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2020年4月9日

映画『許されざる者』傑作西部劇のストーリー構造と複数のテーマを分析&解説(ネタバレ有り)

クリント・イーストウッド監督・主演作品『許されざる者』についてのレビューです。 西部劇の「お約束」をことごとく破壊したとも言われる本作の、少し見えづらいテーマ性について分析と解説を試みました。 解釈が様々に可能な、懐の深い作品です。  ※大いにネタバレを含みますので未見の方は注意
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狂猫病 @kyobyobyo2

クリント・イーストウッド監督主演作品『許されざる者』は、何についての物語だったのか? イーストウッドと脚本のデヴィッド・ピープルズはこの作品の内部に複数のテーマ性を詰め込んでいるため、様々な解釈が可能になっている ストーリー構成を読み解くことで、その解釈の一つを提示してみたい

2020-04-09 15:45:43
狂猫病 @kyobyobyo2

まずは三幕構成によって全体を分割するが、本作は特に後半部分の構成を解釈することが難しい 多くのシナリオ教本やネット上の記事とは異なる分割になっている可能性を、あらかじめご了承いただきたい 『許されざる者』はエンドロール部分を除いた本編が、約125分の作品となっている

2020-04-09 15:52:25
狂猫病 @kyobyobyo2

第一幕:オープニング 娼婦の顔を切りつけるカウボーイ(0分)~ 保安官リトル・ビルの家 酒場の主スキニーの相談(24分) 第二幕前半:旧友ネッドとの旅立ち(24分)~ イングリッシュ・ボブの追放(68分) ミッドポイント:マニーとリトル・ビルの邂逅(75分ごろ)

2020-04-09 15:57:17
狂猫病 @kyobyobyo2

第二幕後半:マニーたちが隠れ家へ(80分)~ ネッドの離脱(96分) 第三幕:リトル・ビルの家 カウボーイ殺害の報告(96分)~ 街を去るマニー エンディング(125分) 三幕の比率はほぼ1:2:1でスタンダードだが、ミッドポイントがやや後ろに寄っているのが目を引く

2020-04-09 16:02:14
狂猫病 @kyobyobyo2

第二幕の開始と終了が、主人公マニーの親友であるネッドの加入と離脱に重なっている そして第二幕前半の大部分を占めているのが、老ガンマンのイングリッシュ・ボブに関するエピソードだ この二人にマニーとリトル・ビルを加えた四人のキャラクター性の比較が、本作のテーマを読み解くポイントだ

2020-04-09 16:08:53
狂猫病 @kyobyobyo2

まずマニーとネッドだが、彼らふたりがこの「賞金稼ぎ」の旅に出る動機に注目してみよう 表向きの理由としては、金と義憤だ 特に生活の困窮しているマニーについては、賞金は非常に重要な要素となっている しかし「旅立ちの物語」には、必ずキャラクターの内面の問題が真の動機として存在する

2020-04-09 16:24:17
狂猫病 @kyobyobyo2

ふたりに共通する動機は「若返り」であり、さらに踏み込んだところを言えば「妻による支配からの解放」だ 象徴的なシーンとして、旅立ちに際してマニーは口髭を剃り落とし、妻の墓へ花を供えて別れを告げる マニーの内面の動機をネッドは察知しており、勘のいいネッドの妻にしてもそれは同様だ pic.twitter.com/T3Wo0adhmU

2020-04-09 16:32:43
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狂猫病 @kyobyobyo2

マニーは亡き妻によって精神的に支配され続けていて、それが本人をひどく老いさせている ネッド夫妻の関係は詳しく描かれていないが、マニー一家よりも経済的に充実している理由はおそらく、先住民族出身の妻サリーの才覚によるものが大きいだろう(マニーは息子にサリーを頼るよう言いつけている)

2020-04-09 16:40:38
狂猫病 @kyobyobyo2

老いたふたりのならず者による「若さ」を取り戻す旅、というのが第二幕の骨格だ そしてこの観点に立てば、第二幕前半の重要人物イングリッシュ・ボブのエピソードの意図を明確に把握することができる ボブは外見上マニーたちよりも老いて見えるが、登場時点では稚気に溢れ活力がみなぎっている

2020-04-09 16:46:59
狂猫病 @kyobyobyo2

しかし彼の稚気と活力は、「ビッグ・ウィスキー」というこの街の支配者であるリトル・ビルによって、いとも簡単に引き剥がされてしまう リトル・ビルがこの街をいかにして支配しているのかを示すことも、このエピソードが第二幕前半で果たしている重要な要素だ

2020-04-09 16:51:24
狂猫病 @kyobyobyo2

ビルの支配の仕方は非常に単純で、権威と暴力を裏づけにしているものだ そこには一般的な「法」の存在感は希薄であり、犯罪人に対する処遇ですらビルの独善によって行われている(そしてこれが物語の端緒にもなっている) 「ビッグ・ウィスキー」の専制君主、それがリトル・ビルだ

2020-04-09 16:56:16
狂猫病 @kyobyobyo2

しかし君主としてのビルの能力は、あまりにもお粗末なものだ 彼の統治能力の欠如は、作中では建築能力の欠如として表現されている ビルは部下や大工の力を借りずに、喜々として自宅の建築を自らの手で行っているが、その出来は部下たちからひそかに嘲笑の対象とされている

2020-04-09 17:00:08
狂猫病 @kyobyobyo2

彼がそこで夕日を眺めようと思い描くポーチは歪んでいて、屋根からは終始雨漏りしている 忙しく動き回って雨水を捨てるビルの姿は、「ビッグ・ウィスキー」で頻発する問題に対して気まぐれな暴力でしか対処できない彼の様子を端的に表現している 「雨=街にもたらされる問題」という見立てでもある

2020-04-09 17:06:24
狂猫病 @kyobyobyo2

イングリッシュ・ボブは、リトル・ビルが暴力によって上手く対処できたほうの例だ 銃を奪われ、賞金稼ぎへの警告として蹴り回されたボブは、惨めな老人そのものの姿となって、街への呪詛を吐きながら追放される 入れ替わりにやって来たマニーたちへも、ビルは同じ対処を試みる

2020-04-09 17:12:17
狂猫病 @kyobyobyo2

酒場で出会うマニーとビルだが、ミッドポイントとなるこのシーンまでに、マニーとネッドの差異が明らかになっている 同じ「若さ」を求めて旅立ったふたりだが、その「若さ」には微妙なズレがあった マニーが「若さ」として求めているものは「力」だ 銃を撃ち、馬を乗りこなし、人を殺す能力である

2020-04-09 17:17:10
狂猫病 @kyobyobyo2

一方のネッドが求める「若さ」は「享楽」だ 彼は旅立ってからずっと、どこか落ち着きなく性欲の話を繰り返している(妻、ベッド、娼婦、自慰) ネッドが何よりも楽しみにしているのは、依頼主である娼婦たちに会うことだ それゆえに高熱を出して苦しむマニーを放置し、そそくさと二階へ上がって行く

2020-04-09 17:21:53
狂猫病 @kyobyobyo2

依頼主から申し出された「先払い」にネッドは歓喜し、キッドとともに繰り返し娼婦を抱く 熱から回復しても「先払い」を拒否したマニーとの違いが、そのまま彼らの運命の差に繋がっている 物語の類型として、性欲に耽るキャラクターは多くの場合で破滅する

2020-04-09 17:29:15
狂猫病 @kyobyobyo2

マニーが無意識に求める「力」は、彼がかつて溺れていて、妻クローディアに禁じられた「酒」という形で作中にて象徴されている 豪雨の中でネッドから勧められたウイスキーを断り、酒場でも誘惑に抗おうとするようにグラスを手の甲で押しのける この葛藤が高熱となってマニーを震わせている

2020-04-09 19:51:53
狂猫病 @kyobyobyo2

もちろん「ビッグ・ウィスキー」という街自体が、マニーにとっての「酒」だ この街に漂う香りが、すでにマニーを酔わせ始めていた リトル・ビルから執拗に蹴り上げられることで、マニーは久しぶりの「暴力」をその身で味わい、したたかに酔い潰れてしまう

2020-04-09 19:56:49
狂猫病 @kyobyobyo2

目覚めたマニーが生まれ変わったようにすっきりとしているのは、元アル中が久しぶりの酒を体内へ入れることで感覚を鋭敏にしているのと同様だ ゆえにカウボーイの片割れ、デイヴィー・ボーイを殺害する際にも躊躇がなく、一人冷静でいられる ネッドが「暴力」の陰惨さに怖気づいているとは対称的だ

2020-04-09 20:07:19
狂猫病 @kyobyobyo2

ネッドが自分の失敗をさとり、旅から離脱する場面で第二幕は終わる 「若さ」をほぼ手中にし、かつてのような凶悪さを取り戻しつつあるマニーを見るネッドの視線は、どこか妬ましそうでもあり、同時に畏れを抱いているようにも見える

2020-04-09 20:11:48
狂猫病 @kyobyobyo2

第三幕ではマニーは新しい相棒スコフィールド・キッドとともに、残ったカウボーイのクイック・マイクを仕留める 初めての殺人をキッドは若さゆえの勢いで遂行してみせるが、結局はその重圧に押し潰されてしまう ネッドが拷問の末に殺されたことを聞いたマニーは、もはや誰への遠慮もなく酒をあおる

2020-04-09 20:19:50
狂猫病 @kyobyobyo2

第三幕で描かれているのは「ビッグ・ウィスキー」の支配者の交代であり、そしてマニーから妻への決別だ 「ビッグ・ウィスキー」の街は、アメリカという国家の寓話としての側面が強い 大統領を愚弄するイギリス人のボブが独立記念日に追放されるのは非常にわかりやすい表現だろう

2020-04-09 20:26:52
狂猫病 @kyobyobyo2

狂人に暗殺された大統領ジェームズ・ガーフィールドのように(この事件は作中でも言及されている)、支配者リトル・ビルは狂気を取り戻したマニーによって理不尽にも殺される マニーもまた街を去るが、彼の警告は居合わせた住民や娼婦たち、伝記作家ブーシャンプらによって誇張され語り継がれるはずだ

2020-04-09 20:33:03
狂猫病 @kyobyobyo2

殺人鬼マニーは伝説となり、「ビッグ・ウィスキー」を永遠に支配する 「女を傷つければマニーが殺しにやって来る」という恐怖が住民の心から離れることはない マニーが取り戻した「力」は、他者からの「畏怖」をもって迎えられることとなった

2020-04-09 20:40:04
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コメント

名前はまだない @774rider 2020年4月9日
ハリウッド(国ぐるみ?)が企てた壮大なやらせ、ただのならず者どもを英雄として祭り上げる―の内幕をばらした懺悔の映画だよん。当事者の代表みたいなクリント・イーストウッドがやったから意味があった。だから「許されざる者」。西部劇の終焉を飾るにふさわしい作品。
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