ア㊙️イさんのお尻と学ぶ海賊の世界(全14回)

最近出版された海賊に関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実・事実・政策に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんは海賊研究の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

アトランタ作戦は2008年に始まったソマリア沖の海賊対策で、海上警備活動と海賊の鎮圧を主たる目的として軍艦・哨戒機(ドローン含む)が運用されたかなり大規模なものだったのだ。こうしたパトロールは海賊行為のコストを引き上げるはずなのだ。 (10/27) pic.twitter.com/7YpeLO7axL

2019-08-31 09:53:35
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

しかも海賊にはパトロールがどこで行われているかは事前に分からないのだ。こうした海賊にとってのリスクの上昇は、海賊行為を減少させるはずなのだ。 さらに、アトランタ作戦では海賊による襲撃への直接的な介入(=救出作戦)も実行されたのだ。 (11/27) pic.twitter.com/wd2O0IBdjc

2019-08-31 09:54:09
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

襲撃された船から救難信号が入ったり、あるいはそうした船を発見した場合、迅速に救出部隊が派遣されるのだ。この救出作戦はなかなかの成功率で、海賊にとっては脅威でしかないのだ(図の×が成功、×を○で囲ったものが失敗) (12/27) pic.twitter.com/MZrXmbAT4J

2019-08-31 09:54:42
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

こうした救出作戦は、海賊にとって「学習」に影響を与えるはずなのだ。仮に成功率が高かったとしても、次は救出作戦が最近あった場所は避けるようになると考えられるのだ。 (13/27) pic.twitter.com/rlMtfH5H8b

2019-08-31 09:55:11
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、海賊対策に関しては、 (3)海上警備活動は海賊行為を減少させる(コストのメカニズム) (4)救出作戦があった地点では、成功率の影響が小さくなる(学習のメカニズムその2) という仮説が導かれるのだ。 仮説が出揃ったところでいざ実証なのだ! (14/27)

2019-08-31 09:55:33
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、2005-13年の間にソマリア沖で発生した海賊行為とEUNAVFORの活動に関するデータ、さらにソマリア本土における社会経済的な指標を収集・統合し、統計分析を行ったのだ。かな〜り手間がかかっているのだ! (15/27)

2019-08-31 09:55:58
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回問題となるのは海賊の発生件数だけでなくその位置なのだ。以前紹介した研究と同様の手法を用いて、ソマリア沖を緯度経度0.5度ずつのセルに分割し、そのセル内で各月に発生した海賊行為の件数をカウントしたのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (16/27)

2019-08-31 09:56:20
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そもそも一体誰が・いつ海賊になるのか?現代の海賊のメッカの一つであるインドネシアを対象にし、衛星写真から得られたデータを分析した研究によれば、お魚があんまり獲れない時に海賊行為が増加するということが明らかになっているのだ。 (1/20) pic.twitter.com/htL9Tj1FDg

2019-08-16 21:03:44
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、 (1-1)同セル内での前月海賊件数 (1-2)周辺セル(周囲8個のセル)での当月海賊件数 (2-1)同セル内での前月海賊成功率 (2-2)周辺セルでの前月海賊成功率 (3)2008年以前/以後を表す変数 (4)同セル内で前月に救出作戦があったか否か を用いて各仮説が検証されたのだ。 (17/27)

2019-08-31 09:56:49
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、 ・前月に海賊が発生したセル ・前月の海賊成功率が高かったセルとその周辺のセル では翌月に海賊が発生する確率が高かったこと、 ・周辺セルでの海賊発生件数が多いセルは、同じ月に海賊が発生する確率が高かったこと がわかったのだ 土地勘と学習のメカニズムが確認されたのだ! (18/27)

2019-08-31 09:57:40
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、 ・2012年以後はそれ以前と比較してどのセルでも海賊が発生する確率が低い ・前月に救出作戦が実施されたセルでは、そうでないセルと比較して、前月の成功率が翌月の海賊発生確率を上昇させる効果が小さい ことがわかったのだ。海賊対策も意味があったのだ〜! (19/27)

2019-08-31 09:58:04
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

筆者の推計によると、 ・前月に海賊発生→翌月に211%上昇 ・周辺で海賊発生→当月に152%上昇 ・前月の海賊成功率が10%上がる→翌月に10%上昇 ・前月の周辺での海賊成功率が10%上がる→翌月に61%上昇 海賊の発生確率が上昇するのだ。ひぇぇ〜!! (20/27)

2019-08-31 09:58:59
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、海賊対策の効果を推計した結果によれば、アトランタ作戦が始まる2008年以前と比較して、全体での海賊発生確率が ・2009-11年→効果なし ・2012年→49%低下 ・2013年→88%低下 したのだ。どうやらアトランタ作戦は効果が出るまでちょっと時間がかかったみたいなのだ。 (21/27)

2019-08-31 09:59:23
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに興味深いのが救出作戦の効果の推計なのだ。海賊の成功率が最も高い時点・地点で救出作戦が実施されると、翌月の海賊発生確率が89%も低下するのだ。 ただし、救出作戦が終わったら軍艦はまた別の場所に移動するから、この効果は2ヶ月先以後は見られなかったのだ。 (22/27) pic.twitter.com/LAEc26lem6

2019-08-31 09:59:55
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さて、この研究から導かれる含意は何か?それは警備活動と介入(救出作戦)を上手く使い分けるべき、ということなのだ。常に地理的に海賊リスクが高い場所(海峡付近)は重点的にパトロールを行うべきなのだ。でも海賊リスクは時間によっても変化することにも注意しなければらならないのだ。 (23/27) pic.twitter.com/Oyd8OQ1zEF

2019-08-31 10:00:48
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海賊はある場所を「狩場」として、地理的にも時間的にもその付近で一気に襲撃することがこの研究からわかるのだ。でもその狩場は時と共に移動していくのだ。だから地理的に元々リスクが高くない場所では、警備活動よりも、迅速に介入して海賊を地道に潰し、狩場を失わせることが重要なのだ! (24/27) pic.twitter.com/TWTisFiMBt

2019-08-31 10:02:01
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

それから、この研究では余談として済ませているんだけど、ソマリア本土での内戦の激しさと海賊発生件数は「逆U字型」になっていることもわかったのだ。これは以前紹介した「国家の能力」と海賊の関係はもう少しニュアンスに富んでいることを示唆しているのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (25/27)

2019-08-31 10:03:00
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

海賊は一体「どこに」現れるのか?ズバリ、「国家の力が及ばない場所」なのだ。海賊は国家による取り締まりから逃れられるような「聖域」を求めて戦略的に襲撃ポイントを決定していることを明らかにした研究があるのだ。 (1/16) pic.twitter.com/EmHU3w3PyA

2019-08-22 17:57:31
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、政府が強い状態だけでなく、完全な無政府状態も海賊が行い難く、中途半端に政府が弱い(=中程度の)状態が一番海賊がやりやすいのかもしれないのだ。無政府状態では乗っ取った船を港で「守る」ことも難しいことがこの背景にあると考えられるのだ。 正直これだけで論文書けると思うのだ… (26/27)

2019-08-31 10:04:05
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1016/j.polg… からなのだ。 理論的・実証的・方法論的な観点からみて、この論文はソマリア海賊研究の現状での決定版と言ってもいいと思うのだ〜! (27/27)

2019-08-31 10:04:29

女王陛下の “海賊” たち:第二次百年戦争におけるイギリスの私掠船

(補足:第二次百年戦争中はアン女王以後男性君主)

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「国から認可された海賊」とも言える私掠船は、大航海時代以後、ヨーロッパ諸国の政策や戦争にとって重要な存在だったのだ。そうした私掠船の供給の背後にあるメカニズムを、第二次百年戦争(1689-1815年)中のイギリスの私掠船と貿易のデータを統計的に分析することで明らかにした研究があるのだ (1/21) pic.twitter.com/NbUK4sksFl

2019-09-02 12:23:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

私掠船とは、敵国の船の略奪を国家によって認められた民間の船のことを指すのだ。有名どころだと、アルマダの海戦や世界一周で知られるエリザベス朝のフランシス・ドレークなんかがいるのだ。 (2/21) pic.twitter.com/6vrPtPJed2

2019-09-02 12:24:00
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

私掠船の略奪対象は法的には「敵国」に限られていて、自国の船を襲った場合には処罰されたりするから、厳密にはいわゆる「海賊」とは異なることに注意なのだ。それに、大航海時代の私掠船は略奪の認可と引き換えに一定の割合で利益を国に納める必要があったのだ。 (3/21) pic.twitter.com/hu6JJUWX7H

2019-09-02 12:24:34
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

一度は下火になった私掠船をイギリスが再び積極的に活用し始めるようになったのは18世紀半ばなのだ。当時のイギリスはフランスと第二次百年戦争(大同盟戦争/ウィリアム王戦争からナポレオン戦争まで:1689-1815年)の真っ最中だったのだ。 (4/21) pic.twitter.com/NOFyGLcNKy

2019-09-02 12:26:17
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

当時のイギリスが重視した政策の一つが「通商破壊」で、敵国(フランス)の商戦を襲うことで通商活動を妨害し、最終的に国力の弱体化を狙っていたのだ。ここで駆り出されたのが私掠船で、「海事捕獲審判所」を設立し、民間の船に対して私掠の認可を与えたのだ。 (5/21) pic.twitter.com/JuTm5NwwRN

2019-09-02 12:26:50
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この時期の私掠船がそれ以前と異なるのは、略奪から得た利益は船のオーナー(出資者)、船長、乗組員の間だけで分け合っていい、ということなのだ。手続き的な煩雑さはあった(例えば捕獲した船の乗員を証拠として連れ帰るとか)とは言え、商人にとってはビジネスチャンスだったのだ。 (6/21) pic.twitter.com/HY07AxevdK

2019-09-02 12:27:23
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