ぱすイカ二次創作⑮

たぶんみじかいのね 書いたもの https://t.co/lk71qxBACg
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ぱすかる❄ @pascal_syan

盛り上がりが絶頂を迎えた頃。 『それでは、今大会の主催者から、開会宣言をいただきたいと思います』 司会が高らかに告げた。高い高い壇上には、老齢の男性がいた。和服を纏い、杖をついている。だが、その足取りは、老齢にしてはしっかりとしていた。

2019-09-19 09:10:02
ぱすかる❄ @pascal_syan

顔には皺が刻まれているが、その銀の瞳は冴え冴えと輝いていた。衰えなどどこ吹く風よと言いたげな、凛とした佇まいに、誰もが皆、目を奪われた。 「我が名はゲンイチロウ!皆の者、よく集まってくれた。参加チームは、約1万!この中から、真の『最強』が決まるのだッ!」

2019-09-19 09:20:15
ぱすかる❄ @pascal_syan

腹の底に響くような、力強い叫び。 「強者どもよ、戦えッ!勝利への欲望を掻き立てよッ!頂上まで登り詰め、最強の称号を手に入れるのだッ!」 指さすは、天上に輝く太陽。 「これより、サイキョー杯の開催を、宣言するッーーーー!!!」 割れんばかりの雄叫びが、スクエア中に木霊した。

2019-09-19 09:27:24
ぱすかる❄ @pascal_syan

「あの、」 サキはシグルイのほうを見た。 「あのゲンイチロウさんって……」 「ああ。あれが俺の祖父だ」 「エーッ!?」 そういえばヨーコは初耳だっけ。 「エーッ?エーッ?……アアーッ……」 二人の顔を見比べて、何か納得したご様子。 「シグルイさんのおじいさんが、主催だったんですね……」

2019-09-19 09:30:26
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ああ。だが、身内だからといって忖度や不正はないぞ。優勝は実力で勝ち取る」 「ですよねー」 そういう曲がったこと、誰よりも嫌いそうなところがありそう。 開会セレモニーが終わり、参加者たちは一旦解散する。今日の予選試合に選出されたチームは、バトル受け付けロビーへ向かう。

2019-09-19 09:33:40
ぱすかる❄ @pascal_syan

その日の朝、試合がある参加者の端末にお知らせが届く形式だ。約1万の参加チームを、最終的に4組まで絞り、決勝トーナメントを行う。予選の期間が長いだろうということは、容易に想像できる。 「今日は14時から、ホッケ埠頭で一試合あるようです」 オクトーが告げる。初日からさっそく試合だ!

2019-09-19 09:39:30
ぱすかる❄ @pascal_syan

開始までには時間があるので…… 「ユニフォーム着ましょう!」 と、いうわけで、ユニフォーム(和服だけど)を保管しているシグルイ邸へ向かうことに。 程無くして、到着。来るのは二度目だけど、やっぱり……でかい。広い。やばい。何度か来れば、いずれ慣れるのだろうか?

2019-09-19 09:43:47
ぱすかる❄ @pascal_syan

応接室で着替える。前回よりも、ちょっとスムーズに進んだ。ヨーコは相変わらず、たすき掛けで苦労していたけど。 「やっぱりかっこいいよね~!」 「なのね~!」 四人で並んで再確認。オクトーも、ちょっと嬉しそうに、そわそわしている。なんだか微笑ましい。

2019-09-19 09:52:22
ぱすかる❄ @pascal_syan

「少し早いが、会場へ向かうとしよう。観客の反応が楽しみだな」 「そうですねー!」 きゃっきゃっと騒ぎながら、応接室のドアを開くと、 「おお~!やはり似合うな!流石は敏腕デザイナーよ……!」 なんかいた。 おじいちゃんがいた。 扉の向こうに、おじいちゃんが。

2019-09-19 09:55:38
ぱすかる❄ @pascal_syan

あのおじいちゃん、さっき、セレモニーで見たような。 呆然とするサキの背後から、腕が伸びて、ドアを乱暴に閉めた。シグルイだ。 「な、なぜ閉めた!?見えんではないか!おのれ!爺に顔を見せんか愚か者!」 ドンドンドン、とドアを叩く音。 シグルイは素早くドアに鍵をかけた。

2019-09-19 09:58:12
ぱすかる❄ @pascal_syan

「も、申し訳ありません……」 ドアの外から、使用人の弱々しい声が。 「どうしてもと言われまして、その、」 「おのれクソジジイ……」 シグルイが珍しく、罵倒を口にする。眉間には皺が! 「お、おじいちゃんですよね?会わなくていいんですか…?」 「ゆ、ユニフォーム、お礼、しなきゃなのね…」

2019-09-19 10:00:54
ぱすかる❄ @pascal_syan

「……うるさいぞ、あいつは。揉みくちゃにされる覚悟があるなら、開けるが」 「でも失礼ですし……」 シグルイはため息をついてから、そっとドアを開けた。 おじいちゃんが雪崩れ込んできた。 「おおおおおお~、久しいのう、シグルイよ……!」 セレモニーでの厳格さはどこへやら。

2019-09-19 10:04:31
ぱすかる❄ @pascal_syan

どこにでもいそうな好好爺が、孫の顔を見て興奮している。ざっくり言うと、デレデレだ! 「やめろ、触るな、崩れる……!」 シグルイがその両手を掴む。 「ふはははは、力も強くなったな!だが、まだまだ……!どれ、本気を出さねば爺に好きにされるぞ……!」 「ぐっ……!?」

2019-09-19 10:07:51
ぱすかる❄ @pascal_syan

祖父ゲンイチロウの着物の袖が、はらりと下がる。露になるのは……老齢とは思えぬ、逞しい筋肉ッ!! 「お、おじいちゃんもマッチョだぁ!?」 オブラートもくそもない、まっすぐな感想。 あのシグルイが、踏ん張るような姿勢になった。さすがシグルイのおじいちゃん、めちゃくちゃ怪力だ!

2019-09-19 10:10:32
ぱすかる❄ @pascal_syan

しかも、シグルイのほうが若干押されているように見える。つ、つよい!このおじいちゃん、強いぞ! 「……お久しぶりです、ゲンイチロウ様」 主君を救うために、右腕がすかさず割って入った。 「おお、オクトーか。大きくなったのう」 シグルイから手を離し、オクトーのほうを向いた。

2019-09-19 10:14:43
ぱすかる❄ @pascal_syan

くしゃくしゃと、頭を撫でる。オクトーの気恥ずかしそうな顔が、容易に想像できる。 「立派になったな。イカしておるぞ~」 「は、はい、ありがとうございます……」 「もうやめてやれ、髪型が崩れるだろう」 孫が窘めにかかって、ようやく手を離した。この隙に、髪型をささっと整え直す。

2019-09-19 10:20:37
ぱすかる❄ @pascal_syan

「そちらの二人のお嬢さんも、なんと可憐なことか。見る目があるのう、のう?」 「あ、ありがとうございます……?」 ヨーコは困ったように、サキの方を見た。 「カレン……?」 「え、ええと、かわいいってことね」 「エ、エヘヘ、嬉しいのね」 頬に手を当てて、照れ顔。

2019-09-19 10:44:27
ぱすかる❄ @pascal_syan

「素敵なユニフォーム、ありがとうございます、大切にします……!」 「なに、いいのだ。かわいい孫とその仲間たちのためだ、こんなもの端金よ」 目を細めて微笑む。端金って言ってるけど、絶対すごい額だろう。絶対。だって特注だし……

2019-09-19 10:46:54
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ええい、そろそろ引っ込めジジイ。これから試合だぞ、遅れたらどうする」 「なに!早く言わんか!わしもついていく!」 「来るな、鬱陶しい……!」 口調は激しいが、やりとりは仲睦まじい祖父と孫のそれだ。 「せいぜい茶の間で見守ってろ!」 本気で嫌がっているようには見えない。

2019-09-19 10:53:05
ぱすかる❄ @pascal_syan

「……みっともない所を見せたな」 行きの車内で、シグルイが言う。 「かわいかったのネ~」 「なっ……」 「どっちもね、ねっ」 「ね~」 オクトーが堪えきれずに、小さく吹き出した。 「オクトー……」 不機嫌そうな声。 「し、失礼しました」

2019-09-19 11:29:28
ぱすかる❄ @pascal_syan

初陣の舞台はホッケ埠頭。様々なコンテナが積まれており、複雑で入りくんだ地形が特徴だ。コンテナの上に登ったり、コンテナの影から奇襲したり、使い方は様々だ。 観覧席が無い代わりに、ドローン撮影機などで映像を生中継するようだ。なんか、いろいろ飛んでるなあ。

2019-09-19 15:13:52
ぱすかる❄ @pascal_syan

「もう少し賑やかな所がよかったな」 シグルイが呟く。 確かに、こんな立派なユニフォーム、お披露目するなら派手な方がよかったのになあ。 だがご安心あれ。先ほど述べたように、この試合は中継されている。 シローは自宅のテレビの前で、「うわー和服かっこいい」と、感動の涙を流していた。

2019-09-19 15:17:41
ぱすかる❄ @pascal_syan

「な、なんだあれ……」 「カッケー……」 お相手の無名のチームも感嘆の声をあげていた。 「記念すべき初戦だ。華々しく飾ってやろう」 シグルイたちはブキを構えた。 「……俺たちのインクでな」 震え上がる雑兵たち。 彼らはもはや、有象無象。敵ではないのだ。

2019-09-19 15:21:04
ぱすかる❄ @pascal_syan

一方、別のフィールドでは。 「あらまあ、とんでもない展開になりまして?」 チーム「フシチョー・ウィングス」と、チーム「サキモリ」が、なんと初戦で対決することに。 「都合がいいわ」 アヤメは、さして表情を変えず。

2019-09-19 15:28:51
ぱすかる❄ @pascal_syan

まさか、いきなり強豪チームがぶつかるなんて。誰もがこの試合に注目した。 口調だけのお嬢様と、正真正銘のお嬢様。夢の対決である。 「あなた方とは、一度きち~んとお話ししたいと思ってましたのよ」 「愚民と話すことはないわ」 「あら、まあまあ。そう邪険にしないでくださいます?」

2019-09-19 15:31:25