転生したらミミックだったが誰も開けに来ない件(積み)【1】
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いくつかは光や音に反応し、場合によっては殺した獲物を腐らせた匂いで引きつけねばならなかった。 妙な話だが作曲と料理を覚えた。もっぱら餌食を誘い込むための。以前はのんびり時間をかけられたが、今は少女の骸が乾き切る前に次の獲物を捕らえねばならないので必死だった。
2022-05-08 02:25:30それでもどうにか生きものを平らげて、木乃伊は皮の下に筋があるのが見て取れるほどまでには復活し、動かしてもばらばらにはならずに済みそうだった。 節足数本でくるむようにしてそっと箱の中に収めると、さらに獲物がとれそうな場所へと拠点を移した。
2022-05-08 02:28:25後にぽっかり口を開けた隠し部屋はどこかさみしげだった。 水場までつくと、捕食は楽になった。肉と汁気の多い鼠がいたからだ。尾に棘があって恐らく毒を持っているようだったが、箱に傷はつかないし、節足を痛めつけるほどの力もなかった。
2022-05-08 02:30:19瀕死か殺したばかりの獲物は、木乃伊のそばに置くだけでも糧になるようだったが、潰して直接口に入れてやるともっと吸収が早いようだった。 歌ってあやしながら、箱を揺り籠がわりに、赤ん坊でも育てるつもりで餌をやった。
2022-05-08 02:33:23肉片のついた節足をちゅうちゅうと吸う骨と皮ばかりの娘は実に可愛らしかった。 しかしやがてかちりと固いものが節足にぶつかった。歯が生えてきたのだ。
2022-05-08 02:34:38鋸歯状で、伸びるにつれわずかに節足に痕をつけるほどに硬く強く、また噛む力も強くなった。 少女はもう箱の中でおとなしくしてはいなくなり、外へ飛び出すと、ひきつれよじれた動きで跳ねまわりながらみずから獲物を狩った。
2022-05-08 02:36:23水辺の深みにいる針千本と鯰の合の子のような巨魚とかでなければ、好きにさせておいた。 この大食いの魚だけは少女を丸のみにしかねず、危なく鳴ったら駆けつけて箱の中にかくまってやらねばならなかった。
2022-05-08 02:38:03箱ごと腹に収められたら内側から節足を槍のように伸ばしてやわらかい胃と腸を突き破る。あとは箱から出た少女が、腐る前にできかぎり多くの魚肉をかじって腹に収めるのだ。
2022-05-08 02:39:36鋸歯が生えそろうころには、少女はすっかりみずみずしさを取り戻していた。 肌は瀝青炭(コールタール)のように黒いが、ところどころ星のように白い斑が点々と散っている。伸び始めた髪は縮れて白く、脇や股、尻の間にも密に茂っている。
2022-05-08 02:42:56爪は長く厚くとがっている。足指が長く手指に似てものを掴めるようだった。四肢はほっそりしているようで筋肉は発達している。 両目は瞳孔が縦に細く、周囲に星のような斑が散っている。砂金が混じったような煌めく尿、水晶柱そっくりの糞、時折溶けた真珠のような嘔吐をした。
2022-05-08 02:46:57いずれもほとんど無臭だが、体臭と同じくかすかに麝香のようだった。 綺麗好き。用を足したり狩りで汚れたあとは、体を柔軟に折り曲げ捩り、ざらざらした長い舌で指先から股まで丁寧に舐め清めていた。
2022-05-08 02:50:15猫と違って水は恐れなかった。 一方で猫そっくりに箱に身をこすりつけ、ふざけて、あるいは本気で?噛みつきひっかいてきた。箱の上にまたがってくることもあれば、そばで丸くなることもあり、よく箱の中で眠ることもあった。半分蓋を開けておく方が落ち着くようだった。
2022-05-08 02:52:40星空の肌を持つ娘は丸きりの獣ではなく、それどころか優雅に歌うように話し、話すように歌った。 虫や苔からは学べない発音と複雑な文法を操った。初め咀嚼するのに苦労したが、二つは呑み込めた。 「レナア」 それが少女の名前だった。 「カルパゴ」 それが自分に与えられた名前だった。
2022-05-08 02:57:22前世の言葉の空箱(カラバコ)とそっくりの響きだなと思った。実際似たような意味らしい。 でも空箱ではない。宝の箱だ。中に入れる宝もちゃんともうあるのだ。
2022-05-08 02:58:56