京都府立植物園の蝶類の種多様性を島の生物地理学の考えを適用して評価する

京都府立植物園を含むエリアで「北山エリア再開発計画」が取りざたされている。ここでは生物多様性の現況の一つとして、府立植物園で2015年以降に確認したチョウ類の種数を写真も交えてお伝えする。
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今井長兵衛 @medanjin

京都府立植物園で確認したジャノメチョウ類:ヒメウラナミジャノメ(写真)、クロコノマチョウ(2019年9月27日目撃)の2種。 pic.twitter.com/JPpFdZs67w

2022-05-18 11:41:17
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    ヒメウラナミジャノメ:2019年9月27日

今井長兵衛 @medanjin

1964年9月30日現在で京都府から記録のあるジャノメチョウ類は14種(白水, 1965)。そのうち京都市北区西賀茂の里山で見られたのは1960年代半ば7種、1980年代末6種(今井, 1995)。

2022-05-18 11:47:54
今井長兵衛 @medanjin

近年の西賀茂に生息すると推定されるジャノメチョウ類6種のうち近年の京都府立植物園で確認できなかったのは、ヒメジャノメ、コジャノメ、クロヒカゲ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲの5種。

2022-05-18 11:55:48
今井長兵衛 @medanjin

逆に、クロコノマチョウは西賀茂では記録がないが、近年の京都市内で確認し、京都府立植物園でも確認した。従って、京都府立植物園では京都市近郊の里山に生息すると推定されるジャノメチョウ類の7種の29%に相当する2種が確認されていることになる。

2022-05-18 12:03:24


チョウ相のまとめ

今井長兵衛 @medanjin

京都府立植物園で確認したチョウ類:セセリチョウ類4種、アゲハチョウ類8種、シロチョウ類4種、シジミチョウ類8種、テングチョウ類1種、マダラチョウ類1種、タテハチョウ類8種、ジャノメチョウ類2種、合計36種。

2022-05-18 20:16:18
今井長兵衛 @medanjin

1964年9月30日現在で京都府から記録のあるチョウ類は108種(白水, 1965)で、それ以後に記録されたナガサキアゲハを加えると109種。京都市北区西賀茂の里山で1980年代末に確認したチョウ類は47種(今井, 1995)。

2022-05-18 20:30:15
今井長兵衛 @medanjin

京都府立植物園では京都府から記録のあるチョウ類種数の33%、里山環境がかろうじて維持されていた1980年代末の京都西賀茂の種数の77%を確認したことになる。植物だけでなく、生物多様性を保全するため、府立植物園を賢く活用することが重要だ。

2022-05-18 20:39:56


島の生物地理学の視点からの評価

島の生態地理学の視点から京都府立植物園のチョウ類種多様性を評価してみよう。この評価手法は、今井長兵衛(1996)大阪市とその周辺の緑地のチョウ相の比較と島の生物地理学の適用,環動昆 8: 23-34, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjeez/8/1/8_23/_article/-char/ja/ を参照されたい。

今井長兵衛 @medanjin

下図は大阪市と周辺の10緑地における面積とチョウの種数の関係図に京都府立植物園のデータを加えたもの。大阪の都市緑地における面積ー種数関係と比較して、京都府立植物園は面積のわりに種数が多いことが分かる。全域に豊かな植生存在する結果であろう。 pic.twitter.com/QPxBmLEz4T

2022-05-24 20:39:09
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今井長兵衛 @medanjin

下図は大阪市と周辺の10緑地における最も近い山からの距離とチョウの種数の関係図に京都府立植物園のデータを加えたもの。府立植物園は種の供給地たる山からの距離が近く、大阪で得られた回帰直線からの隔たりも小さいが、直線より上にプロットされるので、大阪の緑地より種多様性は高いと評価できる。 pic.twitter.com/IGCevaiJqR

2022-05-24 20:49:25
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今井長兵衛 @medanjin

大阪市と周辺10緑地の種数Sは面積A(ha)と山からの距離D(km)の重回帰式:S=9.32 log A ー0.457 D+11.2 で説明できる。下図はAを2.5~160に固定した場合の距離ー種数関係と各緑地のデータをプロットした図に京都府立植物園のデータを加えたもの。面積24haの植物園は20haの回帰直線のはるか上にある。 pic.twitter.com/voDUEisgRr

2022-05-25 17:45:54
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京都府立植物園のチョウ類の種多様性を評価するのに、大阪のデータを援用したのは、京都市と周辺の緑地のデータが見つけられなかったからだ。

大阪の緑地で種多様性が高いと評価できたのは、服部緑地、長居公園、エルシティ南港、靭公園などであった。それらと比較しても、京都府立植物園のチョウ類の種多様性は段違いに高いと評価できた。その理由はいろいろ考えられるが、いまは触れない。

チョウ類で見られた京都府立植物園の生物多様性の高さは京都府民の誇りである。生物多様性をさらに高め、後の世に残していきたいものだ。


「花とみどり」から「花・みどり・生き物」へ

大阪市立環境科学研究所の研究員であったころ、市民参加型環境調査組織「みどりと生き物会議」の事務局を1991年~1997年まで7年間担当していた。環境・史跡・街並み・植物・昆虫・小動物・野鳥などの現況を定例調査(大阪市内4地域×月1回)や会員有志による身近な環境調査で把握し、成果物として4地域の手作り環境マップ、報告書などを刊行した。そのやや詳細な内容は 今井長兵衛(2007)市民参加型生物調査の進め方,生活衛生 51: 66-84 https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei/51/2/51_2_66/_pdf/-char/en を参照されたい。

この活動を通じて、当時の大阪市の実態を明らかにするとともに、環境を総合的にとらえる市民を少しでも増やしたいと考えていた。活動の中で、「史跡・街並みには興味があるがそれ以外はダメ」、「環境には興味があるが生き物には興味がない」、「植物は好きだが虫は苦手」など、多様な嗜好・価値観をもつ人々の協働が一定程度実現した。

いま京都府立植物園を訪れ、バラ園や観覧温室の素晴らしさに感動する人は多い。その方々の価値観が生物多様性の保全へと向かうことを願う。「花とみどり」から「花・みどり・生き物」へと! アミューズメントパークの要素を大幅に取り入れることは百年の愚策だ。