時をかける忠臣蔵
- light_snow
- 4934
- 9
- 0
- 19
読み飛ばして構わない前置き
‥‥という話題がここ数年、12月半ばになると盛り上がるようになっていた折に、
昨日の感染確認が47人で、泉岳寺クラスターとか言われてるという話をしてたら、19歳長男も、もうすぐ16歳の長女もぽかん。「ほら、四十七士。赤穂浪士の」と言っても通じず、「忠臣蔵だってば。討ち入り」に、「なにそれ」「知らん」と返されて茫然。十代には大石内蔵助も殿中でござるも通じない。
2020-06-15 07:33:44「忠臣蔵」が忘れられていっているというのは、5、6年前から時代小説・歴史小説家の中で話題になっていたんでうすよ。もう普通の中高生は知らないねって。ただ一般家庭と比べて文化資本が高いであろう大森望さんの家で、お子さんが知らないってのは、これはかなり失伝しつつあるってことで……。
2020-06-15 09:57:21でも「忠臣蔵」を復活させる大逆転の策はあるのよ(5年前は無くて本当に頭を抱えていたんだけど)、もう絶対に外さない最強コンテンツ化の方法はあるんだよーーーFate/Grand Orderに英霊として出すの! ←間違いない。
2020-06-15 09:59:36この辺のツイートが季節外れのバズりを記録したことで、自分なら「忠臣蔵」をどうアレンジするか?というアイディアがぽつぽつ出ていました。
今回収録した@AwacsSierraAlfaさんの投稿も、こうした流れの一環と思われます。
ここから本編
みかん(おいしい) pixiv:pixiv.net/users/979757 ほめて箱:bit.ly/3JqVeFJ misskey:misskey.io/@AwacsSierraAl…
『時をかける忠臣蔵』 浅野内匠頭は、吉良上野介からの積み重なる侮辱に耐えかねて、ついに江戸城内の松の廊下で彼に切りかかった。 この事件はすぐに場内の人間の知るところとなり、浅野は即日切腹を言い渡された。しかし、その原因を作った張本人である吉良には何のお咎めもなかった。
2020-06-16 19:44:23浅野を慕っていた赤穂浪士四十七士はこの結果を不服とし、主君の無念を晴らすため、ある冬の日に吉良邸へ討ち入りを決行した。 しかし吉良は討ち入りを察知しており、城内には赤穂浪士たちの予想を超えた戦力が待ち構えていた。 一人、また一人と仲間を失いながらも、
2020-06-16 19:44:23自らの仁義を貫き通そうとする赤穂浪士は、吉良の手の者を着実に殺していった。 炭焼き小屋に隠れていた吉良を見つけるころには、赤穂浪士は大石内蔵助ただ一人となっていた。 地面へ無様に尻もちをついた吉良にめがけて、散っていった仲間の仇、そして何より我らが主君の無念を晴らすため、
2020-06-16 19:44:23大石は刀を大上段に大きく振りかぶる。 しかし、吉良は笑っていた。 お前もおれも、仲間が大勢死んだな。それがどうした、と訝しがる大石に、吉良はさらに、おかげでやりやすくなったよ、と続けた。 そして大石の目前で自らの小指にかじりつき、それを噛み切った。
2020-06-16 19:44:24大石は嫌な予感を覚え、刀を振り下ろした。しかし、その刃が届くより早く、吉良はその指のかけらを炭焼き小屋の中へと放り投げた。 それが小屋の床に描かれていた怪しげな模様の真ん中に乗った。模様は一瞬だけ妖しく真っ赤に光った。 次に大石が気が付くと、目の前には吉良も、炭焼き小屋もなかった。
2020-06-16 19:44:24代わりに、目の前には吉良邸の門があり、散っていったはずの赤穂浪士たちがいた。 彼らはみな、大石の様子を固唾をのんで見守っている。 大石はめまいを覚えた。なぜならば、つい数時間前に全く同じ光景を目にしていたからだ。 どうやら、自分は討ち入り前の時間に戻ってしまったらしい。
2020-06-16 19:44:24何が何だかわからないが、使命を果たせないままに結果時間が巻き戻ったというなら、再び果たすまで。 むしろ、吉良邸内の勝手がわかっている分だけ先ほどよりも上手くやれるに違いない。 大石はそう確信すると、やはり先ほどと同じように鬨の声をあげ、勢いよく門内へとなだれ込んだ。
2020-06-16 19:44:25迎え撃つ吉良の手の者と激しく切り結ぶ赤穂浪士たち。 大石が目の前の男の首を跳ね飛ばし、身体を蹴って倒したとき、すぐ横にいた仲間が正面から槍を真っ直ぐに差し込まれた。 ――視界のどこかで例の模様が怪しく真っ赤に光ったように感じた。 そして気が付くと、大石は吉良邸の門の前に立っていた。
2020-06-16 19:44:25赤穂浪士たちも、やはり目の前に立っている。 しかし、今回彼らの顔に浮かんでいるのは硬い意志ではない。困惑である。 ざわつく一同の話を総合すると、彼らはたった今吉良邸に乗り込んだはずなのに門の前に戻ってきてしまった、ということだった。 さっきのおれと同じだ、大石はそう思った。
2020-06-16 19:45:33殺された男に至っては、自身が死ぬときの痛みすらも覚えていた。思い出すのもおぞましいほどに不快な感触だと言う。 とはいえ、やることは同じである。 彼らは再度吉良邸へ乗り込み、一斉に切りかかり―― またしても、門の前へ戻ってきてしまった。 これを、彼らは三回繰り返した。
2020-06-16 19:45:33何度やっても、誰かが死んだ瞬間に巻き戻ってしまうのである。 しかし、四回目は違った。 このとき、最初に死んだのは一番の若い人間であった。 彼が石段に躓いて地面に転がり、そのうつ伏せになった背中へ真上から刀を突きたてられたとき、赤穂浪士の誰もが”また戻ってしまう”と考えた。
2020-06-16 19:45:33