【シナリオ】吸血鬼②

前回の話はこちら https://togetter.com/li/1405154
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@akuochiken

「旦那様……!」 私は、物音が聞こえてきた彼女の部屋に入った瞬間、喉元を掻き切られて床に血だらけで倒れている自らの主人の姿を確認した。 そして、それを見下ろして佇む彼女の姿。 彼の返り血を浴びたのだろう、全身から赤い血を滴らせている少女の姿があった。 「あら、あなただったのね」

2019-09-19 03:13:37
@akuochiken

彼女は身体をこちらに向けることなく、肩越しに私を眺めた。 その口元から大量の血を垂れ流しながら、瞳孔を縦に開かせた怪しく光る目をしながら。 「お嬢様これは……!」 私は驚きのあまり両手で口を押さえていたが、勇気を出して彼女に質問した。 「これって、この男のこと?」 「おと、男?」

2019-09-19 03:18:38
@akuochiken

私は状況が飲み込めずにいた。 「ああ、きちんと説明するわ。私を吸血鬼化の実験台にして弄んでいた男を私の手で葬った、ただそれだけよ」 彼女の口から出てきた吸血鬼という言葉と、彼女の口から除き見える小さな牙が私の中で噛み合った。 「それで、あなたはどうする?」

2019-09-19 03:29:51
@akuochiken

彼女はゆっくりと身体をこちらに向けた。 彼女の胸元は血で濡れ、垂れ下げた両手は血に染まって雫がぽたぽたと落ちていた。 「どう……」 「この男の味方なのか、それとも私の味方なのか。まぁどちらでも私には関係ないのだけど」 「お嬢様……?」 私の驚きをよそに、彼女はこちらに歩み寄ってきた。

2019-09-19 03:42:33
@akuochiken

「えっ……」 私の目の前まで接近した彼女は、表情を変えずに私の胸元に右手を当てた。 と思うと、そのまま私の服を貫通して、私の体の中へ彼女の右手が入ってくる。 「えっ、あっ、えっ、おっ嬢様……?」 彼女の右手が刺さった胸元と彼女の顔を交互に眺めながら声を出した。

2019-09-19 03:49:10
@akuochiken

胸が痛い。 息が苦しい。 まるで私の肺が、臓器が、筋肉が、血が、私の体が全て止まってしまうかのような感覚に襲われていた。 「あなたがこの男の味方をするのなら、私が犯人だと証言するわよね。でもそれは私にとって不都合なの」 「私は……お嬢様の……味方……」 「それを今から事実にするのよ」

2019-09-19 03:59:13
@akuochiken

彼女はそう言うと、その右手を私の胸から抜き取った。 私は苦しくてうまく体を支えることができず、その場に倒れてしまった。 いや、胸が痛い、苦しいという感覚も徐々に消えつつあり、同時に息ができないことでうまく言葉を紡ぐことができず、床にうつ伏せに倒れて口をパクパクさせていた。

2019-09-19 04:02:48
@akuochiken

「私の下僕になりなさい。私と同じ吸血鬼になって、私に永遠に仕えなさい」 頭上から彼女の声が振ってくる。 「あなたの心臓を止めたわ。だって、吸血鬼には不要なものでしょう?」 彼女はそっと床へと座り込み、私の顔に彼女の顔を近づけた。 「もちろん、このままだとあなたは死ぬ」

2019-09-19 04:06:14
@akuochiken

私は残った感覚を手繰り寄せながら彼女の顔を見上げることはできた。 「私に忠誠を誓うなら、あなたを吸血鬼にして生き長らえさせてあげる。もしそうでないなら、私のために、あなたもこのまま死ぬことになるわ」 彼女は更に私に顔を近づけた。 「さぁ、あなたはどっち?」 そう、私の耳元で囁いた。

2019-09-19 04:14:05
@akuochiken

誓います。 既に息すらできず、苦しくて目から涙を流していた私は、声を出すこともできなかったが、確かにそう言おうと口が動いた。 にやりと彼女が安堵の表情を浮かべた気がしたが、次の瞬間には私の左の首筋に彼女の牙が突き刺さっていた。 体の震えが止まらない。 全身から汗が滝のように流れる。

2019-09-19 04:18:52
@akuochiken

全ての体の機能が停止した中で、ただイメージだけが流れ込んでくる。 心臓が止まったはずなのに、体の中を私の血が流れていく。 そうやって流れる血が、私の左肩を通して外へ……彼女の中へと流れ込んでいくイメージ。 反対に、私の中に“彼女”が満たされていく感覚。 そうか、これが、吸血鬼の吸血。

2019-09-19 09:30:46
@akuochiken

「起きなさい、いつまで寝てるのよ」 彼女の声を聞いて私は目覚めた。 正確には、彼女に命令されたから体が起きるように動いた、と感じていた。 不思議な感覚だったが、私はそのまま目を開けた。 私は、私の寝室のベッドに仰向けに横たわっていたのだった。 「あら、不満?」

2019-09-19 09:40:35
@akuochiken

ベッドの横に彼女が腰掛けている姿を感じた。 「どうなったのですか」 私は、という言葉を付け忘れたことに気付いた。 「心配しなくてもいいわ。賊が私の部屋に侵入した。お父様が私を守って犠牲になった。あなたはその様子を見て失神して倒れてここに運ばれた、ということになっている」

2019-09-19 09:46:13
@akuochiken

「そうでしたか」 「だからあなたは黙っていればいいの。全て私が片付ける。そうすれば全て私たちに有利に動くから」 ふと顔を彼女の声のする方に向けた。 いつも通りの彼女がいた。 先程彼女の部屋で見た、まるで獲物を前にしてギラつく瞳をした威圧的な雰囲気ではなく、いつもの優しい顔をした彼女。

2019-09-19 09:53:48
@akuochiken

「それで」 彼女は私の髪に指を入れて顔を近づけた。 「不満だったかしら?」 ああ、そういえばその質問に答えていなかった。 すぐに返さなければという思いはあったものの、少し戸惑っていた。 今の彼女はとてもいい匂いをする。 香水を変えたのだろうか。 だが、この短時間で? なんのために?

2019-09-19 10:13:44
@akuochiken

「いいえ、満足です」 そういった雑念を振り払うためにも、私は率直に答えた。 「そう、それは良かった」 「ただ……何に満足しているのかは、今の私には分かりません」 安堵の表情を浮かべた彼女だったが、無意識に私の口から出た言葉に、同じく予想外な反応を示し、黙り込んだ。

2019-09-19 10:29:41
@akuochiken

「お嬢様」 その呼びかけに彼女は一瞬、顔をしかめたが、それに対する疑念を乗り越えて、私の口から真実の、率直な疑問が出てきた。 「私は、死んだのですか?」 逆に、その質問は腑に落ちたような顔をした。 「人間としてのあなたは死んだわ。そうしなければ、あなたも吸血鬼にはなれなかったもの」

2019-09-19 10:48:10
@akuochiken

彼女はそう言って、ゆっくりと私から身体を離していく。 依然として私は全身の感覚が朧気で身体を動かすことができずにいたが、彼女の言葉はすっと体の中に入ってきた。 正直、吸血鬼のことは全く分からないが、彼女が吸血鬼となり、私が吸血鬼とされた事実をすんなりと受け入れられる体になっていた。

2019-09-19 10:58:31
@akuochiken

「お嬢様」 私は再び彼女に同じ言葉で呼び掛けた。 「私を殺さなくても、私はずっとあなたの味方ですよ」 「……知ってる」 「ではなぜ……」 私はまたも言葉を濁してしまった。 なぜ私を殺したのですかと最後まで私の口から言えなかった。 「あなたと不完全な契約をしたくなかったからよ」

2019-09-19 16:23:27
@akuochiken

彼女は言葉を濁さなかった。 「人間のまま吸血鬼化させると、そのまま屍食鬼(グーラー)へと堕ちてしまう可能性もあるから、私の手で、必ず、あなたを、吸血鬼にしたかった。だからあなたの中の『人間』を先に殺す必要があった、という説明でいいかしら?」 質問を返されたようで、それは回答だった。

2019-09-19 16:30:42
@akuochiken

彼女の真実の言葉は、私の体を満たしていく。 つまり、彼女は私をずっと求めていたのだ。 彼女の部屋に現れた私を見ての咄嗟の判断ではなく、私がどこにいても、必ず私に服従を迫ってきただろう。 そして、私がその手を取ることを確信していたから、あの場で、ためらいもなく、私の心臓を止めた。

2019-09-19 16:40:45
@akuochiken

でも…… 「でも、少し気になることがある」 私の『でも』と彼女の言葉が呼応した。 私の疑念と、彼女の疑念が必ずしも合致しているとは限らないが、恐らくこれから彼女の手によって、ある事実が確認されるのだろう。 「ちょっとあなたの胸を見せなさい。ああ、あなたはそのままでいいわ」

2019-09-19 16:48:58
@akuochiken

彼女はシーツの端に手を掛けてガサッと捲りあげる。 視線を下にずらすと、私の胸元は少し血が滲んでいるのが見えた。 恐らく彼女が私の胸に手を突き刺したときに彼女の手に付いていた血がそのまま移ったのだろう。 「なんでこう給仕の服って脱がせづらいのかしら」 彼女は私の襟元に手を掛けて言った。

2019-09-19 17:03:50
@akuochiken

「いいわ、失神中のあなたを蘇生させるために私が破ったことにしなさい」 彼女は首元に人差し指を突き刺して、そのままツツーッっと指を走らせた。 ぷるんと私の胸元が割れ、胸の谷間が彼女に向かって露出した感覚。 そして彼女はそのまま顔を私の胸元に沈め、ペロリと彼女の舌で谷間を舐めた。

2019-09-19 17:09:05
@akuochiken

「ひぐぅ」 声が漏れ出てしまった。 全身の感覚はまだ朧気であるが、彼女の舌が私に触れるというイメージが私の全身を襲ってきた。 ただそのイメージだけで私の体はどんどんと熱くなっていく。 彼女と濃厚に接触しているという事実だけで全身が蕩けてしまいそうになるほど。

2019-09-19 17:16:30