【冬の魔女ア合同】強襲!暗黒料理人邪苦!奪われた氷結包丁!その1
「何言ってんのよ、バカ!」 そう文句を言いながらも、ナギサは、ちゃんと服の中から“何か”を取り出してくれていた。 牛野郎は、それに注目せざるを得ない。 それも仕方ない。 さっき、ナギサのフレイルに手痛い目を見せられたのは、忘れたくても忘れられない失点だろう。
2022-09-30 23:46:25もちろん、“もう一つ”なんて存在しない。 ナギサの武器は、取り上げられた一つだけ。 これは、オレのハッタリに過ぎない。
2022-09-30 23:47:40ナギサが取り出したのは、アイツが背伸びして身につけていた…まあ、本人の名誉のために、そのあたりは話さないことにしておこう。 この場合、そこは重要じゃないし。
2022-09-30 23:47:40「よしっ!これでどうだ!」 ともかく、オレは見事、愛用している小刀を取り戻すことに成功した。 だが、その後がマズかった。 オレはすぐさま、牛野郎の右手を斬りつけたんだが、アイツは…
2022-09-30 23:47:40「このっ、クソガキが!」 「ぐっ!」 即座に、オレを吹き飛ばしてきた! 一瞬だけ身体が宙に浮いた…かと思えば、 激しく何かーーたぶん小屋の柱か壁ーーにぶつかる。
2022-09-30 23:48:44…これは、けられたのか? すごくいたい…ほねが、おれた、か? きもちわるい… はきけ、が… そこでオレは、胃の中のものを全部ぶちまけちまった。
2022-09-30 23:48:45ヤツの利き腕(であってくれ、頼む)である右手を傷つけた以上、もう最大の脅威だった鈍器は使えないとは思うが…これじゃ、オレも全く動けねぇ。 せめてもの救いは、吹き飛ばされる直前、武器二つを投げておけたことだ。 上手く仲間の手に渡っていれば良いんだが……
2022-09-30 23:48:45もうろうとする意識の中、耳に流れ込んできたのは、争う物音と、 「ひぃぃぃい!」 ハシバミの叫び声だった。 まあ、コイツだけ作戦伝えられてねえんだから、驚くのも無理ねえ話ではあるんだが。
2022-09-30 23:51:35この声さえも、今となっては、なんだかもう懐かしい。 いかんなぁ、過去を振り返るなんて、こんな短い間にジイさんになっちまったみてえじゃねぇか。 まだ“決戦”の最中なのに… なんだか眠い。 意識が遠くなる。
2022-09-30 23:51:36ハシバミ、オマエは早く逃げろ… オマエだって用が済んだら“前任”みたいに殺されちまうんだから… オマエは、もう十分すぎるほどがんばった。 今は確かに、村の仲間が戦う“総力戦”だが、なにもそれに付き合うこたぁねえ。
2022-09-30 23:51:36だってお前は、本来無関係なんだから。 あの人殺し野郎がここに来たのも、お前のせいなんかじゃない。 ただの偶然だ。 だから、責任感じなくても良いんだぜ。 お前がこんなピンチに追い込まれたのは、不幸に巻き込まれたのは…みんなみんな、オレのせいなんだから。
2022-09-30 23:53:11ぜんぶ…オレが…悪いんだ… だから…だから… 早く…逃げろ… オレは叫ぼうとしたが、声が出なかった。 意識があっという間に遠のいていく。
2022-09-30 23:53:12何か大声が聞こえた気もしたが、それでもまぶたが言うことを聞きやしねえ。 オレは、気づかないうちに、眠りに落ちていった…… ※
2022-09-30 23:53:12「これでもう終わりだ!ぺっ、手こずらせやがって!」 そして目覚めは、最悪だった。 まさか、ナギサ以外にけられて起きることになるとはな…。 もう二度と経験したくはないが、どのみちこれが最後の経験になりそうだな。 それはそれで、嫌なもんだ。
2022-09-30 23:55:03そうだ。 オレたちは、また負けた。 完全敗北だ。 なぜか片方しか開かない目には、折れた小刀が見える。 その隣でうずくまっているのは…ジロのヤツか?
2022-09-30 23:55:04どうやら、オレのもくろみ自体は上手くいったようだ。 上手く投げ渡せたか自信はなかったんだが、ちゃんと縛られていた縄を切れたんだな。 それに、ジロウたちの様子をみれば、アイツらがけっこう善戦は出来たことが分かる。
2022-09-30 23:55:04その中心にいるのは…ナギサか! どうやら、まだ無事みたいだな。 そうか、この状態を作ったのはアイツなのか! どうやら、オレが気絶する直前に聞いたのは、団結を呼びかけるアイツの声だったようだ。
2022-09-30 23:56:28それは見事に成功し、二つの村のガキどもは、結束して牛野郎に立ち向かうことが出来たってワケか。 結果的には、それでも負けちまったようだが…まあ、よくやったと言えるだろう。
2022-09-30 23:56:28少なくとも、パッと見た感じ死人は出ちゃいねえ。 小屋の隙間から差し込む日差しから察するに、あれからかなり時間がたっているにも関わらず、だ。 「いいか、お前らは負けたんだ! これからお前らはオレの配下として、この地に正当な秩序の王国を、誰もが【牛人】に仕える正しい世界を…」
2022-09-30 23:58:41ヒヒーン! 「な、なんだ?」 牛野郎の妄言をさえぎったのは、馬のいななく声だった。 いや馬? この小屋に馬なんて、ハシバミがいじくってる石の馬しかいないぞ?
2022-09-30 23:58:42そこで、なぜか牛野郎が勝ち誇った。 「どうだ! これこそが我が秘宝、この世に正義を示す最強の兵器! これを復活させたのは…」
2022-09-30 23:58:42「ハシバミ! お前か! お前、意外と出来るヤツだったんだな! というか、伝説は本当だったのか!」 「おい! ヒトの話を…」
2022-10-01 00:00:21聞く気には、まったくなれなかった。 そこには、かつてオレが夢見たものがあったからだ。 古びてはいたが、強大な力を感じさせる偉容。 二つの車輪、固そうな装甲、 そしてなにより、ヒヒーンといななく、石の馬!
2022-10-01 00:00:22これこそまさに、伝説に聞く『メクセトの戦車』! ホンモノだ! コイツを、あのハシバミが直したのか! 思わず、その感動が声に出る。 「ちょっ、お前スゲーな!」
2022-10-01 00:00:22