【冬の魔女ア合同】強襲!暗黒料理人邪苦!奪われた氷結包丁!その1
張り詰める空気。 だが、そこでその空気を読まないヤツがいた。 その名前は、わざわざあげるまでもないだろう。 「あ、しゅ、修理の調子がすごく良いなー すぐにでも直っちゃいそうだなー!」 「本当か?」
2022-09-16 23:57:57「い、いやーすぐかと思ったら、もうちょっとかかりそうだデスネー! 残念デスネー すごくすごく残念デスー!」 そこで、牛野郎が鈍器で床を殴った。 ドカン!
2022-09-16 23:57:57「ひいっ!」 「お前も黙れ。 口じゃなく、手を動かせ」 「は、はいぃー!」 …なんとかしのいだか。 まさか、ハシバミの空気の読めなさに、いや、その気づかいに救われるとはな。
2022-09-16 23:57:58どうやら、アイツが修理の達人の息子だっていうのは本当みたいだ。 言葉こそ弱々しいが、その手の動きはしっかりしていて、しかも速い。 手だれの職人や、オヤジたち漁師を思わせる動きだ。
2022-09-16 23:59:08だからこそ、牛野郎も“本物”であることを疑いもしないんだろうな。 さっきあれだけ怒らせたのに、今はひたすら修理のなりゆきを見守っているくらいだし。
2022-09-16 23:59:08…いや、さっきのはオレが悪かった。 そこは本当に反省している。 しかし、どうやら今のオレらは、村やウチに対してじゃなく、ハシバミを働かせるために人質になっているようだ。 そこは推理が外れたか。
2022-09-16 23:59:09だが、どちらにせよこのままじゃ、オレらを待ち受けている運命はただ一つ、死だ。 それを逃れるためには、たとえ無理矢理にでも、こちらから行動を起こすしかない。 今縛られている仲間と力を合わせ、一斉に襲いかかる。 それしかない。
2022-09-17 00:01:17勝ち目はありそうもないが、負けるつもりで戦って勝てるわけもない。 可能なかぎりこちらの戦力を増やし、相手の隙をうかがって…文字通り、身体ごとぶち当たって万が一の勝機をつかむ!
2022-09-17 00:01:18まあ、オレもこれまで、何も考えずに挑発してきたわけじゃない。 策ならある。 最悪に近い、破れかぶれではあるんだが。 実のところ、オレだけなら、今すぐにでも脱出は出来るんだ。
2022-09-17 00:01:18少し前に何度も牛野郎に殴られたとき、暴れるふりをして肩の関節を外しておいたんだ。 痛みのあまり、ちょっとばかり怒りっぽくなっちまったのは計算外だったが…
2022-09-17 00:02:31ともかく、ただ縄から抜けただけじゃ、さっきの二の舞だ。 まず狙うべきなのは、牛野郎本人じゃなく、その手元だ。 とにかく、武器を取り戻さなけりゃならない。
2022-09-17 00:02:31あそこには、取り上げられたナギサのフレイルがある。 そして、オレの小刀もある。 万が一のときの護身用というより、ニワトリと交換するために持ってきたんだが、まさかこんなことに役に立つとはな……
2022-09-17 00:02:31さっきの襲撃に、小刀を持ったヤツはいなかった。 それに、オレの小刀の質は、ここいらじゃ一番のはずだ。 アレは、牛野郎にも“効く”可能性がある。 まあ、小刀を取り戻したところで、さすがに牛野郎を一撃で殺したりするのは無理だろうが……
2022-09-17 00:04:34それでもあると無いとでは大違いだ。 まさか、金持ちのボンボンに生まれたのが、こんなときに役立つとはな。 …ああ、ホントは分かってたさ。 オレの憧れが、単なる金持ちのぜい肉、暇つぶしに過ぎなかったってことぐらいはな。
2022-09-17 00:04:34本当に遠くへ行きたいなら、もっと料理の勉強を真面目にやるべきだった。 それがダメでも、文字通り世界一周する【周航船】にでも潜り込むべきだったんだ。 たとえ奴隷になっても良い。
2022-09-17 00:04:35ハシバミも牛野郎も、こうして遠くから来てるんだ。 それが本当にやりたいことだと思うのなら、オレだってそうするべきだったんだよ。
2022-09-17 00:05:49自分はなんにもしないまま、欲しいものがこっちへ来るのを待つなんて、まさにガキでしかない。 オレも、ただの甘やかされたガキだったってワケだ。 こんなときになって、ようやくそれに気づくとはな… オレも本当にバカだ。
2022-09-17 00:05:49だが、それと今やらなきゃいけないことは全く別の話だ。 たとえ命と引き換えにしても、村の仲間は…そしてナギサは守ってみせる! 結局、旅に出るどころか漁師にすらなれずに死ぬかもしれねえが…なあに、構いやしない。 オヤジやオフクロだって、きっとこの方が良いって認めてくれるはずだ!
2022-09-17 00:05:50チャンスが来たら、一気に攻める! 失敗したときのことは考えない! こいつが、このテツモリさまの初の漁ってヤツさ! 「か、かかった!」」 そして、“そのとき”は唐突に訪れた。
2022-09-17 00:07:17ハシバミが、いきなりあげた声。 それが、本当に『石の馬』の修理に成功した歓声なのか、それともオレらのための合図だったのか…… それは分からなかったし、実のところ、そんなことはどうでも良かった。 オレとナギサはその瞬間を狙い、同時に牛野郎に襲いかかっていた!
2022-09-17 00:07:17なぜ来た? アンタの考えることなんて、お見通しよ! ええい、とにかく行くぞ! のんびりしてると置いてくわよ! 待ちやがれ、チクショウめ! 捕まえてごらんなさいよー! 牛野郎を、だろ?分かってるって!
2022-09-30 23:44:27それは、ほんの数瞬の間に交わされた言葉にならない言葉だった。 いや、いくら幼なじみだからって、目くばせやちょっとした身ぶりでそこまで心が通じ合えたとは、さすがのオレも思わない。 長く付き合ってきたということは、それだけ多く互いに失望したりすれ違ってきたということでもあるしな。
2022-09-30 23:44:27だが、今回に限っては、オレたち二人は完璧に連携を取ることが出来たと思う。 走りながら位置を交換してのフェイント! そこからの、ゴミを投げつけての目くらまし! 出来ることは大して無かったが…それでも、この状況で出来る限りのことは出来たはずだ。
2022-09-30 23:46:24その最大の成果は、初手で牛野郎の鈍器を封じることが出来たことだ。 まあ、そのときオレが言ったセリフは、我ながら最悪だったような気はするけどな…… 「ナギサ、“もう一つのフレイル”をお見舞いしてやれ! 女子なら隠し場所はあっただろ!」
2022-09-30 23:46:24