機東京へ」をコピーしたものである。

2018-03-18 09:23:40
数学史研究者 @redqueenbee1

文藝春秋の言及というのは、前出の矢部忠太大佐証言を指している 読者諸賢は、この証言集から事件の真相を暴くことはできるだろうか?73年前の事件は、未だにコールドケースのままである。プーチンが大統領になってから、ロシアの公文書館でソ連の文書を研究者が

2018-03-18 09:31:03