ア㊙️イさんのお尻と学ぶ海賊の世界(全14回)

最近出版された海賊に関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実・事実・政策に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんは海賊研究の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この論文のポイントは、こうした天然資源の議論と「武装勢力の強さ」を組み合わせたところにあるのだ。 先に述べたように、「強い武装勢力」は内戦を早期に終結させる可能性が高いのだ。武装勢力は有利に交渉できるし、政府はそんなヤバい奴らはほっとけないから彼らと交渉せざるを得ないのだ。 (5/19)

2019-08-29 06:32:35
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その一方で、「弱い武装勢力」は弱いが故にそもそも政府をあまり攻撃しないし、政府としても雑魚だから相手にせず、結果として内戦は長期化する傾向にあると考えられるのだ。 じゃあこうした「天然資源(=海賊)の有無」と「武装勢力の強弱」を組み合わせると、一体どんな予測が導かれるか? (6/19)

2019-08-29 06:32:55
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ここで思い出して欲しいのが、海賊行為は天然資源の違法採掘に似ているとは言え、決定的に違うところがあるのだ 以前紹介したように、海賊行為は貿易にとって大きな障害になるのだ。政府は貿易から得られる利益を失うだけでなく、国際的な信用も落とすことになるのだ twitter.com/bot99795157/st… (7/19)

2019-08-29 06:33:22
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海賊は船舶を襲撃することで海運業者に直接的な損害を与えるだけでなく、巡り巡って海運コストの上昇を招くことで間接的に貿易量そのものにも悪影響を与えているのだ。じゃあ海賊によってどれぐらい貿易量が減ったと推計されるのか?そしてその損失額はどれぐらいなのか?実証分析の出番なのだ! (1/8) pic.twitter.com/fRIeQHUDEn

2019-08-24 16:54:28
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、政府の側には海賊を駆逐したいという動機があるのだ。でもそれが実行可能かどうかは、相手となる武装勢力の強さに依存するのだ。弱ければ簡単に叩けるけど、強いと政府も相応のコストを支払わなきゃいけないのだ。 (8/19)

2019-08-29 06:34:07
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

こうした A)武装勢力側の動機 B)政府側の動機 C)海賊行為の影響 を組み合わせると、 1) 海賊を行う強い武装勢力→内戦長期化 2) 海賊を行わない強い武装勢力→早期終結 3) 海賊を行う弱い武装勢力→早期終結 4) 海賊を行わない弱い武装勢力→内戦長期化 という予測が導かれるのだ。 (9/19) pic.twitter.com/lDpVKGmVjh

2019-08-29 06:35:27
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

[ケース1:海賊を行う強い武装勢力] 政府は海賊行為を止めたいし、相手が強いから和平交渉を行いたいのだ。でも武装勢力はとにかく海賊が儲かるから、いま内戦を終わらせるのは得ではないと考えるのだ。結果として、このケースでは内戦が長期化するのだ。 (10/19)

2019-08-29 06:38:50
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

[ケース2:海賊を行わない強い武装勢力] 武装勢力はこのまま内戦を続けても特に儲からないし、有利な立場で和平交渉ができるから、内戦を終わらせたいと考えるし、政府は強い武装勢力を放っておけないから彼らも同じように内戦を終わらせたいと考えるのだ。結果として、内戦が早く終わるのだ。 (11/19)

2019-08-29 06:39:26
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

[ケース3:海賊を行う弱い武装勢力] 武装勢力は海賊が儲かるから紛争を続けたいところなのだ。でも政府としては海賊行為を続けられたら困るし、相手が弱いから潰そうと思えば潰せるから、終結に向けて武装勢力を叩くのだ。結果として、内戦が早く終わるのだ。 (12/19)

2019-08-29 06:41:59
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

[ケース4:海賊を行わない弱い武装勢力] 政府としては雑魚な勢力は放っておいても大して自分たちのダメージにならないし、武装勢力の側も弱い立場で交渉のテーブルに着こうとはしないのだ。結果として、このケースでは内戦が長期化してしまうのだ。 (13/19)

2019-08-29 06:42:21
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、先に述べた仮説を実証すべく、沿岸部を持つ国で1993-2014年の間に発生した168件の内戦を対象に、その国で内戦を戦う武装勢力の強さと海賊行為の発生件数のデータを収集・統合し、統計分析を行ったのだ。 (14/19)

2019-08-29 06:42:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

武装勢力の強さを表す指標は、各武装勢力の ・組織の指令系統 ・動員能力 ・武器の調達能力 ・一定領域の統治 に関する情報から、「相対的に政府より強いか/弱いか」を測定し作成されたのだ。 (15/19)

2019-08-29 06:44:26
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、海賊行為が発生すると内戦が終結する確率が上昇するけど、その効果は武装勢力が強いと小さくなることがわかったのだ。 同時に、こうした関係が見られるのは沿岸部から150km以内で発生した内戦(≒海賊が関係ありそうな内戦)に限られていることもわかったのだ。 (16/19)

2019-08-29 06:48:06
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この結果は、最初に述べたように、紛争を続ければ続けるほど得だと考える強欲な武装組織が世界に存在すること、そして彼らは儲けの手段として時に海賊に手を出していることを示唆しているのだ。海賊がもたらす問題は海上に限らないのだ〜! (17/19)

2019-08-29 06:48:35
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、あくまでも示唆的でしかないけど、冷戦終結後に世界中で海賊が爆増した背景にはこうした強欲な武装勢力の存在があるかもしれないのだ。東西陣営からの支援を受けられなくなった武装勢力が、新たな金稼ぎの手段の一つとして海賊に目をつけた、というのは結構ありそうな話なのだ。 (18/19)

2019-08-29 06:49:25
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1177%2F2233… からなのだ。 実はこの論文の著者たちは海賊に関してめちゃくちゃ論文を書きまくっているのだ。「俺たちが海賊研究を終わらせる」という鉄の意志があるかのような絨毯爆撃っぷりでちょっと笑ってしまったのだ。 (19/19)

2019-08-29 06:50:12

過去に学ぶ海賊たち:海賊対策の効果

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

果たして海賊対策に効果はあるのか?海賊たちが「いつ/どこで襲撃を行うか」を戦略的に決め、さらに「学習」する存在であることに着目した研究によれば、海上警備活動や救出作戦は海賊行為をちゃんと抑止する効果があるのだ。 (1/27) pic.twitter.com/kllQCuMRg1

2019-08-31 09:50:29
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

よく知られているように、ソマリアは海賊被害がクッソ多いんだけど、実はそれはかなり「地域差」があることがわかっているのだ。ある場所・ある時期に集中的に海賊が発生し、そうした地点の周辺でも海賊行為が多発する傾向にあるのだ。 (2/27) pic.twitter.com/2GTxTrJzii

2019-08-31 09:50:53
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

なぜこんなことが起こるのか?もちろん、環境や地理的要因で決まる側面もあるのだ。例えば不漁の時期は漁師を海賊のメンバーとしてリクルートしやすいし、海運の要衝でもある海峡付近では襲撃も簡単なのだ。そうした時期・場所に海賊が集中する傾向は確かにあるのだ。 (3/27)

2019-08-31 09:51:14
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その一方で、この研究が注目したのは、海賊たちの「合理性」なのだ。最小の費用で最大の利益をあげるべく、海賊たちは襲撃を行う場所とタイミングを戦略的に決めているはず、と考えるのだ。特に重要になるのが「過去の経験」なのだ。 (4/27)

2019-08-31 09:51:28
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海賊が「手軽に」船を襲いたいなら、自分たちにとって全く未知の海域は航行そのものにリスクがあってコストがかかるから、「土地勘」がある海域、つまり最近行った事があるところを選ぶと考えられるのだ。これは空き巣や強盗が土地勘のある場所を選ぶ傾向にあるのと同じなのだ。 (5/27)

2019-08-31 09:51:45
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、ある海域に関するそうした知識は、グラデーションを描くように分布すると考えられるのだ。要は「近ければ多少は事情がわかる」(=情報を仕入れるコストが低い)ということで、最近行ったことのある場所の近隣も海賊たちは襲撃地点に選びやすいと考えられるのだ。 (6/27)

2019-08-31 09:52:05
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに、海賊は過去の成功体験と失敗体験からも学ぶはずなのだ。つまり、最近襲撃が成功した場所やその近隣でもう一度チャレンジしても成功する確率が高いと見積もるのだ。失敗したらその逆で、そうした場所は次からは避けるはずなのだ。 (7/27)

2019-08-31 09:52:27
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ここまでの話をまとめると、 (1)最近襲撃があった地点とその近隣(土地勘のメカニズム) (2)最近襲撃が成功した地点とその近隣(学習のメカニズム) ではその後も海賊の襲撃が起こる可能性が高いという仮説が導かれるのだ。 (8/27)

2019-08-31 09:52:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

じゃあこうした海賊たちの意思決定メカニズムと海上警備活動はどういう関係にあると考えられるか?この研究では、EU諸国による海上警備活動(EUNAVFOR:アトランタ作戦)に焦点を当てて考察を行なっているのだ。 (9/27) pic.twitter.com/6lUwz6CSK0

2019-08-31 09:53:12
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