ルソー『社会契約論』の翻訳について(他の作品にも言及しています)

ルソーの翻訳、特に『社会契約論』の翻訳は誤訳の宝庫であり、その結果ルソーが人民主権を打ち立てたというこの本には書いていない話が広まっている。そこでルソーのフランス語原典をどう読むべきかをツイートしたものをまとめた。
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Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

同書19頁「あなた方に、私の讃辞と義務を捧げることをお許し下さい」。みんな「義務を捧げる」と訳しているが、辞書を引くとdevoirの複数形には「敬意」という意味があると分かる。

2023-12-17 23:47:38
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

Rousseau = Discourse On Political Economy [ Masters] : Rousseau : Free Download, Borrow, and Streaming : Internet Archive archive.org/details/rousse…

2023-12-18 13:57:53
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

Isaac Rousseau — Wikipédia fr.m.wikipedia.org/wiki/Isaac_Rou… ルソーの父、1672-1747 家代々の時計屋 不平等起源論は1754ですでに亡くなっているので、その中の父の話は故人についての話である。

2023-12-18 14:30:04
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

角川文庫の素晴らしい『社会契約論』の奥付けには角川源義の名前が見える。それが息子の代に変わってしまってから、角川文庫は廃れてしまった。角川書店のエンタメ路線が何を残したのか知らないが、角川文庫の優れた本が失われたのは確かだね。二代目が老舗を守るのは難しい。

2023-12-20 23:42:00
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』序文の最後(岩波文庫33p) 「それらの制度から結果として起るべき無秩序を予防し、 いやが上にもわれわれの悲惨を増すにちがいないと思われたその手段からわれわれの幸福を生れさせたもうた者〔神〕」 これは原文には神とは書いていない。この趣旨からは、立法家のことではないか。

2023-12-21 01:19:04
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』(岩波文庫30p)、学者たちは自然法の中身を社会状態になって分かる「利益」に基づいて考えている。この利益をルソーはdes avantages、 l'utilité 、le bienと3度言い換えている。ルソーを理解するには、この言い換えを見つけることが先決。元々文章を書くことは言い換えの連続である。

2023-12-21 09:51:13
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

これに対してルソーは自然状態にある人間に理性先立つ二つの原理があるとして、それは自己保存と憐憫であるとする。動物が殺されないように逃げるのはもちろんだが、動物でも仲間の苦境を救う動画がいっぱい見られることから、動物にも憐憫、同情の感情が本能的にあると見ていいと思われる。

2023-12-21 10:00:55
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

作者が言葉を言い換えながら同じものを指している文章を翻訳する場合には、これを全部違う言葉で訳しても同じものを指していることが分かるようにしなければならない。それが出来ないときは、思い切って同じ言葉で訳してしまうのが、読者に対する親切ではないかと思う。 twitter.com/tomokazutomoka…

2023-12-21 11:00:11
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

岩波文庫の『人間不平等起源論』には後ろにルソーの手紙が訳されているが、何を言ってるのか全く分からない翻訳である。分かって訳したとはとても思えない代物。こういうことを岩波書店はするんですよね。

2023-12-21 22:19:58
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』「未開人が必要にせまら れて獲得する力と敏捷さとをわれわれから奪いとるのは、じつにわれわれの生活の知恵(industrie)なのであ る」(岩波文庫43p)。 どの翻訳も苦労しているindustrieだが、その例が斧、投石機、はしご、馬だから、「知恵、狡知、器用さ」ではなく「産業」ではない。

2023-12-22 14:23:47
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

ルソーの『不平等起源論』のla face de la terre という表現はパスカルのものらしい。 Le nez de Cléopâtre : s'il eût été plus court, toute la face de la terre aurait changée.

2023-12-22 16:09:23
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』序文第12段落 Et comme rien n'est moins stable parmi les hommes que ces relations extérieures …, et qu'(comme)on appelle … comme…, et que でcommeの反復の代用のqueではないか。このqueを関係詞ととる訳書が多いがペンギンの英訳はそうとっている。

2023-12-22 21:39:36
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』(岩波文庫47p)で、文明人の病気の原因として、「生活様式における極端な不平等」となっているが、原文の L'extrême inégalité dans la manière de vivre は「極度に不規則な暮らしぶり」でよいのではないか。inégalitéには不規則という訳語もある。

2023-12-23 10:05:22
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

また、「思索の状態は自然に反する状態であり、冥想する人間は墜落した動物であ ると」(同) の「思索の状態」と「瞑想」も、現代病の原因の話だから、「思い悩む生活」「くよくよすること」と訳せば何の問題もないのに、わざわざ文脈を外れた誤訳をして、後ろにこれが批判された注釈を加えている。

2023-12-23 10:15:54
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「どんな動物も、感覚をもっているのだから、観念をもっている。動物はある程度までその観念 を組み合せさえする」(同52p)。  この「どんな動物」「動物」の中には人間は含まれていない。だからこそ、「(人間と比べて)ある程度まで」と言っているのである。

2023-12-23 21:08:38
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「オリノコ河沿岸の住民が その子供たちの顔に当てがう板の使用を…じつに恐ろしい(affreux)ことであろう」(同53p) affreuxは恐ろしいではなく、自己改善能力のせいで人類が不幸になったなかで、幸福を守った野蛮人の愚かな風習を褒めざるを得ないのは「じつに情けないことだろう」。

2023-12-23 23:43:16
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』(岩波文庫65p) 「純粋に抽象的な存在は同じようにして思い浮べられ、またはことばによってのみ考えられる」 この選択文も一方を否定の仮定文にすると分かりやすくなる。 「もし純粋に抽象的な存在が同様にして思い浮べられないなら、それはことばによってのみ考えられるのである」

2023-12-26 20:03:48
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「彼は自然状態で生活するために必要なものをすべて本能だけのなかにもっていた。そして社会で生活するに必要なものだけを磨かれ た理性のなかにもっていた」(同68p) これでは前半後半とも同じ文体になっているが、原文では前半と後半では時制も趣旨も全然違う。

2023-12-27 13:53:45
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「野生人は、本能のうちに、自然状態で生きるために必要なすべてのものをもっていた。啓発された理性のうちには、社会で生きるために必要なものしかないのである」(光文社文庫98p) ここは光文社の方が分かりやすく訳している。

2023-12-27 13:55:37
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

依存には二種類ある。一つは事物への依存で、これは自然にもとづく。他は人間への依存で、これは社会にもとづく。事物への依存には道徳的な性質が全くないから少しも自由を損わず、悪徳を生み出すこともない。これに反して人間への依存は無秩序なものだから全ての悪徳を生み出す(ルソー、エミール)

2023-12-27 19:35:09
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

われわれの法律家たちが主張するように、未開人にその理性の使用を妨げるその同じ原因が、同時にまた、彼自身の主張するように、未開人にその能力の濫用を妨げる(同70p)。 法律家の主張は「未開人にその理性の使用」まで、彼自身の主張は「その能力 の濫用」なのに、 この訳ではそうは取れない。

2023-12-28 08:32:51
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

わたしたちの法律家たちは、野生人には理性があると主張する。ホッブズは[野生人は理性を行使しないから]もっている能力を濫用すると主張する(光文社文庫101p)。 それで光文社版は主張を分けて訳したのは正しいが、「野生人は理性を行使しないから」は原文にはなく不要。

2023-12-28 08:42:17
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

『不平等起源論』にはcompter pour quelque chose が二回出てくるが、このpour quelque choseは 単独で「何らかの理由で」ではなく、これ全体で「重視する」という意味になる。 quelque choseは単独で仏和辞典の項目になっていて、英語のsomethingの「大したこと、重要な」に相当する意味がある。

2023-12-29 11:01:10
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「このような状況は自然には存在しないから、そこではだれでも束縛から自由であり、強者の法律は無用になっている」(不平等起源論、岩波83p)。 「このような状況」は前文の相互依存の状況なら、束縛から自由云々はおかしい。そこで逆の状況として「自然だけに存在し」としているtextと翻訳がある。

2023-12-29 20:37:29
Tomokazu Hanafusa/花房友一 @tomokazutomokaz

「そしてこれまでただひとつの生活様式しかもっていなかった両性の生活様式のなかに最初の差異が確立したのはこの時である」(同91p)。 家庭を作ると男女の暮らしぶりに違いが生まれたという趣旨なので、「ただひとつの生活様式」ではなく光文社版のように「全く同じ生活様式」と訳すべき。

2024-01-01 00:54:10
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